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12 「白馬の王子様(?)」

 

「遅かったわね?」


「悪い。用事が長引いてな」


 普通に無理だったよね。

準備を終えてクールタイムを過ごすまではなんとかなった。問題はその最中だった。


 親戚の子が電話をかけてきてリエタをやっているか質問してきたのだ。面倒なのでやっていないと答えたらリエタの魅力を語りだし、果てにはゲームソフトをあげるとか言い出した。景品で当たったものがあるから1つ余っているんだと。どんだけ豪運なんだと突っ込みたくなる気持ちを抑えて受け答えした自分を褒めてやりたい。

 弟に渋々渡す予定だったけどお兄さんにぜひ! と言いやがっ……こほん、言い出したのでゲーム自体は持ってるしプレイもしていると伝えた。

 すると俺が嘘をついたことなんか気にせず根掘り葉掘り俺のキャラ情報を聞き出そうとし、合流しようと言われた。


 切ったよね。


 うちの親戚は皆愛が重めで困る。

 きっと、直接会えば仮面を付けているがすぐに俺だとバレてしまうのが目に見える。ナルジアでも何も情報を知らないはずなのに、いつも通り拠点に向かうと彼女がいた。

 正直怖い。

 なので。

 

「早く王都に向かおう。今すぐ。全速力で」


 さっさとプレイヤーがいない所に逃げて、ホームを買うイベントをクリアして、周りがNPCに囲まれているところにホームを買う。名付けて本を隠すなら本棚、人を隠すなら住宅地作戦だ。

 こう、いい具合に四方をNPCの住居で囲んで欲しい。ヴァレンティア達が広々とできる庭も欲しい。

 要望が多いので多少高くなっても構わないからプレイヤーの目から離れた場所がいい。


「まあ、色々あったようね。早く向かいたいのなら馬でも借りる?」


「馬か」


 乗馬経験はあるといえばあるが、一度か二度程度のもの。乗りこなせるかどうか……。


「一度見てみるのもありだな」


 だが足が速ければ速いだけ彼女から離れられるのであればそれに越したことはない。

 きっと大人しい馬だったら乗れると思うのでそれに賭けるしかなかろう。

 礼にイサベルの荷物を代わりに持ち、馬主のところへ案内してもらった。


「大人しいやつは皆出ていましてね。あとは気性の荒い子ばかりですよ」


「あら、ついてないわね。あたしは乗れるけど……ノアは無理そうね?」


 どうする? とイサベルが視線を投げかけるので少し悩んでから馬主と向き合って答える。

 

「一度乗るだけ乗ってみるが……おそらく無理だろうな」


 馬主は申し訳なさそうにしながら厩の方に案内してくれる。

 頑張れよ【ギャンブラー】……! お前の出番はここくらいしかないだろ……! あと無駄に高いLUK。AGIの次に高いのがこれとか驚きでしかない。


「あたしはこの子でいいわ」


「俺は……この子にしようか」


 イサベルが毛の艶などを見て決めたのに対して俺は直感だ。どうせ皆気性が荒いのだったら誰でもいいかなとか思ったりして選んだ。

 馬主によって厩から出された馬と向き合いイサベルに倣い撫でてやる。気性が荒いと言う割に大人しく、俺の拙い乗馬の仕方にも付き合ってくれた。


「珍しいですね。この子が懐くなんて」


「いつもは違うのか?」


「乗せてくれない時もありますね」


 厩の前の広場を軽く一周周り、案外いけたのでこのまま金を払い木札を受け取る。

 街ごとに馬貸しの店があるらしく、そこに木札と共に馬を返せばいいのだと。金はが先払いなのはそのシステムのためだ。

 物資の補給もありゴールドはこれでほぼカラである。いざとなれば双蛇のドロップ品があるし、本当に金が欲しい時はそれを売ればいい。道中のモンスターも積極的に狩ろうかな。


「レンたちはどうしようか……」


 リース、マースは俺のローブの中に入ってもらうとして、ヴァレンティアたちを二匹とも支えて走るのは安全面的にも厳しい。そこまで考えていなかったので木札と共に馬主から返却されたバスケットを見てうーんと唸る。

 

「あら。あたしのところに一匹乗せる?」


「それはありがたいな。レン、ルーウィ。どっちかイサベルの方に乗せてもらうか?」


「くる!!」


「ヴァレンティアくんね。ほら、いらっしゃい」


 ……ま、まあ。ヴァレンティアは人見知りするルーウィに気を遣ってくれたんだ。俺は全然気にしてないから。

気にしてないからな??


「あら、あなたのご主人様が嫉妬してるわよ」


「くるう!」


「嫉妬してない」


「『おにーちゃん、ぼくじゃ……だめ?』」


「駄目なわけないだろうむしろ嬉しいというかああうちの子可愛すぎじ――」


「さ、行きましょー」


「む」


 街を出るころにはちらほらとプレイヤーらしき人が見受けられた。

 朝方だというのに黒尽くめの服装の恐らく暗殺者であろう人と奇抜なデザインの弓使いというNPCではあまり見ない編成なので多分あれはプレイヤーだ。

 全力で気づかないふりをしてイサベルと話しながらぱからぽこらと道を進む。


「ここを進んだ先から軽く走らせましょうか」


「そうだな」


 舗装された道を外れるが、人々によって踏み固められているらしく、馬の歩みも変わらない。そのまま速度を上げる。

 すると【探知】ギリギリの範囲で変な動きをしている点が十以上見受けられた。しかも、減っている。


「イサベル、先のところで何か……これは、襲われてる?」


「盗賊かしら……? 応援に向かいましょう」


「ああ」


 イサベルが更に加速し、俺も縋るように加速させる。ルーウィが落ちないように精一杯たてがみに捕まっているのが可愛すぎて更に加速させてしまったのは内緒である。


 目標が近づいてきたので俺はローブの下にいる二匹に声をかける。


「リース、マース。とりあえず、皆に【痺れ粉】だ」


「「――――♪」」


 ちょうど追い風だったので風に身を任せて二匹は身体を振るって粉を撒いた。

 粉は風に運ばれ目標の場所にたどり着き……


「――――!?」


「どっちが悪い奴か分からんから両方痺れてもらったが……順当にいけば豪華な馬車に乗っている方を助けるイベントだろうな」


 豪華な馬車には紋章が描かれており、貴族っぽいなというのは分かる。馬車の周りには同じ紋章を胸に付けた騎士と思しき人が何人か倒れており、【探知】の反応がもう生きていないことを示していた。

 同じくらい山賊のような恰好の人が転がっていたのだが、その中で見知った顔があることに驚きすぎて固まっているとイサベルが遅れてやって来た。


「ちょ、この紋章……ササールの貴族じゃない……!」


「いやジンお前なんでこんなとこにいるんだ!?」


「「え?」」


 ササールというと道中寄る予定のところだろうか?

 いやそれよりも神楽だ。明らかに悪側にいるのだが何があったというのか……。まさか知っている人物がいるとも思わなかったので絶賛痺れ中の神楽以外を縛っていくことにする。買っておいてよかった縄。

 

「ノアはなんで盗賊と知り合いなの……?」


「いや、あいつはまだ盗賊じゃなかった……はずだ」


 神楽がいるということは悪い奴らが逆なパターンもあると考えての両者を縛るという判断だったのだが、イサベルは俺が騎士も縛っていることに何も言ってこなかったのでこれで正解なのだと思われる。

 武器は見える範囲のみ取り上げ、【探知】に反応はあるものの一向に動きを見せない馬車の中へ視線を移す。


「イサベルは何か知ってるようだな?」


「それよりあたしもその神官に見えない人について知りたいのだけど……まあいいわ。この紋章はササールの貴族たちが使うものよ。どの家までかは分からないけど、大体が重税を課しているようなところだし、変人で有名だから。てっきりノアは知ってるから縛っているのだと思ったわ」


 仮にその重税を課してる貴族だとして、下手に馬車の扉を開けて反撃でもされたら困るので俺らは扉に警戒しながら神楽のデバフ解除を待つ。

 俺より強そうな騎士が一歩も動けないのだからそれはもう強力な痺れ粉だったのだろう。威力は確率なのだが、さすがぶっこわれ性能と呼ばれているだけある。


 リースとマースを撫でてあげていると神楽が微かに動く。

 耐性を取っていたのだろうか、一番早い復帰である。


「ノア、やないか」


「簡潔に情報を吐け」


「はは。盗賊に興味があったから仲間に入れて指導してくれへんかな~って思ったら、今に至る、や。やー正直お偉いさんの馬車攻撃したときは焦ったわ」


「本心は?」


「めっちゃ楽しかった!」


「ギルティー」


 なるほど神楽は関係のないただの一般人のようだ。確かにサブに盗賊入れるにしてもどうやって職業を出すのだろうと不思議に思っていたが、まさかの本人に直接指導をして貰いに行くとは思いもしなかった。俺もテイマーのNPCに教えを乞うべきだろうか。

 

 ちなみに、ナルジアではレベルが20に達すると転職ということが可能であった。そこから更に30まで上げると職業の組み合わせによって進化させることができるというわけだ。例にあげるとすればメジャーな魔法剣士だろうか。

 また、それとは別にプレイヤーレベルではなく、職業レベルというものを極めればサブという形でもう1つ職業を併用することができる。これは先に述べた進化がどう考えても無理な組み合わせのプレイヤーに多い。これも例をあげると神楽のような神官と盗賊の組み合わせとかである。

 運営がこの辺りのシステムはリエタも引き継いでいるとのことなのでそうなのだろう。


 まてよ。

 俺の放浪者、職業レベルがないんだが?

 

 今更ながらに気付いた事実を神楽に尋ねようとしたらその前に思いっきり神楽が馬車の扉を開いていた。


「う、うわああああ!!」


「ぬわぁ!?」


 キン、と金属同士がぶつかり合う音がして、神楽が押し勝ったようだ。相手側の手から剣が落ちた。

 イサベルがその剣をささっと拾い上げ、他の武器がまとまっているところへ投げ捨てた。


「イサベル、助かる。それ、で? おいジン。なんで固まったままなんだ」


「思ったより力強くてなぁ。スタン状態っぽいわ」


「なるほど」


 邪魔なオブジェクトと化した神楽をそこらに転がしておき、俺は改めて馬車の中を見る。

 イメージしていたのはでっぷりと肥えた豚さんのような貴族だっただけに、まだ成人していないような幼さの残る少年がそこにへたり込んでいたのを見て肩の力を抜いた。


「……おうじさま」


 王子と呼ばれたのは気のせいだろうか。うん気のせいに違いない。

 仮に俺がそう呼ばれたとして、仮面を付けて怪しさマックスのヤツを王子と呼ぶだろうか?

否、だと言いたい。

 

「少年。君の名前は?」


「あ、はい! 僕はフェスト・オーウェルと申します! 王子様、助けて下さりありがとうございます!」


 俺はひくと口を引きつらせた。

 スタンから立ち直った神楽が爆笑している隣で、イサベルがまさかと俺の乗っていた馬を指さした。

 そこにはなんの変哲もないただの馬がいる。立派な白馬だ。


 ……もしかして


「えーと……白馬の王子様とか夢見てる系の子かな?」


 今時誰が思うだろうか。

 あの厩には白馬は何種類かいたし、よく見ればイサベルの乗っていた馬も若干黒いまだら模様があるものの白馬だ。

 そりゃ、王子様は白馬に乗っているかもしれない。だが、だからといって白馬に乗る人全員が王子という訳ではないんだ。


 と諭してやりたい気持ちを堪えて俺は少年の肩をぽんと叩く。


「俺はノアだ。王子でも、何でもない。ただのノアだ」


「はい! 知ってます! 正体を隠して各地を旅していらっしゃるんですよね! 悪事をしている奴らを倒して、平和を守る!」


「どこでその話を聞いたのかは分からないけど俺は王子じゃない」


「今みたいに愛馬の白馬でピンチに颯爽と現れる! ああ、僕はなんて幸運だったんだろう!」


「これは駄目だ」


「重症やね」


「王子様はこんな僕でも――」


 ああ神様。俺はどうして白馬なんて選んだんでしょうか。


 こんなめんどくs……変人……少し頭のねじが外れているような子とのイベントとか罰ゲームでしかないじゃないか。先程ササールの貴族は変人が多いとイサベルが言っていたが、フェストを見る限り迂回して進むルートでよかったのかもしれない。

 イサベルも神楽をなだめるフリをしながら地味に笑ってるし。


「確か、今はやりの劇にそんな設定のものがあったわね」


「今のところ共通点白馬しかないが」


「狐面も付けてたはずよ」


「ジン! 仮面を交換しないか!!」


「嫌やね!」


 俺と神楽が仮面を取り合っている中でふと神楽が思い出したように口にした。


「せや。盗賊さんら、義賊らしいんよ」


「そういうことは早く言え」


義賊なら殺しもありという考えではないが、盗賊と違って片方を悪者と決めつけることができなくなる。

だが平民からすれば義賊は正義で貴族は悪。貴族側からすればその反対だ。

俺は両方の事情を知らないので中立という立場ではあるが、だからこそ一方に肩入れするわけにはいかない。


 俺は慌ててボスっぽい大柄の男と会話を試みようと近づく。【勘】が一番の危険人物はこいつだと教えてくれているので間違いはないと思う。

 フェストは「ぼくのおうじさま」について語りだしているのでしばらく放置でも大丈夫なはずだ。


「お前がこの盗賊団のボスか?」


「……」


「沈黙は肯定とみなすぞ。ジン……あそこの猫の仮面からお前たちは義賊だと聞いた。本当か?」


「そうだ」


 ディックに勝るとも劣らない低音でそう返す男に怯むことなく土狼がやっていたような威嚇をしてみる。

 スキルはないものの僅かに効果があったようで、盗賊の雰囲気が悪化したようだ。選択肢ミスったかもしれない。


「……義賊だというが、この子の家門は重税を課しているような貴族なのか?」


「……」


「こればかりは答えてもらわないと肯定に取れないからな」


 フェストを見る限り変ではあるが悪側に見えない。しかし、親だけが腐っている可能性は大いにあり得る。

 

「分からねぇな」


「なら、この場は一旦お開きだ。お前たちには罪のないかもしれない騎士を手に掛けた罪はあるが、見れば死傷者は同数っぽいしな。両方悪いということで縄は解くが、次俺の前でやったら毒粉だからな」


「ひぃ……」


 リースとマースはどちらにとってもトラウマとなったらしい。

 今にも襲い掛かりそうだった盗賊や身構えていた騎士は大人しく身を寄せ合った。仲がいいのは喜ばしい事だ。


 俺と神楽、イサベルの三人で拘束を解き、必要最低限の武器だけをお互いに渡してその場を収める。残った武器? 全部売却に決まっているだろう? 貴重な収入源だ。本当ならもう少しむしり取りたかったが、俺を本気で王子様だと信じてやまないフェストがきらきらした目でこちらを見ていたので諦めた。


「さて、盗賊団の件は解決したとして。フェストくんのことについて、詳しく教えてくれないかな?」


 これもイサベルのイベントに含まれるのか、イベントの最中でイベントが起こっているのかは定かではないが、進行方向から外れてはいない。今日中に王都に向かうのは無理だとしても後々厄介になるよりは今一区切り付けた方がいいだろう。


「なんで、1人でこんな場所にいたんだ?」



 

 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 125/125〈+12〉

 【MP】 50/50


 【STR】 36

 【VIT】 25〈+30〉

 【INT】  25

 【MND】 25

 【DEX】  25〈+45〉

 【AGI】 134〈+10〉

 【LUK】 77


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv3】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公にべったりなウザイン・チョロインが今のところ出ていないところ [一言] 主人公のもふもふ愛が一貫して余計なモノに目がいかないところが素晴らしいです。 ヴァレンティアも男の子だったのが…
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