32 「二連アッパーは脳に響く」
予約投稿しないまま外出してしまいこんな時間になりました。
せっかくジャンル別日間で上位の方にいたので19時ではありませんが更新させて貰いました。
ブクマや評価ほんとうにありがとうございます。しばらくは感謝の意味も込めて毎日投稿頑張ります。
ゲーム内次の日、店は改装が終了したのと同時に従業員候補を何人か試しで入らせるとのことだったのでNPCらはそちらに任せ、俺は神楽とともにタルタスの町へ向かっていた。
俺らはかっ飛ばしてきたので通り過ぎたが、聞くところによると獣人とやらがいるらしい。
それがどんな種類かは日によるそうでパターン性もないらしく、ギルドにふらっと現れてはクエストを受けているのだとか。
「やーノアと一緒やと目的地にちゃんと辿りつけるからええなぁ」
「噴水からここまで少ししか歩いてないだろ」
「わしやで」
「すまん」
おかしいな、噴水からギルド見えてるんだけどな。神楽には少し難しかったか……。
ギルドに着いて一応中を確認してみたがやはりいなかった。猫どころか獣人もいなかったのでタイミングが悪かったのだろう。まあ、ここに来るということは通える範囲にはいるんだろう。ならばぶらぶらしていれば見つかるのではないだろうか。
俺のもふもふのセンサーと神楽の運を信じるしかない。
「ここらへんなら耳と尻尾出してもいいか」
「せやな、町からそこそこ離れたし」
町中で狐の尻尾は邪魔になるのとかなり目立つのでしまってあるのだ。ただでさえ俺は有名人(?)らしいのにさらにうわさになりそう。初期で選べる獣人はオオカミしかないらしいので俺がプレイヤーとバレると色々問い詰められることになるだろう。面倒だがNPCロールプレイできるのは棚ぼたと言えよう。
だがその理由だと屋敷でだけ出すことにすればいいと思われるだろう。
だが、これにはれっきとした理由があるのだ。
「おい、お前。仲間か?」
早速釣れた。
「狐は珍しい、誰からの紹介だ? そっちの連れは猫か?」
クマのように大柄な男が俺たちの前でにかっと笑う。
そう、明らかな獣人仲間だと分かれば向こうから接触してくれるかもという考えもあった。
ギルドに来る獣人は何人もいるらしいし、仲間で動いているんだろうということはすぐに察した。神楽が。
この世界では獣人の人数が少なく若干の差別を受ける獣人らは団体行動することが多いということなので、仲間であれば歓迎される確率は高いと神楽が言っていた。
うん。こういうのは神楽の方が正しいし。俺には無理だ。
「俺はノア、ここのことはうわさで聞いた。ナルージアで同族を見つけて、こいつも仲間に会ってみたいと言い出してな」
「そうか、丁度猫は村にいるはずだし案内するぞ」
その言葉に神楽はガッツポーズを決める。
掲示板情報だと獣人に話かけても無視されるらしい。特にクマの男は舌打ちまでするんだとか。なのでその人がこうやってニコニコで目の前にいるのに違和感しかない。
クマに連れられて向かった先はその……お世辞にも綺麗とは言い難かった。
折れた木をそのまま使いました! という感じの柱に枯葉の屋根。台風が来たら吹き飛ばされるんじゃないだろうか。
全体的にぼろっとしているのでどんよりとした雰囲気が出ている。これはちょっと。
「デグ、そいつが新しいなかま?」
「おうよ! 珍しい狐だぞー。そうだ、ヒル今どこにいる?」
「ヒルならいつもの場所だよ。初めまして狐さんに猫さん? ミリはミリ。見ての通りリスだよ」
いや、ここは天国だったな!
俺の目がおかしかったらしい。腰くらいまでの背の子がお辞儀をするとふさふさとした尻尾が俺の前でぴょこっと動き、だが女の子相手は犯罪になるので我慢を強いられる俺の目は多分ガンぎまっている。付けててよかったお面。何度救われたことか。
「ミリちゃんよろしゅうな~。わしの耳が出とらんのはなんかお面付けた時に呪いがかけられたらしくて、それは同族にしか解けんらしいんやわぁ。やからヒルさんに会いたいんよ~」
「呪い? 耳しまったままいるのは辛いよね。デグ早く連れてきなよ」
「わーってるよ。ほら、こっちだ」
ああ、ふさふさ尻尾が遠ざかっていく……。これは即刻リスのモンスターをテイムするべきでは?
って俺はテイマーじゃないんだった!! テイマースキルどうやってとるんだよ! てかなんで俺はテイマーじゃないんだよ! 面倒くさがってランダムにしたからだな! 俺のせいだ、うん。
まあでもそのおかげで狐族になれたし……二兎を追う者は一兎をも得ずともいうしな。
デグに付いていくと一本の大きな木にたどり着く。そして上に向かって大声で声をかける。
「ヒルー! 同族のやつが会いに来たぞー!」
「うるさい。ミリと話してたの聞こえたし。村までなら聞こえるって何回も言ったよね」
何度もヒルーと呼びかけるデグの後ろにスタッと降りた少年が煩わしそうにデグに帰るよう促す。
デグはその対応に慣れているのかへーへーと言いながら村へ戻っていった。
見るからに気難しそうな性格の子だが神楽と相性が悪そうに思えるが。
「で、呪いだっけ? 全く、同族なのにそんなへまするとはやるよね。好奇心には勝てないもん、仕方がないよ、ほっと」
双子とは違い、ヒルは神楽のお面に軽くデコピンをする。
同時にぴょこんと生えた猫耳が、尻尾がやっと解放されたとでも言うように嬉しそうに動かされる。
ミリでお預けを食らっていた俺は思わずその尻尾を鷲掴みしてしまい、直後に容赦のない神楽のアッパーを食らった。
「ぷ、ははは」
その一連を見て耐えきれないとヒルは笑い出す。
猫なのに糸目キャラなのか……と思っていた目は単純に瞑っていただけらしく、開かれたその目は普通とは少し変わった、だが綺麗な赤い瞳だった。
白髪に淡紅色の瞳……なるほどヒルはアルビノだったのかと納得。
猫のアルビノはアルビノホワイトと言うんだったか。アルビノホワイトは難聴の確率が高いとか聞いたことあるが、ヒルは聴力に関してなんの問題もないようなので運がいいのだろう。
俺からの視線……というかスタン状態で動けないからでもあるが、その視線で自分が目を開けていることに気づいたらしい。本日二回目のアッパーを受けながらアルビノの人は視力が通常よりも低いから目を閉じても変わらないんだろうな、と呑気に推測してみる。
「ちょい、ノアがサンドバックになってもうてるやん。わしのはしゃーないとして、そんなアッパーしたらノアがおかしくなってまうかもやろ」
「それは失念してた。見られたのは久しぶりだったからつい」
「二連アッパーは脳に響く」
ようやく動けるようにはなったが視界がまだチカチカしている。
今度俺も敵相手に使ってみようかな、二連アッパー。
「あ、天使だ」
「ほら、ノアがおかしくなった」
「一旦絞めてあげた方が恥は少なく済むかな」
「そうかもしれん。ノア、すまん」
「いや、まじでいるんだってそこ」
俺が指さす方には、チカチカと相まって後光が差したように見える天使がそこにいた。
はいはいと言いながら仕方がなしにそちらへ目線を移した神楽が俺を絞めようと詰め寄るヒルの顔をそちらへ向けさせる。
「え、まじやん」
「あれって……」
だが、後光が差した天使は俺たちに気づくと口裂け女のように不気味に微笑んで見せた。
俺は察した。
これはあかんやつ。