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13 【癒し粉】

 

「なんで、1人でこんな場所にいたんだ?」


 俺がそう問うと、フェストは青ざめたりするでもなく、ただただ首を傾げてなぜそんな質問をするのか? とでも言いたげな顔をしてみせた。


「王子様なら王都で招集がかかったことをご存じのはずでは?」


「王子じゃないからな」


「……あ! ごめんなさい! そういう設定でしたよね……! えと、はい。王都で貴族の招集がかかったので、急いで向かってるんです」


「設定でもないんだよな」


 おかしいな。俺に演技をさせたら大根なのにどうして。

 フェストは納得した顔で、自分の至らなさを嘆き俺の懐の広さに感激し、崇め始めた所で無視することにした。こいつのキャラは大体把握した。しばらく放置するのがベストだろう。


「イサベルはんは、何か知ってる顔やね?」


「そうね。知らないと言えば嘘になるわ。あたしの帰省の理由の1つでもあるし」


 誤魔化すと思っていたが、意外とあっさり言ってくれて若干驚きつつも俺は頷いた。

 

「都合が良すぎると思ってたが、納得がいったな」


「多分、ノアの思ってるので合ってるわ」


「フェスト。招集がかかったのはいつだ?」


「二日前です」


 丁度俺たちが会った日だ。招集を貰った後か前か……おそらく後だろうな。

 招集を受けて尚ゆっくり読書をしていた理由は分からないが、身なりも整っているし、所作も丁寧だ。何より女性の平民で乗馬できる人は限られるのではないだろうか。これは偏見かもしれないが。

 だが貴族と思われる彼女がなぜあんなところで本屋など開いている理由も分からないし、分からないことだらけだ。


「てことはルドも?」


「元、ね」


「??」

 

 一通り儀式を終えたフェストが話に付いていけず俺とイサベルの顔を交互に見やる。

 

「あ! イサベルって、お――むぐ」


「あら~お口に虫がとまっていてよ?」


 有名人らしい。俺は聞かなかったふりをして、無茶をさせてしまった馬に謝ろうと足の向く先を変えた。そして、止まった。

  

「くる!!」


「『おにーちゃんつかれた!』」


「「――――♪」」


 こんな子たちにお願いされて何もしないなんてことあるだろうか? 否だ。

 俺はいそいそと馬の上から降りられないヴァレンティアとルーウィを降ろし、宣言する。

 

「よし休憩にしようジン、後は頼んだ」


「嘘やろ……? ちょっとくらい手伝ってくれるとか」


「こいつらを待たせろ、と?」


「……やればええんやろ、やれば!」


「頑張れ」


 特にもう動けなくなった方、とか。

 ポリゴンにはならないがオブジェクトとしてあるらしい。血とかは出ていないのが救いか、それとも元々そういう設定なのか。面倒なのでフェストに聞いて埋葬なりなんなりして貰って。


 俺は神楽が後処理をしているのを意識の彼方に放り、四匹のブラッシングに取り掛かるとする。

 順番はヴァレンティア、リース・マース、ルーウィの順だ。リースとマースは優しいし、順番は譲ってくれるだろうが、これから増えてくれるだろう子たちを考えると以前の順番に慣らせた方がいいという判断だ。

 喧嘩にならないよう仲間になった順という方式を取っているためルーウィが一番最後となってしまうのだ。いや、ここはリエタなのだし、ルーウィが二番でもいいのか?


「くるぅ」


「少し羽根が痛んでるな。都度ブラッシングをしなきゃ駄目だな、これは」


「くる!」


「ここだろ? ここがいいんだろ?」


「るるるるぅ」


 考え事をしながらマッサージもしつつ慣れた手つきでブラッシングを終わらせる。

 空いた膝にどちらを呼ぶべきか逡巡して、リースとマースに尋ねることにする。


「リース、マース。せっかくこっちに来たから、またブラッシングの順を変えてもいいか? ルーウィが一番最後なのは可哀そうだろ……?」


「「――――♪」」


「ありがとな」


 二匹からの許可が出たので俺は初のブラッシングに目を輝かせているルーウィを呼んだ。

 ちなみにナルジアの時に一番発言力があったのがこの二匹だ。……何と言っているのか俺には分からなかったが。


 ルーウィはヴァレンティアと違い俺も初めてなので反応を見つつ気持ちいいところを探っていく。頭から背中、毛並みに沿って優しく撫でるようにブラシを動かすとぺたりと身体が膝の上に張り付いた。

よく猫は液体とは言うが、ウサギもそうなのだろうか?


「どうだ?」


「『てんごくだぁ……』」


「それはよかった」


 尻尾の方は嫌なようなので頭を重点的にブラッシング。その後念入りに毛の具合を確認して終了する。


「お待たせ。リース、マースおいで」


「「――――♪」」


 柔らかいブラシに取り換え、化石を扱うように丁寧に埃を払う。

 いつの間にか様子を周りで窺っていた騎士たちが払ったときに舞う白い粉に身を構えるが、生憎となんの効果もない粉なのでそれは杞憂に終わる。


 気を張ってブラッシングしたのでどっと疲れが押し寄せてくるが、感謝の印にと俺がもふもふに磨きをかけたその身体を惜しげもなく俺に擦り付ける。

 乱さないように堪能し、若干肌艶が良くなったころには神楽は既に後始末を終えていた。ヴァレンティアが自慢するように近づいて行ったのでジェラシーを感じつつも、俺の髪の一房に尻尾を巻き付けてきたリースとマースを撫でて落ち着く。

 

「僕たちはこのまま王都へ向かいますが……王子様はどうされますか?」


「道中で寄るところがあるんだ。一緒には行けないかな」


 イサベルの様子を伺いつつもそう返し、明らかにしょんぼりと落ち込んだ風のフェストの頭を撫でてやる。

 瞬時に見えない犬耳と尻尾が上機嫌に振れたので俺は苦笑して手を離した。


「どない思います??」


「あれは酷いわね~。絶対分かっててやってるわよ、あれ」


「酷い言われようだな」


「実際せやろ?」


「否定はできないけど」


 ヴァレンティアを慣れた手つきで撫でながら神楽が口を開けて笑う。


 フェストらを見送り、俺はさてと口を開いた。


「全速力でイサベルの用事を終わらせて王都へ向かうぞ」


「てか行先王都やったん? ナルージアやっけ、2つも街越してるけど?」


「……リウが来そうなんだ」


「なるほどなぁ。ほんで、わしはどうすればええんや?」


 ヒト三人、馬二頭


「あ」


「あら」


「気づいてなかったんかい」


 さすが関西人、鋭い突っ込みだ。

 ……そうじゃなくて。


 普通に考えたら俺の後ろに乗ってもらうのがベストだろう、と乗ってみる。


「ぶるふ」


 重かったらしい。そうだよな、流石に成人男性二人はキツイよな。

 少し歩いてみたがその足取りは重々しく、神楽を降ろした今も申し訳なさそうにうなだれている。誰だ気性が荒いとか言った奴。むしろ優しいじゃないか。


 もういっそのこと神楽に縄をくくりつけて引きずっていくか? と物騒なことを考えているとイサベルがぽんと手を叩いて道のすぐよこにある森を指さした。


「いっそ騎獣を探す? 騎獣なら、種類によっては馬よりも早いし、楽よ」


「騎獣なぁ……」


「ええやん。でもなぁ……」


「もふもふに乗るのはちょっと……」「大きいのはちょいなぁ……」


 俺たちは顔を見合わせ、先手を取った俺はイサベルに神楽を突きだす。

 

「ちょい!?」


 大丈夫だ、神楽。お前ならできるぞ。と笑顔でサムズアップしてやる。

 ヤツは大きい動物が苦手なのだが……まあなんとかなるだろう。馬には慣れたとのことなのできっと大丈夫だ。

 動揺しすぎたのか神楽はサムズアップを逆にして返してきたのだが、懐の広い俺は許してやる。


「なら、中型のを探しましょうか。ノア。【探知】をよろしくね」


「いぇっさー」


 こうして神楽の騎獣探しが始まった。





「やーみつからへんなー」


「目を逸らすな。目の前にいるだろ」


「あれはバイトリザードね」


「働いてそうだな」


「この場合のバイトは噛む方やないか?」


 ゆっくり岩場の上で昼寝をしているトカゲ。岩が保護色となり【探知】に反応はあっても見つけられない事態が発生したが、無事見つけられた。

 大きさは馬よりも少し小さいほど。イサベルの情報によると乘れるには乗れるが、手なずける難易度が高いので滅多に乗っている人はいないという。


「へえ。じゃじゃ馬なんか、あの子。……興味が湧いて来たわ」


 誤解がないように言っておくが、別に神楽はサディストではない。ただ、普通の人よりも若干躾やら躾やら躾に興味があるだけで、おそらくまだ人間には手を出していないはずだ。


 八重歯を見せるようににぃーっと弧を描いた唇をなぞるように舌を這わせ、腰から短刀を取り出す。

 先程押収した武器と酷似しているが突っ込まないでおこう。

 俺も後で一本くらい予備用として頂こうかな。


「わしが、あの子よりも上やと思わせればいいんやな?」


「ええ。まあ、そうね。好物をあげて仲良くする方法もあるけど」


「実力は力で示してなんぼや。リマはん、悪いけど癒し粉だけ後で頼めるやろか?」


「「――――♪」」


「そこは任せてくれ」


「ありがとな!」


 自分でも回復させられるはずなのにリースとマースに頼む理由。

 まあ、大方リースとマースが使う【癒し粉】は他のデバフに比べ、回復力が低いことと関係あるのだろうなと邪推する。


「Rrrrrrr!!」


「まずは基本のお座りからや!」


 トカゲのしっぽは再生する……というが、ためらいもなく尻尾を切り落として背に短刀を突き刺し、噛みつこうとするバイトリザードの口を縄で縛り付けた。

 まるで悪役のような表情は教育に良くないのでヴァレンティアとルーウィの目をそっと塞いだ。


「ん~? お座りもできんのかいな。悪い子には躾が必要! やよなぁ!!」


 イサベルに頼んで耳も塞いで貰った。

 全く、ウチの子たちのことを考えて欲しいものだ。


 バイトリザードは尚も抵抗し、突き刺さったままの短刀を抜こうと暴れる。


「お……リース、マース。【癒し粉】」


「「――――♪」」


 ここで【癒し粉】が入ったことで、暴れて広がった傷から短刀が零れ落ちそうになっていたものが再び元の傷程まで塞がり、しかし短刀は前よりも深く差し込まれているようだ。


「えっぐいな」


「指示出したのは貴方でしょ」


 こんなことが続き、神楽は見事バイトリザードを手なずける(?)ことができたのであった。 




 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 125/125〈+12〉

 【MP】 50/50


 【STR】 36

 【VIT】 25〈+30〉

 【INT】  25

 【MND】 25

 【DEX】  25〈+45〉

 【AGI】 134〈+10〉

 【LUK】 77


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv4】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *


 

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