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25 『俺の弱さ』


「ねえ、ほんとにいいのかな?」


「ノアに何も言わなくてってこと言ってるんなら気にすんな! 抱き着いてやれば何でも許してくれるぞ~!」


「めぇ……泉はまだなのぉ? ノアのとこに戻りたいよぉ」


「もうちょっと運動した方がいいよ、リフルは!」


 視点を移してノアの元テイムモンスターの所へ。

 ハロウを先頭に角兎の子供がヴァレンティアやルーウィに守られながら泉の方へ向かっている。

 リフルはハロウにくっついて引きずられるように歩いているのをやれやれといった風に上空からリースとマースが見下ろしている。

 隠れるように見ているのは皆に見つかれば面倒事に巻き込まれると思っているのか、はたまた何かあった時に奇襲をかけられるように、か。


「異邦人っておれらまだ会ったことねーよなー?」


「エフィおじちゃんがおにーちゃんもそうじゃないかって言ってたよ?」


「んあ? 異邦人って違う世界から来た奴らだろ? ノアは元々()()()()()()()じゃねーか」


「だよねー!」


「そうなんだ?」


 ハロウの発言に同調を示すヴァレンティアを見て「そういうものなのか」と納得するルーウィ。

 残念ながらこの場にツッコミ役は存在しない。


 がさり、と少し離れた草むらから誰かが近づく足音が聞こえる。

 動物やモンスターの類ではない、明らかに人がこちらを伺うように出した音だ。

 しかしハロウが見せる神楽の剣技のものまねに気を取られてみんな気づく素振りすら見せない。リースとマースだけが事態を把握し、空中から近づいて【痺れ粉】を撒き散らかした。


「――んぐ」


「?」


「おにー、なんかきこえたよー」


「葉っぱが落ちる音じゃないかな。ほら、もうすぐ泉だよ」


「わーい! やっぱりおじちゃんがいういほーじんはいなかったんだ!」


「だろ? やっぱりおれの言ってることの方が正しいんだって」


「はろーすごい!」


 やれやれと効果音が付きそうなリースとマースだが、いつも通りの表情のまま定位置に落ち着いた。

 

 そんなこんなで泉まで無事に辿り着いた一行は水浴びしたりお昼寝したりと思い思いにはしゃいでいる。

 ハロウだけ見当たらないのに気づいたリースとマースは慌ててばらけて辺りを捜索する。お昼寝しているリフルの毛の中には当然のようにおらず、木の影、穴の中、どこを探しても見つからない。

 リースとマースの弱点である水の中だけは探せていないが、きっとそこにもいないだろう。


 ハロウの特別なスキルはリースとマースには通用しないので、いつも通り遊んでいるのでなければ攫われたか。


 そう結論付けたリースはマースに知らせようと思った、その瞬間。



 

「――リース?」


 マースはハロウに次いで姿を消したリースを探すのをやめ、一旦皆を集めた。


「マースさん、どうしたの?」


「――リースとハロウがいない。他にもいない子たちがいる」


 マースは冷静に状況を分析する。

 この場に残ったのはルーウィとリフル、あとは角兎の子が一匹。

 攫ったのがにんげんであれモンスターであれ、敵に対抗し得る術を持っているのはマースしかいない。一匹で三匹を守りながらノアの元までいけるのだろうか?

 それに、攫われたリースとハロウ、リフルに角兎の子はいつまで無事でいさせてくれるのだろうか。


「早くおにーちゃんにごめんなさいして助けてもらわないと」


「――だめ、帰り道は危険。ノアならすぐに気づいてこちらに向かってるはずだから、見晴らしのいいここで待つのが最善」


「あ、マースさん!!」


「――――!?」


 

 ――


 


「何なんだ」


 道中動かない点があると思ったら皆リースとマースの【痺れ粉】にやられた奴らだった。

 思った通りの展開にほっとしていたのも束の間、泉に到着したらしい点が一個ずつ消えていくのが分かった。


「『ノアさん、どうしたんっすか?』」


「あの子たちが、消えた?」


「『な――異邦人に気を遣いすぎてあいつの存在を忘れていた! レフ、お前はノアと一緒に来い!』」


 エフィが真剣な表情をして猛スピードで駆けて行った。

 俺が付いていけないことを見越してレフくんを置いていったのだろうが、危ない状況であれば場所は把握しているし、レフくんも連れて行った方がいいのではないだろうか。

 

「『ノアさん、そのままで聞いてください。多分敵は泉の主、スリープフロッグっす。相手を眠らせたところを素早く舌で捕まえて腹の中にため込むんっすよ。大きい獲物ならそのままぱっくんなんっすけど、小さい獲物なら巣に持ち帰って子供の餌っすよ』」


 流石レフくん、俺が全力疾走しているにも関わらず余裕な表情で敵の情報を教えてくれる。俺は喋れないので頷きだけを返しておく。


「『あの子たちはみんなちっちゃいんで、巣に帰さなければまだ助かる……だから旦那が先に行って餌のふりして時間稼ぎをするってわけっすよ。あと、ほんとにすばしっこいんで眠らせられないように気を付けて欲しいっす』」


 それじゃ、と言い残してレフくんまで先に行ってしまった。

 俺はヴァレンティア達の危機と聞いて更にスピードをあげながらボックスを横目で確認する。

 眠り耐性の効果があるものはないか、【探知】と並行して確認していると脳が悲鳴を上げているが、俺のことは二の次だ。


「っはあ、はあ……」


「――――!」


「マー……ス」


 泉に着いたのと同時に視界が捕らえたのは飛びついて来るマースだった。自慢のさらさらした毛は涎なのかところどころベタベタしているが、抱き着くのを避けることはしない。

 【探知】のお陰で残っているのは一人だけだと分かっていたし、動揺することはしない。


「『ノア、後ろだ!』」


「!?」


 神楽と同じ、とまではいかないが、エフィが事前に教えてくれたのでどうにか躱すことができた。ようやく姿を拝見できたそいつは、でっぷりと腹を揺らしたカエルだった。

 別に、爬虫類が苦手という訳ではない。神楽の騎獣である八岐も爬虫類だし。

 だが、直前まで泉に入っていたせいなのか皮膚がぬめぬめしていて妙にリアルなのだ。


「!」


 突進のモーションを見せたので剣を構えて得意のスタンにもち込む。動かなくさせてしまえばスピードも関係ないのだから。


「ぐ、皮膚がっ」


 早すぎて目で追いつけないと分かっていたので勘で剣を振るったのだが、剣先はぬめっとした皮膚を滑り、でっぷりした腹が俺を突き飛ばした。

 どうにか威力は削げたようで、あまり遠くへとばされなかったのが救いか。


 俺はハイヒール草を嚙みながら突進直後の隙を狙って攻撃するエフィたちを見る。

 軽やかなステップで伸びて来る舌を躱してるらしい。徐々に泉から遠ざけているのは巣に帰らせないようにするためか。


「やっと見つけ――うわあ!?」


 急に後ろから現れたプレイヤーはすぐにスリープフロッグの餌になった。

 俺を狙うのでなく新しく来たプレイヤーを捕ったということは少なくとも脅威とは思われていると自惚れてもいいのだろうか。


 ちなみに大きい獲物なので今頃は消化されてしまっただろう。

 こんな死に方は嫌だランキング堂々の一位なので本当に可哀そうだと思う。助けようと思えば助けられたが、ヴァレンティアたちに襲い掛かろうとしたプレイヤーだから助けなかったわけではない。だってエフィたちも助けようとしてなかったし。


「くっ……」


 悔し紛れにジャンプの溜めを狙って毒キノコを握って潰した液を刃に塗った短剣を投げてみる。

 俺のHPも少し減ったが、狙い通り足に刺さった短剣がじわじわとスリープフロッグのHPを減らしていく。若干動きも鈍くなった気がする。


「『ナイスっす!』」


「『っ! 眠らせにくる!』」


「!?」


 結局対策は思い浮かばずの攻撃手段に俺は咄嗟に目と口鼻を覆う。リースやマースの粉がそうして対策できるので一縷の望みにかけてみたのだ。

 戦場で目と口鼻を使えなければ大分不利なのだがこればっかりは仕方がないだろう。


「『ノアさん、突進が!』」


「っ……」


 背を打った衝撃で咄嗟に酸素を吸い込んでしまうが眠くはならない。ならば目か。

 催眠術のように見ることで眠気を誘うのかもしれない。


「マース、【癒し粉】」


「――――!」


「『助かる』」


「『マースさんありがたいっす!』」


 俺自身はハイヒール草で回復する。

 マースの粉は【痺れ粉】と【癒し粉】、【眠り粉】だけ。それもこうして涎まみれになればあまり使うことはできない。

 悠長にブラッシングすることはできないのでエフィたちのために【癒し粉】だけに集中してもらった方がいいだろう。


「ちっ」


 こんなときハロウが、他の子たちがいれば。


「――――」


 俺は、俺だけではこんなに弱いのか。


 

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