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2 【異形と分かり合えし者】

 

 既にバレているようなので勢いよく草むらから飛び出す。そこにいるはずの声の主を見るために。

 ゴブリンに囲まれてはいるもののゴブリンの背は低く、上から円の中にいる声の主が丸見えであった。

 

 朱色の丸いフォルム。それで飛べるのかと思うような小さくふわふわとした羽根。ぬいぐるみのように大きくくりくりした瞳。もふもふした毛皮に隠れて、もはやあるのかもわからない足――ヴァレンティアだ。


「どうしてここに――まてよ」


 朱色に同化して分かり辛かったがヴァレンティアのあちらこちらに赤い液体が付いている。まさか、血?

 きっと……いや、絶対に痛いだろう、かわいそうに。それでも泣きわめくことなく俺との再会を喜んでくれている姿に胸が張り裂けそうになる。本来なら俺も彼女に応えて再会を喜ぶところだ。だが。


「誰がヴァレンティアの身体に傷を付けた? 嫁に――いや、絶対に許さんが、もし、万一、1億分の一にもヴァレンティアがこの傷のせいで嫁にいけなかったらどうしてくれんだああん?」


「キ、キィ」


「ああ゛? 知らねえよ」


 何が誤解なんです、だ。ウチの可愛い可愛いヴァレンティアからちょっかいをかけるとかあり得るわけない。

 聞いたことがある。ゴブリンは知恵を持つと。しかしあくまでモンスターの中では賢い方だというだけで、人間に例えるなら小学生低学年並みの知力しかないらしいと。

 小学生、つまり好きな子には悪戯をしてしまうお年頃。

 分かる。ヴァレンティアは可愛いからそうしたい気持ちは痛いほど分かる。だがな。


「それはつまり『娘さんを僕に下さい!』的なアレか!? いいだろう、受けて立とうじゃないか。ヴァレンティアと仲良くしたくば俺に勝ってからだ!」


 長剣の如く木の枝を構えた俺に対してゴブリンの中でもリーダー格の一匹が持っていた短剣を足元に捨ててこちらに来た。

 後ろに控えたゴブリンたちも手出しはしないようにか各々武器を捨てている。キリッと俺の顔を見つめるリーダーゴブリンを見て俺も木の枝を近くに放った。


「……武器はフェアじゃない、と。少しだけお前のことは認めてやろう」


 1on1

 得物は素手。勝敗はどちらかが降参するまで。

 目線だけでその確認をし、審判役を買って出たゴブリンが俺が捨てたなけなしの木の枝を真上に掲げた。


「キィ!!」


 勢いよくそれは振り下ろされ、勝負開始の合図をされる。

 精々腰ほどまでしかないゴブリンだが小回りが利き、気を抜くと懐に入り込んでくる。こちらもフェイントを交えつつのカウンターで一進一退の攻防を繰り返すこと十分。


「はぁ……はぁ、やるな、お前」


「キキィ、キィ」


「はっどうだか。だが、友達なら認めてやろう」


「キィ……」


 俺たちは夕日に照らされながら拳をぶつけ合った。

 俺も奴も疲労困憊。俺はLv1なので攻撃力が足らず、奴も奴で腕の長さと言うリーチが足らず攻撃力が今一歩という決め手に欠ける状態だった。

 しかしそう殴り合っていると分かり合えるもので、背景は夕日ではないもののそれなりに仲良くなれた気がする。


『レベルが2に上がりました。SP1を取得しました』


『【言語理解】【受身】がスキルリストに追加されました』


『称号【異形と分かり合えし者】を取得しました』


 なんか色々貰えた。

 【言語理解】は有能そうなのでSP1を使って取っておく。


「『オレナマエディック、オマエナマエ』」


「……びっくりした」


「『?』」


 キィキィ鳴いていたさっきと違い片言ながらも何かが聞こえる。

 先程取った【言語理解】の影響だろう。今思えばなんでさっきまで会話できたのか不思議で仕方がない。


 言葉足らずではあるが理解できない程ではない。レベルが上がるまでは頭の中で補完しよう。


「俺はノアだ」


「『ノア、オレナワバリミトメル』」


「ここお前……いや、ディックらの縄張りだったのか。ヴァレンティアを攻撃したのは縄張りを守るために……そうならすまなかったな、血が上ってつい」


「『イイ、オレヴァレンティア、ホゴシヨウ、シタ。オレコワガラセタ、スマナイ』」


 話題に上がったヴァレンティアは俺の足元できょとんと首を傾げた。血だと思っていた物は果物の汁で、ゴブリン――ディックたちは保護しようと取り囲んでいただけのようだ。そうならそうと言ってくれればいいのに、全く。


「『オレカリイク。オワカレ』」


「ん? カリ……狩りか。そっか、食べなきゃ力はでないもんな。あ、水場ってここら辺にあるか?」


 



 

 あの後ディックに水場を教えてもらい、そこは弱いモンスターが水を飲む場所だから絶対モンスターに手を出すなと念押しされた。弱い魔物同士で暗黙のルールとやらがあるようだ。

 穴場的なやつらしいので見つかるか不安だったが地図にピンが刺さっていたのでけもの道を辿っていくと小さめな池にたどり着いた。地図は最初から全てが表示されるものではなく、歩いた箇所が広がっていくタイプであるので先に何があるか分からないドキドキ感があっていい。ただ街がどこにあるのかだけは示していて欲しかった。


 安全確認のため木陰から様子を伺うと小動物、いや、モンスターが水を飲んでいたところだった。小動……モンスターは俺の気配に察するや否やびくりと体を震わせ警戒態勢を取ったので攻撃される前に声をかけることにした。


「俺はノアだ。ディック……ゴブリンに教えてもらって来た。場所を少し貸してもらうが、休憩するだけだ。攻撃はするなとディックから念を押されている」


 一見普通の兎に見えるが、モンスターである証に頭に小ぶりの角を生やしており、おそらく初心者が狩る類だと推測する。武器はそもそも持っていないのだが危険性がないことを示すために両手を挙げて手のひらを相手に見せる。


「くるる」


「俺の家族同然とも言えるヴァレンティアだ」


 駄目押しに以前からの定位置である頭にいたヴァレンティアを地面に降ろして挨拶させる。もふもふ同士が仲良くしてるのは眼福なので友達とかになってくれないかなとか邪な気持ち十割である。


 ちなみにヴァレンティアだが、ナルジアをプレイしていた際に初めてテイムした子で、中盤キャラのくせに当時一番雑魚いと言われていたテイムモンスターの一種であるタイニーバードという種類のモンスターだ。名の通り凄く小さく、シマエナガを想像してもらったら分かりやすいだろう。色々食べさせている内にラグビーボールほどの大きさまで成長し進化しかかったのだが、ボールを投げてモンスターを捕まえる昔のゲームで例えるとBボタン連打で必死に進化を止めていた。

 実際はレベルアップ毎にアナウンスされる進化表示をキャンセルし続けただけともいう。

 

 進化すると大きく鷹のようになってかっこいいのだが、如何せんもふ度が俺の最低基準値を満たさなかったので却下だった。

 このゲームにいるのかも分からないタイニーバードであるヴァレンティアが、しかも最後にお別れを告げた時と同じ姿かたちでなぜここにいるのか分からないが、きっと愛の成せる技だ。多分。知らんけど。


 テイマースキルがないのと、圧倒的にレベルが足りないのでヴァレンティアをテイムできてはいないが、一向に離れていく気はなさそうだし離す気も当然ない。

 ヴァレンティアは元々応援バフなし担当だったのでテイムできていなくても支障はない。

 やっぱりヴァレンティアは最高である。


 いけない、脱線してしまった。


「『驚いた。攻撃も、捕まえようともしないヤツがいるなんてな』」


「残念だが、捕まえたいと思うにはもふ度が少し足りんな」


 もふ度が残念な角兎は目を丸くした。俺も丸くする。

 凄く、ネイティブな発音をしてらっしゃる……実際話しているわけではないのだけど。頭の中に直接声をかけられている感じ。可愛い感じを想定していたのにかなり渋めの声をしている。そこそこ年上な方のようである。


「『それは良かったと言っていいものか……我らモンスターの言葉を解するとは奇妙なスキルを持っているんだな。それにあのディックと知り合いだと?』」


 くっくっくと悪役っぽい笑いをする残念兎の声と見た目にギャップを覚えつつ警戒が解かれたのでその場に腰を下ろす。

 

「そのディックと拳を交えた時に、な。それにしてもディックやティアと違ってお前の話し方は流暢に聞こえるが、何でか分かるか?」


「『ふむ、スキルを【鑑定】すればいいんじゃないか?』」


 【鑑定】は生憎と持っていない。おそらく【観察】のレベル上げをしていく過程で進化するのだと思われるが……一応使ってみるか。


「【観察】」


【言語理解】

 自分のレベルよりも低い、もしくは同等の相手の言語を理解することができる。


「自分よりレベルが低いと流暢に聞こえるらしい。つまりお前のレベルは1か2ということだな」


「『これでもレベルは10なんだがな』」


「おかしいな。ちなみにディックは分かるか?」


「『前は15だったと記憶しているが』」


 これもバグか? それともレベル10以下はみんな流暢に聞こえるとか?

【観察】のレベルを上げて【鑑定】にすればもっと詳しく分かるだろうか。


 とにかくレベルを上げるために【観察】をしまくることにする。残念兎はヴァレンティアに手(?)を引かれて水浴びしているので少しだけ周りを警戒して。

 ちなみにヴァレンティアは――タイニーバードは泳げないので二匹は浅瀬にいる。一応分類的には鳥なのに空も飛べず、泳ぐことも出来ず、陸でも走りはそんなに速くないときたら何ができるんだろうか、というのが前作でのテイマーの総意である。


 スキル系も【観察】できることが分かったが、二度手間をなくすために【鑑定】に進化させてから改めて確認することにする。


 幸いここは森、しかも水場。草花は大量にある。【観察】対象には困らないだろう。

 採集不可能な草――所謂破壊不能オブジェクトも所々に見受けられるがさほど問題ではない。


 さて、ボックスが埋まるのが先か【観察】の進化が先か……。



 

  *



 

 名前:ノア Lv2

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 30(+5)/35

 【MP】 20/20


 【STR】 10

 【VIT】 10

 【INT】  10

 【MND】 10

 【DEX】  10

 【AGI】 20(+7)

 【LUK】 20(+3)


 残り(+8)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】


 ◇スキル(SP2)

 ・鑑定系

 【観察Lv1】

 ・その他

 【言語理解】

 


 

 *


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