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16 「記憶を飛ばしてあげる(物理で)」


「せや、全然違和感がなさ過ぎて突っ込めんかってんけど……リフルちゃん、やんな?」


「めめ!」


 わちゃわちゃした会話を遮るように神楽は俺の腕の中を指さしてそう言った。そこには俺に撫でられ続けて喜んでいるリフルがだらしない姿を見せており、神楽に名前を呼ばれてシャキッと返事をしたものの再びへにゃぁっとなってしまっていた。


「くる!!」


「「――――♪」」


「め!?」


 神楽の持つバスケットの中からぴょこんと順番に顔を出すヴァレンティアにリース、マース。ルーウィは続いて顔を出したもののどう接していいのか分からず再びバスケットの中に戻ってしまった。神楽からバスケットを受け取り、何を思ったのかリフルもそちらへ移ろうとする。


「流石に入りきらないだろ、ちょ、壊れるから!」


「めめぇ!!」


「ノア兄さん、良かったらこっちの籠あげましょうか? こっちのほうが広いと思うので」


「すまん助かる」


 別にリフルが太いとか、そういうことを言っているのではない。単純にバスケットが小さいのだ。

 テイマーならばスキルなどで別空間に送ることが可能なのだが……ん? そういえば俺、ナルジアでもあの機能を1回も使ったことないな。大き目の騎獣に歩くのが遅めの子たちを乗せて移動していたはずだ。

 でもあいつがいそうなのはこの辺りにはなさそうなんだよなぁ……。


「ジンラク、バイトリザードの登録はしなくていいのか?」


「リウちゃんらに全部持ってかれて忘れてたわ。ありがとなぁ」


 流石に夜中ということもあって受付には二人だけが座っていた。冒険者の数を見ても普通に回せる人数だとは思う。

 その冒険者たちは俺たちの一連の流れを若干引き気味に見ているので受付は今フリーだ。

 神楽が受付へ移動するので俺たちもぞろぞろと後に続く。


「こんばんは。騎獣の登録ですね?」


「それと依頼の完了報告よ。途中で人数が増えちゃったから報酬の増額をしたいのだけど」


「畏まりました」


 受付の二人で仕事を分け、慣れた手つきでこなしていくのをじっと見ていると男の方の職員が首を傾げてぽりぽりと頬を掻いた。


「じっと見られても困るんですが……」


「すみません」


 俺はふいと目を逸らそうとして気づく。俺仮面付けてるから分からないはずでは?

 じゃあ、職員は何を言いたいのか。


 背に背負っていた籠の方に目を向けるとリフル、ヴァレンティア、ルーウィの順に積み重なって職員の手元をじっと見ていた。リースにマースも同じように肩の上でじっと見ている。

 何かあるんだろうかと俺も皆見ているところを見るとシャツの袖に青い宝石のカフスボタンが付いているのが分かった。なるほど、それは皆見るわけだ。キラキラしたものに目が無いからな。


「ほら、イサベルもキラキラしたのつけてるだろ? そっちにしなさい」


「あら。キラキラしたものが好きなの? ほら、これはどう? ガラス玉よ」


「ぼくも! ほら、これなんかキラキラしてるだろ!」


 動物に嫌われる体質らしいフォルスがここぞとばかりに剣の柄についた飾りをアピールしている。ウチの子たちはあまり人に好き嫌いがないタイプなのだが、其方には目もくれずにいるので少しばかり驚く。

 だがイサベルが見せてくれたガラス玉も一瞥するだけですぐに職員の持つものに視線を固定した。


「ルーウィ? なんで職員の方のばかり見てるんだ?」


 唯一話すことのできるルーウィに聞いてみることに。

 【言語理解】まじで有能だな。使える奴とと使えない奴の違いが分からんが。


「『なんかねー、すごく、おいしそーだなって』」


「美味しそう?」


「なんや? まさかマジで話せてるんか??」


 神楽の驚き様に「言ってなかったか?」と返し、【言語理解】のスキルの説明を簡単にした。俺も詳しいことは分かっていないので考察してもらえると助かるな、と下心100%の説明である。

 大体どのくらいのレベル差があったらどのくらい聞こえる~等の補足も忘れない。


「でもナルジアのままのレベルやとしてもリフルちゃんは20台やろ? 大きくても10あるかないかくらいのレベル差や。片言でも分からんかったらあかんのとちゃう? どうみても好感度は限界突破しとるやろうし、余計にな」


「そもそもノア兄さんのテイムモンスターたちみんながこっちにいることからおかしいんですよね。割と色んな掲示板潜ったりしてたんですけどそんな話聞いたことないし……レベル差が近くても全く分からないのって今のところナルジアの時の子たちだけですよね? そこら辺は運営に聞いてみないと」


 とのことだ。

 ちなみにリウは二人が各々見解を述べている中ニコニコと俺の隣に立っていた。つまり俺はリウ側の人間ってわけだ。少しショックだ。


「……ルーウィくんはそのカフスボタンをおいしそうだ、って言ったのよね? フォルス、取って」


「了解」


「え……!?」


 イサベルの命令でカフスボタンを盗られた職員は怒るでもなくただただ混乱している。

 俺たちも急な展開に付いていけずに頭上にクエスチョンマークを――


「ちょい、普通説明してからやろ、実力行使は」


 ――浮かべていた。神楽以外。


「そうですね。乱暴をすれば訴えられてしまいますよ」


 ……ルウくんも除いて。

 結局俺とリウだけだ。付いていけていないのは。


「それほどこれが危険ということよ。ねえ、あなた。これはいつ、どこで手に入れたの?」


「はえ? ……あ、えと、昨日……人助けをしたお礼にって貰ったんだ。幸運のまじないがかかっているから毎日肌身離さず持つといいって。え、危険って」


「この場にいる全員に第二王女の名のもと、箝口令を敷くわ。わたくしはイサベル・リエータ、今日、この場で話した一切を忘れなさい」


 いつの間に出入り口の前に移動していたフォルスが満面の笑みでぱきり、ぽきりと拳を鳴らした。


「忘れられない人はぼくに言うといいよ。物理的に、記憶を飛ばしてあげるから」




 


「一人くらいは……って、思ったんだけど」


「あの状況でそれはないやろ」


 あれからすぐにちらほらといた冒険者は我先にと出ていき職員二人と俺たちだけとなった。職員も関係ない方の女性は奥へと移動している。一応仕事なので帰れないということだろうか。

 1回くらいは記憶を飛ばしてみたかった……などと呟くフォルスを無視して、俺はイサベルの手に持つカフスボタンを【鑑定】してみる。


 ・誘魔の宝石

  モンスターを興奮させ、おびき寄せる宝石


「誘魔の宝石……?」


「あら、ノアは【鑑定】持ちだったのね。調べる手間が省けて助かったわ」


「誘魔の宝石ッ!? なんで、そんな!」


 ウケる。


 いや、そんなことを言う場面じゃないんだろうけどさ、漫画とかでよく見る光景を目の前で、しかも自分が当事者で……となったらそれしか感想がでてこないのだ。

 しかしモンスターを興奮させる効果があるのにルーウィたちはおいしそうって思ったわけ……? 謎なんだが。


「ノアのテイムモンスター……じゃないわね。その子たちにとっての一番興奮することが『食べること』だからじゃないかしら。テイムモンスターのほとんどは戦闘を強いられ、それが興奮していると錯覚に陥っていると推測されているの。誘魔の宝石はそれらの興奮を増長させる効果を持つから危険なのよ」


「ノアがテイムモンスターを戦闘で使うとしてもバフとかデバフをかけてもらうくらいやしなぁ……。それよりもノアの手作り料理に興奮するのも無理ないわぁ」

 

「そういえば、リフルの事もギルドカードに記載してもらえるか?」


「へ?」


 八岐と同じ……とは言いたくないが、もし万一何かがあって、うちの子たちに疑いが向いたとき信頼をして貰えるようにきちんとした証明が必要だ。100%はないのだから備えられることは備えなければ。


 職員の方に追加で記載してもらい、俺はホクホク顔でいると盛大なため息をつかれた。


「ほんとに気が抜けるわね、ノアを見ていると」


「よーわしのこと色々言ってくるけどノアも大概やからな?」


「??」


「気になるところで話を遮らないでくださいよ、ノア兄さん」


「ルウ! ノア兄に文句を言ったら駄目だよ!」


「ああもう! 姉はややこしくすんな!」


 むすぅっと拗ねたリウの世話を俺に投げられ話は進められる。


「やっぱり、誘魔の宝石は違法とかなんですか?」


「そうよ。持っている者にも刑罰があるくらい厳しく取り締まっているの。でも最近は偽装されているものも多いし、見慣れているあたしでも気づけなかったもの。あなたは特別に見逃してあげるわ。……その代わりきちんと我々に協力する必要はあるけどね?」


「冒険者にテイマーはあんまおらんけど、異邦人がたくさんここに来出したらそれこそ大騒ぎ、大問題やったな」


「異邦人にテイマーは多いと聞くからな」


 神楽の言い方だとまるで俺たちは異邦人じゃないように聞こえるのは気のせいだろうか。

 だがそうだな。実際リアルに冒険者をするならばコスト面や躾ける時間をもろもろ加味するとマイナス方向に寄ってしまうし、わざわざテイマーを選ぶ冒険者は少ないだろう。

 というかフォルスも堂々と会話に入っているのに普通に驚く。お前もこちら側ではなかったのか。


「一番の問題は彼に誘魔の宝石を渡した人物、なのだけど……」


「順当に考えてわしら【勇者候補】の敵やろな」


「でしょうね」


 ふむふむと頷く俺。

 しっかり理解しているぞ。要は敵が工作してきたということだろう?

 それを見抜いたウチの子たちは凄いということだ。正確にはその意図を察したイサベルが一番凄いのだが。


「貴方が知っている情報を全て話しなさい」


「はい。ええと老婆、でした。階段で荷物をばらまいてしまっていたので拾って、ついでに行先まで送り届けて……あれ? 送り届けた……? いや、そのままそこで分かれ……」


 途中までは普通に話していた職員だったが、記憶が定かでないのか顔を曇らせて必死に思い出そうとしている。


「記憶操作まで念入りに、ということね。これじゃあ見つけ出すのは困難ね、すぐにお父様に報告しなくちゃ」


イサベルがちらりとフォルスを見やり、フォルスは1つ頷くとベルトに下げていた宝石を何度か叩いた。

すると宝石はトカゲへと姿を変え、そのままギルドを出ていった。生き物らしい感じはしなかったので、恐らく魔道具的な何かだろう。


「ついでにノアとジンラクのことも報告しなくちゃ。……あ、貴方たちはどうしようかしら。勇者に推薦できるのは二人までって決まりがあるし……」


「ならばぼくが推薦しよう。さっきから試してみてたけど、個々の能力は下手すればノアやジンラクより高そうだ。この二人ならぼくの名誉に傷がつくことはないだろうし、逆にさせて欲しい」


 試したって、とリウの方を見ると笑顔でハートを作って来た。ので、ルウの方を伺う。


「ああ、殺気を飛ばしただけですよ。少し、姉の過激ファンのような視線を感じたのでつい」


「私はファンサをしてあげただけだよ~」


「気配を消して移動するたびにこちらに向かってポーズをされたときには鳥肌が立ったな」


 それは俺でも鳥肌が立つと思う。

 え、何? リウお前俺が視線を向けるとき絶対目合ってるよな? 目何個あるんだよ……。


「大丈夫よ。取って食われるわけじゃあるまいし」


 俺が固まっているのを王様との面会に緊張しているのだと勘違いしたのか、イサベルがそうフォローしてくれる。

 でも、違うんだ。違うんだよ、イサベル……。


俺はリウの視線を再び感じて背筋を震わせるのだった。

 



 

 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 125/125〈+12〉

 【MP】 50/50


 【STR】 36

 【VIT】 25〈+30〉

 【INT】  25

 【MND】 25

 【DEX】  25〈+45〉

 【AGI】 134〈+10〉

 【LUK】 77


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】【勇者候補】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv3】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *


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