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29 「明日は雨……いや、槍か?」


 急遽買ってきた10人ほど入るだろう机と椅子のセットだが、足りてよかったと安堵する。

 机の上には所狭しと近くの料理屋でテイクアウトしてきた料理たちが並んでいる。俺が作っても良かったのだがわざわざ屋敷へ戻って作るのも面倒だし、ギルドにあるらしい調理スペースを借りるのもなぁと思ったので買ってきた。

 あまり人がいなかったのでもしかしてはずれかとも思ったが、美味しそうに目を輝かせて頬張っている面々を見る限り大当たりだったようだ。


 どれ、と俺も食べてみる。


 北京ダックのような見た目のそれは出来立てのままボックスに入れたおかげで、パリッとした食感と香ばしい味付けが俺の舌を満足させる。

 以前ルドレイとギルドで食事したときは「肉!!」という感じのメニューしかなかったのだが、こちらはちゃんと野菜も添えられていてしゃきしゃきという葉物特有の食感が健康になったと錯覚させるほど。野菜うまい。


「そういえば、この中に料理ができるやつっているのか?」


「あ、わたし少しやったことあります」


「そうか。それならイオリに任せた従業員が来るまでの間でいいから頼めるか? 無理だったら今日みたいに店で買ってきてもいいし、金は渡す」


 あとでイオリに調理場を作ってほしいと頼もう。

 四階はほんとに部屋すらないスペースなので机と椅子だけがあるような寂しい空間となっている。引っ越し初日でももっとちゃんとしてるよ。


 買いすぎかとも思った料理は男どもの食欲も相まって無事完食し、食器類はすべてボックスの中にしまっておく。洗ってもいないものをしまうのは気が引けるが、【クリーン】のおかげでその心配はない。ほんと便利。


 食後のお茶をみんなに振る舞い、一息ついたところで俺の右隣から順に自己紹介してもらうことにした。


「俺はゲイヴだ。以上」


 これ以上何も言うことはないといった風に切り上げるゲイヴ。あの兄弟の兄で、ネイビーのくせ毛を隠すように後ろで束ねてある。絶対刈り上げが似合うと思うので明日ヘアサロンにでも連れて行こう。どこにあるのか知らんが。

 ゲイヴは冒険者っぽい雰囲気だったので、そういう系統の服を今後着せていく予定である。何だかんだ一番多いのは男の冒険者なので、一番試着してもらう回数が多くなるかもしれない。


「僕はゲイヴの弟のケインです。この間まで薬屋で雑用やってたんですけど、へましてクビになったばかりで……ノアさんにスカウトされたわけじゃないんですけど、その、いろいろ頑張ります!」


 いい子だ。女性陣もいい子すぎて拝んでいるほどいい子。

 髪色は同じネイビーだが、こちらはストレート。いい感じに整えられているのは先日まで働いていたことに関わっているのだろう。ゲイヴと一緒にいればスカウトしていたと言ったつもりなのだが、お世辞と受け取られてしまっているようだ。

 兄が格闘派なら弟は頭脳派といったところか。魔法職っぽい服を着させるのがいいだろうか。


「次は私ですね。以前までさるお方の下で執事を務めさせて頂かせておりました、名をイブナスと申します。マナー方面では多少なりともお役に立てるかと存じます」


 ロマンスグレーのイケオジは執事さんだったらしい。道理で所作もきれいだしほかの人と比べて雰囲気が違うと思った。

 見た感じ大分できる方の執事だと思うのだが、退職理由については触れない方がいいのだろうな。なんならなぜあんなところにいたのかも。

 まあ、そんなことは気にしないでおこう。

 イブナスは執事だというが、どちらかというと紳士的な貴族というのが第一印象だったのでそれっぽい服を作ったし着てもらったのだが、いつか燕尾服を作ってみるのもいいかもしれない。


「んじゃアタシの番だな。アタシはヴィーナ、ヴィーって呼んでくれ。アタシだけ二人も連れてきちまって申し訳ないが、その分働くつもりだ。よろしく!」


 圧倒的姉御肌のヴィーナ。

 燃えるような赤い髪と褐色の肌が特徴的だ。連れてきた二人とは孤児院から抜け出してきた仲間だと言っていたのでこちらも訳ありだろう。

 スタイルは間違いなくこの中で一番だと思うのでそれを余すことなく発揮できる服を作っていきたいところだ。かわいい系、かっこいい系、なんでもできると思うので非常に腕が鳴る姉御である。


「キーはキヅ」


 ヴィーナの付き添い1だ。ズボンの子の方で、喋るのも苦手らしい。

 前髪が長く目元が隠れてしまっているのでフード系とか作ったら喜んでくれるかもしれないな。アニマルパーカーとかありじゃないか?? よし、今度交渉しよう。そうしよう。


「ダミー。ヴィーとキーからはダァって呼ばれてる。かわいいものは、好き。よろしく」


 名前ェ……! 絶対なんかあるやつ!!

 ヴィーナからダァと呼べみたいな雰囲気がばちばちに出ているのでそう呼ぶことにする。そういうあだ名で呼ぶのは苦手なんだがこればかりは仕方がないだろう。

 かわいいものが好きというのは本当らしく、ヴィーナの服にネクタイとリボンの2種類用意していたがリボンの方で髪を結んでもらっていた。

 ロリータ系とか好きそうかもしれない。


「私はシランです。お料理はほんとに久しぶりなのでみんなが満足できるか心配ですが頑張りますね」


 最初会ったときはグレーかと思っていた髪色だが、【クリーン】してみると淡い紫だったらしく一気にお嬢様味が溢れる。

 天然っぽい雰囲気だが、常ににこにこした目の奥が笑っていない気がするのは絶対気のせいじゃない。

 イオリもそんな感じなので気が合いそうである。

 シランには町とかを散歩するような普段着をイメージした服を着てもらいたい。戦闘とは場違いな服を着て笑顔で戦っている姿しか想像できないからである。


「わたしはメイシュ。なにも特技はないけど足を引っ張らないようにだけはするつもり」


 俺が一番最初に声をかけたあの子である。

 驚くことに、体のバランスが、形が、何もかもが俺がよく使っているトルソーのサイズとほぼ同じなのだ。これからちゃんと食べるようになればもう完璧同じとなるに違いない。

 何よりストレートな黒髪は純日本人な俺らから刺さること間違いないだろう。着物とか絶対似合うので着てほしいというか着てくれ。


 ふむ。思ったより色々抱えていそうなメンバーを集めてしまったわけだが、まあいいだろう。

 俺は机の空いた場所にまっさらな紙を広げて四角く書き込む。定規を使わなくてもきれいな四角が書けて満足しているとみんながなんだなんだと覗き込んでくる。


「これはこの部屋のイメージだ。階段がここで窓がここと、ここ。それで間取りとか話し合ってほしいんだ、それをそのまま反映させてもらうから」


「……それって自分の部屋が作れるってこと、ですか?」


「別に作りたければ作ればいいんじゃないか? 微調整は丸投げすればいいんだし、風呂とかキッチンダイニングとか必要なものは忘れるなよ」


「アタシら三人は同じ部屋でいいし、そういうのも考えれば割と広めの部屋になるんじゃないか?」


「俺とケインも同室でいいぞ」


「ならこことここに広めにスペースとって――」


 みんな楽しそうで何よりだ。

 俺はいつの間にか注がれていたお茶をすすって――待て、もしかしなくもこれイブナスがやったのか……?


 そう思って咄嗟にイブナスの方を見ると微笑み返されたので少し怖かった。

 執事ってすげぇ。


 みんなが思い思いに書いてくれた部屋の間取り図を手に俺は屋敷へ戻ることにした。

 ヴァレンティアたちを八岐と一緒に遊んでいるよう言い聞かせて出てきたのでいい子にしているかこっそり見に行くのだ。これでいい子だったらまたこういうことがある時に同じようにできるしな。

 

 皆にはベッドも何もないところで申し訳ないが、屋根と壁がある分いつもよりマシだと雑魚寝をし始めたのでまあいいかと思っている。

 ベッドとか全然忘れてたよな。


 屋敷に戻る前に嫌なことを終わらせようと、いつの間にかメニュー画面に追加されていたイオリのマークをタップして反応を待つ。

 マークからしてすぐにあの場所にいけるものだと予想したからだ。


 数分待って、ようやくワープされるような感覚になった。


「遅かったな」


「こちらにも仕事があるのでね。で、どうしたんですかさっき話したばかりでしょう……ああそうか、時間の流れが違うんでしたね、ゲームとこちらで」


「NPCの従業員を8人雇った。それでこれ、四階の間取りを決めたんだ」


 どうだと手にしていた紙をイオリに渡すと思っていた反応と違い、静かに怒っているような雰囲気を察知した。

 なぜだろう。今回は怒らせるようなことしていないはずなのに。


「あのですね、四階をNPCたちの住居にするのは構わないんですが、うちの従業員はどうするんですか? その反応を見るに全く考えていなかったんでしょう? 全くもう、なら三階の半分を……」


 全然忘れてた。


 なるほどそれは怒られても仕方がないわ。素直に土下座しておこう。

 ちなみに俺の土下座は安い。

 イオリは多分親の顔より見てる。


「時間の進みのおかげでしょうが、早く動いたのは凄いです。どうせ一週間ほどだらだらしてもふもふたちと戯れているものだと想定していたので。これはすぐに運営に伝えておきましょう。きっとすぐに対応して下さると思います」


 誉められた。

 誉められた……!?


「明日は雨……いや、槍か?」


「雨はまだしも槍なんか降りませんし降るとすれば人類は終わりです。これ以上話がないなら切りますよ」


「うい」


「全く、もう」


 その後俺はいい子にしていたヴァレンティアたちと死ぬほど全力で遊んだ。

 

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