34 結果的にはよかった
白狼は俺たちの反応を見て一つ頷く。
「二人は分かっていたようだ。少しくらいは驚くかと思っていたが、思っていたよりも頭が切れるようだな」
意外そうだと言葉では言っているものの、少しも笑っていない目は絶対にそう思っていないやつだ。
神楽ならまだしも俺に関しては言葉が出なかったほど驚いただけで、白狼にそう評価して貰えるような奴ではない。
俺たちが何も答えずにいるとぽつりぽつりと語りを始めた。
「今から一〇〇〇年も昔、人間の言う神が『お遊び』で俺たち獣人を作り右も左も分からない祖先らが人間の奴隷となったことは知っているだろう? 身体能力はあった、だが知恵を持たない我々が人間の思い通りに扱われる様を神は望んでいたそうだ」
いかにも知っていますが? という顔を維持するのに大変で内容が右から左へ流れていくが、単語を拾い集めてどうにか理解しようと頑張る。
頑張る努力をしていれば神楽が後で要点を教えてくれるので、それが狙いである。
「我々は反抗した。人間に、神に。だが敗れた」
一体いつの時代の話なのだろうか。ナルジアでそんな話は聞いたこともないのでそれよりも昔の出来事か?
「我々は機を伺うことにし、稀に獣人に似た姿で現れるという異邦人らの訪れを待った。しかし、異邦人が現れるよりも前に神が我々という存在に飽き、知恵を持てるようにした。それで人間と醜く争う様を見たかったのだろうが、我々は人間と手を結ぶことに決めた」
「なるほどな。それでナル――いや、伝承のあれに繋がるんやな」
「そうだ。例の伝承は三〇〇年ほど前だったか、そういえばあいつは異邦人らに倒されたのだったな」
おそらくそれらを経験したのだろう白狼は懐かし気にそう呟いた。
その中でおかしな発言に気づいた俺は首を傾げた。
「あいつ……? 神じゃなくてか?」
「知らないのか? どの伝承を聞いたかは知らないが、異邦人らが倒したのは神の寵愛を受けた人間だ」
叫びたい気持ちをぐっと堪えて俺は例のあれを使ってほしいという視線を送るべく神楽の方を向く。
気持ちは無事に伝わって脳内に直接神楽が語り掛けてきた。
『神を倒したって話じゃなかったのか!?』
『いや、わしも今の話を聞いてラスボス戦を思い返してみたんよ……ラスボスがネームドなんは全然違和感ないし、見た目も神っぽいやつやったし……運営狙ったな』
「Re: Eternal fantasia」
今の話を聞いてこのゲームタイトルの意味を理解できた気がした。
イサベルの本屋にあった「不滅の幻想曲」という題名が「Eternal fantasia」の和訳なのだとすれば「不滅=神はまだ生きている」ということだと予想できる。
ならばそこに繰り返しという意味の「Re」が付いたこのゲームはどうなるのか。
『ナルジアはトゥルーエンドやなかったってこと?』
さすが神楽、俺よりも少ないだろう情報で同タイミングで同じ結論に辿り着いたようだった。
運営がどこまで考えて前作のサーバーを強制的に落とし、消去されたゲームだと言っているのか。
あれが全て運営の掌の上なのだとすればかなり意地が悪いと思う。
「わしらが聞いたんは人間の方で伝えられてる伝承やからな、そっちでは異邦人に神が倒されて平和になった、めでたしめでたし……ってやつ」
神楽がそう言うと白狼は眉間にしわを寄せて不機嫌な表情を露わにした。
握りしめられた手から爪が食い込んだのか血が一粒、二粒と地面に滴り落ちた。
猫になったことで嗅覚が敏感になったのか神楽の方が先に気づいて声をかけた。
「すまん、わしらははぐれもので、人間に交じって暮らしとったんや。今のはわしが悪かった」
「いや、仕方がないことだ。人間め、肝心な部分は伝えずに……」
諦めたようで、それでも悔しさが堪えられないらしい。
話は終わったと思っていたが、よく考えるとまだヒルのことが出ていない。
つまり一番重要なことはまだ聞いていないのだ。
「人間の伝承のあと……異邦人らが去ったあと、どうなったんだ?」
今度は俺から質問する。神楽はさっきの件で切り出しづらそうにしていたので。
俺にしてはよく察したと自分で自分を誉めた。偉いぞ俺。よくやった。
「神側に寝返ったさ。人間は自分の都合がいい方へ流される。奴隷紋なんてもんを見せられた権力者はすぐに我々を裏切った。獣人の子供らが学校に通える計画が進んでいたんだが、そのことについていい話があると責任者が呼び出された。その中にヒルの両親もいた……が、帰っては来なかった」
非常に耳の痛い話である。
確かに、強い方へ寝返る人というのは一定数存在する。それが悪いとは言わないし、事実俺もその傾向があるので攻められるとどうも反応できない。
だが、こういう話を聞くと無性に腹立たしく思えてしまうのはきっとみんなも同じだろう。
「結局、同伴していたヒルだけが全ての汚名を背負わされ帰された。獣人の存在全てを否定しないというところがずる賢いところだな。自らの両親すらも殺せてしまう凶悪な種族というレッテルを貼られた我々を受け入れてくれるのは一部のギルドだけ。お前らがかけられた呪いは差別の目を向けさせたくないという優しい両親が苦悩の末にかけたんだろうな……」
途端に優しい目つきに変わった白狼だが、なんか非常に申し訳なくなる。
俺らはなぜかこうなっただけなんだ。優しい両親がとか、そんなことはないんだ。
「許せないのはせっかく取り潰した教会が表向きの名前だけ変えて、実際は同じ神を信仰していることだな」
いつかまた取り潰すことが目標だと元気そうに笑う白狼の目は、結局ただの一度も笑うことはなかった。
「わしらが勇者になって、倒す相手って誰なんやろ」
「確かに。聞いたことなかった気がするな」
あの後屋敷に戻ってそれぞれ休憩を済ませた後、俺らは冷静になった頭で考察を始めた。
ルウを呼べればよかったのだろうが、今は勉強をしているところだとのことなのでそちらを優先してもらった。
だが、後日内容を聞かせてほしいと言われたので頼りがいのある兄と慕われている身としては頑張って頭を働かせなければ。
「まあそれは置いとこか。あと気になったんが、わしら教会でスキルリストにあるスキル全部取ったんやけど、真のラスボスが神なんやとしたら教会経由で取ったスキルって無効化されるかもしれんくない?」
「俺は教会に行ってなくてよかったってことか?」
「忘れてたんやろうけど、結果的にそういうことになるかもしれんね。必要なんは随時自分で取ってるからわしが教会で取ったんは大したもんじゃないんやけどな、王様らがただで使わせてくれるって言っとる手前使わんってのもあれやし、趣味系のスキルだけ取ることにした方がええかもしれん」
何だかんだ忘れていた教会だったが、あの話を聞いた後では足が積極的に向かないだろうことを予想しての言葉に俺は言葉を詰まらせた。
ふと、目線を落とした先でアピールするかのように重みのある【アルス】を見つけ、俺には図鑑コンプリートの道もあるのだと思い出す。
そうか、釣りスキルとかにSPを割かなくてもいいのか。なら有りだ。行こう。
何を隠そう俺は掌がドリル並みに回転することで有名である。
昨日はキーボードと喧嘩して更新できませんでした。




