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14 「まさか、婚や――」


「案外快適やね」

 

「くるぅ」

 

「『すごい、すごーい!』」

 

「ぐる、るる……」

 

「ん? なんや、文句あるんかいな?」


「……」


 バイトリザードもとい八岐(やまた)と名付けられたトカゲ。

 曰く、立派に八本の首を持つ蛇になって欲しいとのこと。いや、無理だろ。しかも酒飲んで倒されるやつじゃないか。


 まあその八岐だが、頭のところにでっぱりのようなものがあるのでヴァレンティアやルーウィは神楽に支えてもらいながらではあるが、アトラクションを楽しんでいる。

 別に。ルーウィも向こうに行ったからといって拗ねてなんかないからな。

 こっちにはまだリースとマースがいるもんな。


「そこを左よ。そう、そのまま道なりに進んで」


 イサベルにとっても予想外だったのは八岐のバフとでもいおうか、あるいはデバフかもしれない。

 馬にとって八岐は天敵らしく、後ろで走っていると通常の時よりもスピードが出る。体力的な心配もあるが、都度神楽による【回復】が行われているのでスピードは速くなりこそはすれど減速はただの一度たりともない。


 現在の先頭は俺たちで、白馬が必死に八岐から俺を守ろうとしているらしく必ず一定距離を保っている。

 次いでイサベル、神楽たちという順だ。

 だから二日かける予定だった目的地ももう目前である。


「って、ジン止まれ!」

 

「!?」


「ぎゃうん」


 口に噛ませた手綱を思いっきり引っ張ったのか、可哀そうな悲鳴と共に神楽らはその場に止まる。そして俺とイサベルも手綱を引いて馬を止める。

 神楽らが止まらないと俺らも止まれないからな。


「何かあったん?」

 

「いや、【探知】が狂ってる気がして」

 

「ああ、あいつの縄張りに入ったのね」

 

「あいつ?」


 俺はラグくなったマップを見て舌打ちを零しながらイサベルに尋ねる。あいつというのが寄りたい所なのだろうと思われる。

 

「あいつは元々そんななのよ。極力……その、人と会うのを避けてる。多分、その【探知】にひっかからないように何かしたんだわ。場所は分かってるから、ここからは歩いて行きましょうか」

 

「分かった」

 

「八岐はここにおいとく?」

 

「!」

 

「いや、こんなでも壁くらいにはなるか。やっぱついてきぃや」


 元から置いていくつもりなどなかったくせに、わざと好感度を上げて下げた。なぜだ、なぜ中型の動物になった瞬間サディストになるんだ……。

 歩きとなったので神楽からヴァレンティアたちを受け取り、辺りの木を確かめていたイサベルがこっちよ、と俺らに付いてくるよう促す。


「イサベルの言う『あいつ』との関係性を聞いてもいいか?」

 

「あら、言ってなかったかしら、ウチのお抱え騎士よ。一人で町に出るなんて許してもらえないもの。でも付いてきて欲しくないからここら辺でぶらぶらしてるように言ってあるの」

 

「「あっ(察し)」」


 俺らは一時離脱し、八岐の影に隠れてこそこそと話し合う。


「絶対戦うやつ」

 

「そんでめっちゃ強いやつやん」

 

「どうする? 戦う? 話し合う? 戦う?」

 

「戦うが多いなぁ。まあ実際そっちの可能性の方が高いやろうし。騎士ってことはリマはん使ったら好感度下がりそうやな。ノアはまだ剣に慣れてないやろし……わしがいくしかないんか」

 

「すまんな」

 

「何を話してるの?」


 話がまとまったところで相槌がないことを不審に思ったイサベルが振り返り俺らに声をかける。

 咄嗟のことだったが事前に考えていた言い訳を述べる。


「俺の髪がジンのボタンに絡まってな」

 

「ふぅん。長いものね。それより、そろそろだと思うわ」

 

 幸い違和感なく受け入れられたようで、俺たちは元の配置へと戻る。

 ピリピリとした雰囲気から逃れようと深呼吸すると、リアルな獣の匂いが鼻を刺した。思わず顔を顰めてしまうが、仮面を付けているため誰にもバレていないようだった。


「うわぁ……」


 若干引いたような神楽の声。それもそのはず、辺りの木が何者かによって剣で切り刻まれた痕があったのだ。ところどころで切り株があるのでおそらく切り倒されたのだろう。

 俺は微かに鳴る素振りの音を耳にしてイサベルにそのことを伝えると、おそらく目的の人物だろうとのこと。

 なので方角を伝え、神楽を先頭に音のなる方へと向かう。


 素振りの音が止み、向こうもこちらの存在に気付いたことを知る。

 先頭の神楽が相手を目視できたようで僅かに戸惑った。


「何者だ」

 

「怪しいもんやないで~って、な?」

 

「強者か」

 

「……っ!?」


 八岐の影が邪魔だったので覗き込むような形で「あいつ」の姿を見ようとした。直後。

 短く切りそろえられた髪がふわりと舞ったかと思うと、次の瞬間には神楽の目と鼻の先まで距離を詰め、剣を交わせている。フェストの不意打ちといい、神楽は動体視力が人外なのではと思うことがあるが、今回もそうである。

 【観察】のお陰で視力はいいものの、思考が追い付かない。


「う……らぁ!」

 

「!?」


 神楽がボックスから即座にもう一本短刀を取り出して素早く横に薙ぎ払う。相手はすぐに後ろに下がり、にやりと笑って見せた。


「見たことない型だ。楽しめそうだな」

 

「はいはいストーップ。フォルス、そちらは例の候補よ」


 あ、ヤバそう。と思って俺も加勢しようと剣に手をかけるとイサベルが俺の前に出て大きな声でそういう。

 するとややあってから剣はおろされ、不服そうな顔をこちらに……というかイサベルに向けた。

 

「あ、イサベル様いたんですか」

 

「知ってたくせに」


 高くもなく、低くもない中性的な声。仕草や立ち方は男性のようだが、どこか女性らしさも感じる不思議な人だ。

 フォルスと呼ばれていた人は八岐の身体を避けて覗き込むように俺の方を見て来る。てか邪魔だな八岐。


「君も、そうかい?」

 

「知らん」

 

「……ぷ、ははは。そうだね、イサベル様はきっと何にも言ってないんだろうから知らなくて当然だ」


 神楽に負けず劣らずの笑いようで腹でもねじれるんじゃないかと心配するほど爆笑した。どうやら俺の返しがツボに入ったようである。

 ひぃひぃ言っているのを見て、唯一フォルスと対峙した神楽が頭に疑問符を浮かべた。


「こいつ、ほんまにさっきの奴かいな?」

 

「ジンも似たようなもんだぞ」


「変なところでツボに入るんだから……」


 丁度水場が近くにあったので馬を放して休憩させる。

 ヴァレンティアたちも疲れただろうから馬とは少し距離のおいた場所で遊ぶように言って、その様子をスクショしようとしていたとき。ふと、悪寒がして俺は腰に差してあった剣を咄嗟に抜き、そのまま後ろに振りかぶった。


「わお。こっちも負けず劣らずって感じだ」


「ヴァレンティアたちに傷でも付いたらどう責任をとるつもりだ」


「受け止めてくれると信じてたさ」


 目線だけでヴァレンティアとリース、マースにもっと下がるよう伝え、慣れている三匹は戸惑っているルーウィを連れて神楽の方へ避難した。ウチの子賢すぎじゃないか?

 と、まあ。安全になったので俺は短く息をつき、目を輝かせてこちらを見ているフォルスをキッと睨んだ。何の反応もない。……あ、そういや仮面を付けてたんだったな。

 

「気は済んだか?」

 

「十分」


 ツボに入っていたのは演技だったのか、と俺は必死に両手で握った剣に力を籠める。フォルスの方はというと片手で、まだ余裕があるように見える。

 気は済んだと言っているのに一向に緩めない剣をどうしたものかと思案していると何かが駆けてくる音がして、フォルスの力が緩む。その隙を逃さず剣の腹で滑らせ、得意のアッパーでスタンに持ち込む。


「っく……すごい、な」

 

「嘘だろ、まだ動くのか……」


 フォルスは少しよろけただけで、入ったダメージも微々たるもののようだ。素手とはいえあの双蛇ですらスタンになったのに。俺は若干引く。物理的にも、精神的にも。

 強いやつだろうと踏んでいたが、それにしても強すぎだ。おそらく、現段階で倒せる異邦人はいないのではないだろうか?


「その馬、君の馬じゃないだろうによく懐いているね」

 

「動物には好かれやすい性質でね」

 

「それは羨ましい……本当に……」

 

 フォルスが先程力を緩めたのはあの白馬が走って来たからだった。なんの合図もなしにいきなり向かってきたら誰だって驚くだろう。俺は似たようなことを何度か経験しているのでそんなに驚きはしなかったが。

 にしてもこの馬いい子過ぎるな。


 ……【異形と分かり合えし者】の効果か。


 すっかり存在を忘れていた。

 そうだ、モブ全般の初期好感度が高くなるんだったか。動物は選択肢から外していたので全く気付かなかった。道理で気性の荒い子が俺に懐いているわけだ。


「なるほど。いいんじゃないですか、この二人なら御父君も納得するでしょう」

 

「でしょう? でも、正直あたしもここまでとは思わなかったわ。ルドが連れていたから実力はそれなりにあると踏んでいたのだけれど」

 

「ルドが! それは納得ですね。片方ぼくのものにしたいくらい」

 

「言っとくけど、あくまで時間稼ぎのためよ」

 

「俺らにも分かるように話して欲しいんだが」


 ぼくものだとか、時間稼ぎとか。ちょっぴり面倒そうなワードにもしかして、と頭の中で浮かびつつある三文字。


「まさか婚や――」


「今王都で勇者探しが行われているの」


 そっちか。


 ぽんぽんと肩を叩かれ振り向くと笑いを堪えた神楽がこちらを指さしていた。

 取り敢えず殴った。


「勇者、か。それがどうしてイサベルの父に関係するんだ?」


「命令を出した張本人が候補の一人も見つけていないなんて文句を言われるでしょう? だから、あたしが代わりに探すよう命令されてたの」


「なるほどな」


「つまり御父君って王様のことやないかい!」


「ナイスツッコミ」


「鋭いわね」


「いやぁ、お褒めに預かって……じゃないわ! ノアも気づいてないんかい! 今の流れ!」


 話が急に流れ出して理解が追い付いていないでいると神楽に怒られてしまったので一旦整理をする。


 イサベルが王都に戻る原因となった招集命令。

 その命令を出したのがイサベルの父親。

 つまり、イサベル=王女様?


「!?」


「やっと思いついたんかいな。相変わらずもふもふに関すること以外やと抜けとるなぁ」


 イサベルの方を見ると1つ瞬いてから優雅にお辞儀をしてみせた。あ、これ本物だ。と脳が即座に理解した。

 確かに王様も貴族の一員だ。だが王女ならそうと言ってくれよ、流石に王女相手にため口はヤバいだろ。


「ようやく正体がバレたから改めて。あたしは、わたくしはこの国の第二王女、イサベル・リエータよ。この場で、非公式ではあるけれど貴方たちを勇者候補とさせてもらうわ」


『称号【勇者候補】を取得しました』


《ワールドストーリーに関するお知らせです。只今王都にて勇者選別会が行われています。ゲーム内時間二週間以内に王都に到着、または各所で起こる関連イベントをクリアすることで【勇者候補(仮)】の称号を得られます》


「ノア、これ運営的にはもうちょい後の想定やったやろうな。王都って5個目の都市やし」


「気にしちゃ負けだぞ」

 

 こんなワールドアナウンスがされたらゲーム内で二週間後には王都にプレイヤーが殺到するだろう。期間が設けられているということは期間外になると称号が貰えない、あるいは貰える可能性がゼロに近くなるということ。ガチ勢なら全速力で向かってるだろうし、ガチ勢に感化されてエンジョイ勢も余程我が強くない限りは後についていくと予想される。


 なんてことをしてくれたのだ、この王女は。


「今すぐに、王都に向かうぞ」


「いぇっさー」


「え、ちょ……え?」


「そうだ、イサベル。王都に家を買いたいんだが……値段問わず、なるべく人が住んでるところに囲まれた場所を」


「別に構わないけど……」


 俺は白馬にまたがり、イサベルもまたがったのを見て馬を走らせる。

 フォルスは神楽の手によって八岐の上に乗らされている。


「む、バイトリザードじゃないか! こいつを騎獣にしているのを見るのは久しぶりだな」


 興奮しているようで何よりだ。

 八岐のスピードがゆっくりと上げられて、白馬たちのスピードも上がる。

 この調子で王都に向かったらまだ間に合うはずだ。なんとしてもあいつに出くわす前に……!


 

 

 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 125/125〈+12〉

 【MP】 50/50


 【STR】 36

 【VIT】 25〈+30〉

 【INT】  25

 【MND】 25

 【DEX】  25〈+45〉

 【AGI】 134〈+10〉

 【LUK】 77


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】【勇者候補】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv3】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *


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