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22 『おじちゃんに自慢する!』


 屋敷を一周したタイミングで神楽からの呼び出しがあったので戻ることにした俺は、久しぶりに他人が作る服を着るかもしれないということに気付く。

 ドロップ品や初期装備はカウントしない。


 内心楽しみにしている自分を抑えつつ俺はドアノブを捻った。


「あ、ノア兄――ろーちゃん!?」


「ハローやん!」


「え、何でそんな普通に見つけて来るんですか!?」


 いい反応だ。ハロウも久しぶりの面々に喜んでいるようである。

 神楽のことだけ一瞬誰だお前状態になっていたが、声を聞いて分かったらしい。

 ヴァレンティアたちを見つけるとすぐにそちらの方へ跳んで行った。


「ハローちゃんとリマはんが揃ったら勝ち目なくなるやん」


「あのコンボがまた……」


 あのコンボとは何だろうか。

 それよりもリウが精一杯背中に隠しているトルソーが気になるので早く見せるように促す。


「これはね、ノア兄の子たちみんなも意見したからね」


 そう前置いて見せたトルソーは……少し露出が多かった。

 まあ、とはいっても肩部分が少し出ていたりといっただけで、神楽の方が圧倒的に露出部分は多い。


 着物なのに着物じゃない。その一言に限るだろう。下は普通にズボンだし。

 特徴と言えば花魁と同じくらい胸元が開いていることだろうか。

 ノースリーブのインナーがあるのでお婿には行ける。

 あと、首にリボンが巻かれてあるんだが、これは?


「そのリボン、ティーちゃんらとおそろやで。あとそんなに前が開いてるんはリフルちゃんが入りたいからやし……」


「許した」


 俺の反応を気にして皆が俺の周りを取り囲み上目遣いでこっちを見上げているんだぞ!?

 許せない奴いるか?? いねーよなぁ!?


 トルソーから試着を選択して一瞬で着替え終えると、我先にと懐に入り込もうとする皆。

 何これ天国通り越して我慢地獄なんだが。


 スクショを押す手が止まらないでいると、ゾルが控えめに笑っているのが見えた。

 インナーが寒くないようにもふもふだったりと気を利かせてくれたのは恐らくゾルだろう。メタいが、半裸で歩き回っても総合値的に一定の温かさがあれば寒さを感じないので三人にはまず思いつかない気配りだ。ありがたい限りである。


「ハロウ、頼めるか?」


「う? うっう~」


 ひそひそと俺がハロウに特徴を話していくと、快く頷いてくれた。


「う!」


『!?』


 思考錯誤しながらも、何度か擬態した後にハロウは一人の女性に姿を変えた。

 見た目は似ているだろうが、中身はいたずら好きなハロウのまま。表情をころころと変えては決めポーズを取ってみせるが、ゾルは静かに泣いてほほ笑んだ。


「俺が寝ている間とか、ハロウに頼めばいつでもしてくれる。余計な世話かもしれないが」


『いや……ありがとう』


 ハロウは飽きたようで、元に戻ってもいいか俺に尋ねて来るので頷き返してやる。お礼にいつも渡していたマシュマロは持っていなかったので、また今度買いに行かねばと思いながらハロウに謝った。

 ふとゾルの方を見ると、今の一瞬の間にいなくなっていた。

 

「エフィのとこに行ってくる」


「ん!?」


「脈絡なさすぎませんか!?」


 ゾルの声が若干エフィに似ていたのもあって、今猛烈にあの残念兎に会いたくなっている。

 脈絡はない。


「じゃあわしもレベル上げに行ってくるわぁ」


「それは確かに……」


「むー……そうだね。ルウ、私たちもレベル上げ行くよ!」


 結局部屋決めは早い者勝ちということで、俺たちはようやくばらばらになった。

 リウとルウは一直線にここまで来たらしいし、神楽のレベル上げを聞いて思い出したのだろう。別れる時に悔しそうな表情をしていたのに我慢出来て偉い。


 エフィの所へ行くと言ってもここ、王都ナルージアからカサヴェまでは大分遠いのでどうしようかと悩んでいると、庭の噴水からワープできるようになっていた。

 どうやらリエタではどの噴水でもワープできるようだ。ルドレイの村にも確かあったはずだし。向かう途中で寄って解放したらかなり便利だろう。


 という訳でカサヴェに到着。

 以前と違ってそこらにプレイヤーが目立つ。プレイヤーとNPCの差はほとんどないのだが、言動が特徴的だったりというプレイヤーは分かりやすい。逆にNPCのロールプレイをしているという変わったプレイヤーは自分から言い出さない限り分からないのだ。

 ……そういえば俺たちはその変わったプレイヤーだったか。


「地図のおっちゃんに挨拶しとくか」


「くる!」


 ハロウについても追加してもらわないとだしな。

 縁はなるべく大事にしておくべきだ。何がきっかけにテイムスキルがもらえるか分からないし。


「ノア!」


「ルドか」


 後ろから聞き覚えのある声がして振り返ると、懐かしいあの顔が。しかしどこか疲れたような表情をしているように見える。


「どうしたんだ?」


 注目を浴びているような気がしたので俺はそのままギルドの方へ向かおうと足を進める。

 ルドレイも俺のスピードに合わせて付いてくるようなのでそのまま問いかけることにした。


「ほら、異邦人がいっぱい来てるだろ? パーティの勧誘がウザくてな。シディスを一人で倒せないような弱い奴は邪魔だと断ってるんだが……」


「大変そうだな。お疲れ様」


 どうやらプレイヤーたちはルドレイを主要キャラだと認識したようだ。確かに、ギルドでも雰囲気からして他と違うし、勧誘から逃れることはできないだろうな。


「そういや……また増えたか?」


「ああ、紹介がまだだったな。この懐で寝てるのがリフルで、袖に隠れているのがハロウだ」


「……テイマーじゃないんだよな?」


「残念ながらな」


 リフルは寝たまま気づかないでいたが、ヴァレンティアやルーウィ、リースとマースは一度会ったことがあるので元気に挨拶をした。

 ハロウを紹介しようとさっきまで揺れを楽しんでいた場所を見てもいない。周囲を確認して、ルドレイの崖のような背中を一生懸命登っているのを発見した。


「すまん。付き合ってもらえると助かる」


「はは、村のガキたちもよくやるから大丈夫だ」


 そうこうしている内にギルドへ辿り着いた。

 元々賑やかな場所ではあったが、プレイヤーが来たことでかなり込み合っている。提示版の前なんか特にだ。


「参ったな」


「あーノアさん! こっちで受付どうぞー!」


 どこも長蛇の列ができているのでどうしたものかと悩んでいると、空席だった受付に人が入って俺を呼んだ。確か、シディスのドロップ品を買い取ってくれたときの受付嬢だ。

 「誰だあいつ」みたいな視線やひそひそした声を無視してそちらへ向かうと困ったような顔をして笑いかけてくれる。


「異邦人が多くて地元の人たちから苦情が多くて……それで、受付を分けているんですよ。本日はどうされましたか?」


 プレイヤーに聞こえないようにかひそひそと小声で事情を説明してくれた。

 分かってはいたが、俺は異邦人だと思われていないようだ。

 隣のルドレイも受付嬢に同意するように強く頷いている。


「なるほど……どこも大変そうだな。今日は前と同じようにこっちの、ほら、おいで。このハロウのことも追加で記載して欲しくて」


 登頂してルドレイの頭から景色を楽しんでいたらしいハロウを抱き上げて受付嬢に見せる。

 すると、くすりと笑って俺のギルドカードを受け取ってくれる。


「畏まりました。ノアさんって可愛い子ばかり連れていますよね。テイマーじゃないのは驚きましたけど、納得ですよ。こんなに可愛かったら怪我させられませんもんね」


「デバフだけ助けてもらってるな。後ろで応援してくれるだけでやる気も出るし」


「テイムっていうよりペットだよな。確か今連れてないモンスターでも仲がいい奴いるんだっけか?」


「ああ、ルーウィの家族とかな。後で会いに行くつもりなんだ」


「『おじちゃんにいっぱい友達ができたって自慢する!』」


 笑いあっていた二人は笑顔を凍らせ、俺とルーウィとを交互に見やった。

 あれ、ルドレイに言ってなかったか。


「待て待て待て。角兎の子供を連れて来たのか!?」


「角兎の子供をさらったら群れで報復に来るって……あわわどうしましょう」


「さらってない。本人の意志だ。親の許可も得てある、なー?」


「『ねー』」


「なんだよ親の許可って!?」


 徐々に大きくなっていく声を諫めながら、俺は一から事情を説明することになったのだ。

 全く。俺が無責任に親と子供を引き離すようなクズだと思われているのは心外だ。

 いくらもふもふしていたとしても、親子ならばきちんと俺に下さいと直談判するし、時と場合によっては親子ごと連れていくつもりなのに。

 レフくんが群れのリーダーでなければ一緒に連れて来たかったのだから。


 そういえばルーウィの弟妹たちはもう生まれたのだろうか。

 非常に楽しみである。


 いつまでも受付を独占するわけにはいかないので後ろの男性に譲り、例のおっちゃんの元へ向かう。


「久しぶりだな」


「おー狐の兄ちゃんか。ん? なんだ、ルドレイの知り合いだったのか」


「知り合いっていうか、俺の家族の恩人だ。覚えられてるってことはノアもここで高え地図買わされたんだな」


「値段相応の地図は買った」


「ルドレイも狐のこういうとこ見習いな」


 どうやらルドレイもおっちゃんの合格をもらっていたらしい。他に合格した奴はいないのか聞いても最近は俺と猫の兄ちゃん――神楽だけだという。

 

 思った以上に話が弾み、いつの間にか外は暗くなっていたので宿に泊まるかと考えていると、ルドレイがこっちで借りている家を貸してくれるらしい。

 丁度明日村に戻る予定だというので同行したいことを伝え、俺は割と綺麗な家の客室で一晩明かしたのだった。


 

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