31 ぽんと出た
「口座開設にあたって本来なら身元保証人など必要なのですが、ノアさんは大丈夫です」
「……なるほど」
食事後、受付に行く前に先ほどの職員が何やら道具を持って部屋に入ってきた。
道具と言っても水晶と金属板のようなものだけだ。ここでややこしそうなものとか持ってこられると申し訳なくなるので必要なものがこれだけでよかった。
「ではギルドカードをこの水晶にかざしてもらいまして、緑に光れば問題ありません」
職員の指示通りにすると緑に光り、ギルドカードを見ると元々銅っぽい色だったのが銀色になった気がする。ということは次は金にでもなるのだろうか。
「これでギルドと繋がりのある店でギルドカードを使用していただければ口座から引き落とされる仕組みとなります。口座に残金がない状態で使われますと保証人……ノアさんの場合ですとかの方に請求されますのでご注意ください。あれ、さっそく入金されていますね。心当たりはありますか?」
「ある。大丈夫だ」
仕事が早いな。昨日俺が呼び出したときに遅いと言ったことを根に持っているのだろうか。有り得るな、あいつ蛇年だし。(※偏見です。良い子はマネしないでね)
いくらくらい入っているのだろうかとギルドカードをタップしてみると思った以上の額が入っていたとだけ言っておこう。もう一回土下座しといた方がいいだろうか。
「そういえばその金属板は何に使うんだ?」
「ああ、そちらの方々のギルドカードを作るんじゃないかと思って一応持ってきたんですよ」
「……頼みたい」
そんなの考えもしなかった(n回目)。
ついでなので俺が保証人になって口座も開設してもらった。こんな人数の保証人になるのは有名な商人か貴族くらいだと笑われたが。
俺のバックについているのが大きすぎて乾いた笑いのような気がしたが気のせいだと思うことにした。
帰りは結局表から出るわけにもいかず、特別に裏口から出させてもらうことになった。だが、だからと言って油断はせずしっかり【擬態】は忘れない。
昼を食べた後はブラブラする予定だったが、また騒ぎになっても困るので予定を切り上げて屋敷へ向かうことにした。
何度も歩きで行ったから分かるが、あそこで歩行者はすごく目立つし割と恥ずかしいのでバレたとしてもあまり寄り付いてこないだろう。今回はこの人数だし【擬態】も使っているのでオールオッケーだ。
今度は俺がマップを頼りに先頭で歩く。
「あ」
「どうしたんですか?」
「いや、見たことのある子たちが……ちょっとそこに食料を置かせてくれ」
進行方向に丁度この間の靴磨きと花売りの双子と思わしき子らがいたので、前と同じように今回は近くにあった台の上にギルドで晩ご飯用に包んでもらった内の一つを置いておく。この距離なら気づいてくれるだろう。
「「!」」
「!?」
「あ、やっぱりぱぱだ」
「ぱぱだー」
食事なんかに目もくれず迷わず俺の方へ突進してくるのを思わず受け止めてしまいそのまま勢いを殺せずもたれこんでしまったのでみんなの【擬態】が取れてしまう。
だが、そんなこと二の次だと言わんばかりに質問攻めの嵐が襲い掛かってくる。
「ノアの子だったの!?」
「お前子持ちだったのかよ!?」
「食事だけこっそり置くって……」
「ええと、何か事情があるんですよね……こんな小さい子を捨てるだけの」
「よく見れば子供たちと似ているような気もしますね。なるほど、そういうことですか」
「こら、皆さんここは黙っているのが礼儀というものでしょう」
ぐさぐさと刺さる言い方に俺は言い訳すらも言う気が失せてしまった。
確かに子供が一人や二人いてもおかしくはない歳だろう。だが、どんなに少なく見積もろうと5歳はある。これであまり食事が取れず成長していないのだと仮定するともっと上の可能性だってすらある。何歳で子供作ったんだよ俺。
「ママは、いないのかな」
ぽつりと呟いたダァの一言が場を余計に悪化させた。
みんなは大火事をバケツの水でどうにかできるとでも思っているだろうか? うん、普通に無理だよね。だから俺は放置することに決めた。
「誤解は解いてくれたか?」
「いや、誤解よりも混乱の方が強いわ今は」
「デザイナーって稼げるんだな……やっぱこの服いくらすんだよ」
「兄さん考えちゃダメだよ」
放置とは言ってもあんな場所でわいわいやっていれば目立ってしまうので屋敷へ強制連行した。もちろん双子も連れて。
騒がしかった奴らには水を出し、双子らには罪はないのでココアを出した。
ココア初体験の双子は目を輝かせて口の周りにひげを作りながら完飲してくれた。
イブナスが双子の口周りを甲斐甲斐しく拭いてやってるのを微笑ましく見守る一同。
「俺はノアだ。君たちは?」
「ない」
「ないよ」
先ほどの表情から一転してショックを受けたような表情をする一同。イブナスなんか畳みなおしていたハンカチを床に落としてしまった。
「ない」と「ないよ」という名前だったりしないだろうか。しないよな、知ってた。
「じゃあ、なんで俺のことをパパって言ったんだ?」
「仲間だからー」
「らー」
そういって双子は笑顔で耳と尻尾をぽんと出して見せた。
その種類はキツネのもの。仲間だと言われても俺の種族はまだ分かっていないし、耳も当然生えてない。
いや、無意識の内に隠しているだけだったりして。
もしかして俺もふもふになれる!?
「ノアのそのお面、関係あるんじゃな……何その顔、あんたは人間じゃないの?」
耳と尻尾を出そうと頑張っているところメイシュが呆れてそんなことを言った。いや、その発想がなかっただけだし。
そう言い返そうとしたときだった。
えい、と可愛い掛け声とともに双子が猫だましを仕掛けてくるのと同時にパリンと何かが解放される音がした。
「まじないがかかってたねー」
「ねー」
もふっとしたやわらかい何かが背中越しに当たる感覚が。
虫の羽音すらも聞こえそうなほど聴力が上がった気が。
おまけに呆れ笑いしていたメイシュや他の面々の顔が固まった。
もふ。
ふわふわした毛並み。そっと撫でるように自分の尻尾に触れるとくすぐったいような変な感覚がして、本物なのだと実感がわく。狐なのでその尻尾は大きく、抱き枕のように抱えることができた。
「え、やば」
俺はそう言うしかできなかった。
「おーめっちゃお客さんおるやん、ノアどしたんんん!?」
神楽のそんな声を最後に俺はそのまま視界が暗転するのが分かった。
原因は分かりきっている。心拍数の過剰な上昇による緊急ログアウトである。神楽が着たタイミングでほんとによかった。頑張って説明してくれ。
視界に自室の天井が広がり、俺は笑うしかできなかった。
こんなこと初めてVRの世界でもふもふに出会った以来だ。うける。昼寝しよ。
「んで、自分がもふもふになったんが初めてやったからそれに興奮しすぎたって? アホやろ」
軽い昼寝で心拍数を落ち着かせてから再びログインすると神楽がすぐに飛んできて説教が始まった。
ログアウトしても耳と尻尾は健在だったので俺には効かなかったが。
「もともと狐やったとして、同族に会うことがロックの解除方法……? それともわしがもらったお面が関係あるんか?」
俺が全く堪えてないことに気づいた神楽はそのまますぐに考察へと脳を切り替えたようだ。俺には真似できないことなので素直に尊敬する。
尻尾の感覚に慣らしながらステータスを見てみると種族の欄が「狐族」となっていた。
この部分だけ色が他と違うので恐らくレアなものなんだと思う。
「ノア、お面は外せるようになっとる?」
「あ、外せた」
「ならお面も関係あるんやろな……わしは猫の子探さんとなんかぁ」
神楽の中で結論がでたらしい。よかった。
俺は一気に視界が広がったのに目が慣れず、お面は被っておくことにした。
今のとこ視界が制限される以外にメリットしかないしな。
「俺猫族探すの手伝おうか?」
「せやな、もふもふのことはノアの方が勘ええからな。頼むわ」
ということで神楽が休憩を終えたら猫探しの旅に行くことになった。
X(@kokono_10)にてノアとリフルのイラスト乗っけました。
雰囲気知りたいと思われた方ちらっと見てやって下さいー
そして俺の方が上手く描ける! という自信のある方はどうぞ気軽に描いて知らせて下さい。墓を建てる準備はします。




