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閑話 メリークリスマス


「さってと、クリスマス限定のテイムモンスター用ブラシの素材はこれで最後……か?」


 今日はクリスマスイヴ。

 期間限定イベントのおかげでログインしている人は多いが、やはりいつもと比べて少ない気がする。俺は特に予定もないのでこうしてテイムモンスターの毛並みをランクアップさせてくれるブラシ期間限定品の交換をするべくナルジアにログインしているのだ。別にクリぼっちなんて気にしてないから。


 ただ、素材の入手先が寒冷地帯なためヴァレンティアたちが一緒でないというのだけが寂しい。

 

「はぁーリフルがもっともふもふになったら俺生きてけるのか? 無理だろ」


 死に戻りして即拠点に帰れないのがもどかしい。

 普段ならばリフルに預けて死に戻っていたのだけど、今死ねば集めた素材が失われるかもしれない。運に自信のない俺は近くのワープポイントまで向かうしかないのだ。


 素材を集め始めた当初、割と人数がいたはずなのに気づけばほとんどいない。

 と、いうかちらほらと降り始めた雪のせいで俺の移動圏外にはかなり積もっている。

 持ってきてよかった松明型ランプ。これを持っていると雪を溶かしてくれる優れものだ。リアルにも存在したら売れること間違いなしの商品である。

 俺が買ったわけではなく今日ログインしたら拠点のボックスに入っていたものだ。きっと、というか絶対リウが入れたに違いない。俺でさえ分からないその日の行動を高確率で当てられるくらい変なプレイヤースキルを持っている人物だから。


 帰り道がどちらか確かめようとマップを見るとバグっていることに今更気づく。

 神楽ではないが俺でも迷子にはなる。一度しか来たことがない道をどうして覚えられるというのだろう。しかも今回は来る前と後とで雪の積もり具合が変わりどこも同じ景色にしか見えない。


 マップがバグっているということはきっとボスエリアに間違って入ったか、クリスマスイベントによるものか……。

 クリスマスイベントの詳細はさらっと読んだのだが、例のアイテムにしか目を引かれなかったので少し後悔する。このエリアにボスだなんて聞いたことがないので絶対後者に違いないのだから。


「参ったなぁ」


 早く帰ってブラッシングしたい。

 猫吸いならぬもふ吸いしたい。

 はぁ。


 一か八か、松明型ランプを立てて落ちた方向に向かって歩くことにする。

 30分くらい歩いても何も変わらなければ戻ってくればいい。


 太陽も見えない程分厚い雲を睨みつつどの方角かも分からない方向に足を向ける。

 膝上まで積もった雪が松明型ランプによって溶けていく。少し時間はかかるものの普段からヴァレンティアたちの歩くスピードに合わせている俺にとっては然程苦痛とは思わない。


「ん?」


 目の前の雪からプレイヤーらしき人物が出て来る。麻痺か、眠っているのか。


「寝るな! 起きろ! 眠ったら死ぬぞ!」


 試しにビンタしてみると既に体温はなかった。

 どうやらただの屍のようだ。きっと、雪山で寝たせいで凍死してしまったのだろう。凍死など、時間経過で死んでしまった場合はこうして死体が一定時間残ってしまう。

 怖いね、凍死って。


 俺は死体漁りの趣味などないのでそのまま放置しておく。


 とはいえ、だ。

 明らかに高レベルな人が雪山で寝るなんてへまをするだろうか。

 そして、こうして凍死しているのはこのプレイヤーだけか?


 俺はぐるりと周囲を見渡してみる。一面雪が積もっており、高さは丁度人が横になっていても簡単に隠されてしまうほど。

 今思えばマップが使えないのに簡単に帰れる程地理感があるプレイヤーはそう多くないはずだ。であれば何かに備えて声かけするはず。


「何か、いる?」


 ふと、俺に降りかかる雪が雪でないのに気づく。

 粉雪に変わったものと思っていたが、本当にただの粉だったらしい。急いで先程の場所へと戻る。


 俺が採取していた場所は風上だった。

 それが俺がこうして生き残っていることと関係あるのだろう。

 さっきの、ただの屍がいた辺りの上空に目を凝らす。


「もふもふ」


 それにはすぐ気づいた。


 そして。


「メリークリスマス!! 俺の子にならないか!」


「「――――?」」


 それがリースとマースとの出会いだった。


「君たちはもふもふの素質がある。温かい場所でいいものを食べてブラッシングしたら今よりも格段に粉をまき散らせるだろう。あと、粉を撒くなら風上から、風の向きを考えなければならない」


 そろそろと近づいてきているもふもふたちに振る舞おうとテーブルセットと作り置いていたデザートを何種類か並べる。

 餌付けなんかで好感度が上がるのならばいくらでも出そう。

 それだけの価値は、ある。


「寒いのか?」


 ふと、二匹が細かく震えているのに気づいて俺は期間限定アイテムの素材である白銀の絹糸を取り出して手早く紡いでいく。

 すぐにコートとマフラーが出来上がり、もう目と鼻の先にまで近づいていた二匹に着せてやる。拒むこともなくそれを受け入れた二匹は嬉しそうに俺の髪に尻尾を巻き付けた。


「【テイム】」


 それを受け入れられたとみなした俺は【テイム】を試みるが断られてしまった。

 もう一匹にも【テイム】を使うがこれも断られる。


「「――――」」


「まだ駄目か?」


「「――――」」


「ああ、なるほど」


 俺からすいと離れ、お互いの尻尾を巻き付け合う二匹。

 それを見て、俺は二匹同時に【テイム】をかけた。






「「――――」」


「どうした、寒いのか?」


 ちらほらと降る雪にどことなく寒そうにしているリースとマースにすぐマフラーを編んでやる。

 他の子たちはリフルの中に引っ込んでしまっているので寒くはないだろうが、俺の周りを飛んでいる二匹にはこの気候は寒いだろう。


「――――」


「そういえば、俺たちの最初もこうだったな」


 久々に甘えてくるように頬にすり寄ってくる二匹が可愛く、ボックスからこっそりと金平糖を取り出した。


「みんなに内緒な?」


「「――――♪」」


 ナルジアのときと姿かたちは変わったが、こうしてあのときのように懐いてくれるみんなに何と言えばいいのだろうか。

 ありがとう、とは違う気がする。


「くる!」


「『あー! リースさんとマースさんだけずるい!』」


「めめ!」


「うっうー」


「あーはいはい。屋敷に戻ったら、な? 今日はクリパだし、ご馳走もいっぱい用意してある……今お腹いっぱいにしていいのか?」


「くる……くる!」


「『がまんする』」


「めぇ……」


「うっうー!」


 ルーウィ以外皆が上目遣いでおやつを所望するのに耐えながら俺は頬にかかるリースとマースのマフラーに目を細める。


「メリークリスマス」



メリークリスマス!

予約投稿ミスってました!

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