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11 『不滅の幻想曲』


「そういやさっきお前らをつけてる奴がいたが、身に覚えは?」


「ないな。この国には初めて来る」


 本業が冒険者の彼、ルドレイは明日の朝に馬で村まで帰るようで、暇だったらとカサヴェの案内を頼んだ。

 料理は空間魔法を持っているので一週間は大丈夫らしい。

 最初に案内してもらったのは勿論雑貨屋。


「レンは目が粗いやつだよな。リースとマースは柔らかいブラシ。ルーウィはどれがいい?」


 ヴァレンティアやリース、マースは以前のものに近いものをかごに入れる。触り心地をそれぞれ確かめて貰っているので間違いはない。

 ルーウィの好みは分からないが、俺の髪の毛に巻き付いて寝るのが好きなようなので似た質感のブラシを数種類並べて見せる。


「『どれでもいいの?』」


「もちろん」


 うーんと悩みながらバスケットの中からブラシをちょいちょいと触っては衝撃を受けた顔になるのが可愛い。

 ブラシ初心者なルーウィに先輩面して何やら教えているヴァレンティア。リースとマースもおすすめを教えているようだ。

 ……ルーウィ以外何を言っているのか分からないが。


「テイマーじゃない……んだよな?」


「非常に残念ながらスキルすら持ってない」


「にしては懐いてるな」


 ルドレイは奥さんと娘用に土産を買うらしい。手にアクセサリーが握られていた。

 どれどれと覗いてみると十字架に蛇が巻き付いたネックレスとどくろの中に青いバラが入ったペンダント。趣味を否定するわけではないが、俺的には絶対「ない」。


「ペンダントはよした方がいいんじゃないか?」


「そうなのか?」


「普段使いできた方が喜ぶだろ。奥さんの髪飾り使い込まれていたし、これとかどうだ?」


「『あ! おにーちゃん動かさないで!』」


「すまん」


 デザインもだが、ごつごつしたペンダントはどちらに贈ろうが好みに合わない気がするので、目についた蝶の髪飾りを勧める。大きすぎず、シルバーなので藍色の髪によく映えることだろう。


「娘はどれがいいと思う?」


「このレースのリボンかな。あの年頃の子は少し大人ぶりたいだろうし、かといってネックレスとかだと怪我するかもだしな」


 親戚の子らのクリスマスプレゼントに毎年悩まされている両親らの分まで買ってあげていたのだ。見ず知らずの子ならまだしも会ったことのある子供に贈るプレゼントくらいどうってことない。


「お前、モテるだろ」


「さあね」


「娘に『お父さんよりかっこよかったよ!』って言われた俺の感情はどこで晴らせばいい?」


「……まあ、いずれ嫁に出るんだ。諦めろ」


「くそおぉぉぉぉぉ」


 目を逸らしたよね。

 さすがに可哀そうだったのでプレゼントの渡し方を教えてあげた。絶対に今まで包装もなく直で渡していたに違いないので店の人にラッピングを頼む。

 奥さんはシックな感じ、娘さんは水色の可愛らしい包装用紙を選ぶ。

 ヴァレンティアたちのリボンを選んでくれた娘さんは多分青系が好きだと思うので。


「『おにーちゃん、これがいい!』」


「ん? いいの選んだな」


「『えへへ』」


 俺の髪にこよなく似た質感の毛だったので、内心でにやにやしながらこちらも会計を済ませる。

 合わせて1000ゴールドもなかったので良い店を紹介してもらえたようだ。路地裏を通っていくからどんな店かと思ったのだがこれはリピート確定だな。


 マップにピンを刺し、ラッピングを終えて出て来たルドレイに尋ねる。


「本屋にも寄りたいんだが、ここらにあるか?」


「あるにはあるが……俺は苦手だな」


「店に案内してくれたらしばらく近くで暇をつぶしてくれてもいい」


「いや、一緒に行くよ」


「いいのか?」


「礼も兼ねてるしな。苦手っつっても嫌いなわけじゃない」


「助かる」


 本屋とか、相場では大体頑固な親父がいるものだ。そういうイベントは面倒なのでルドレイに会話を押し付けて探し物をしたい。

 何を探しているのかと言うとこの国全体の地図。細かくなくてもいいので大雑把に把握したい。あと他のテイムモンスターたちがいそうな場所に見当を付けたい。

 まあ、こんな序盤に世界の地図を置くほど運営も優しいわけではないので、もふもふに関する書物でも見つけられれば上々だ。

 

「ここだ」


「ほう」

 

 世間話でもしながら着いたのは先程の雑貨屋よりもやや通りの方にあるこじんまりとした店だった。いかにも頑固おやじがいそうだ、と心して店に入ると予想と反してさっぱりとした雰囲気で少々しり込みしてしまう。

 カウンターの方にはこれまた意外にも若いお姉さんがストラップを付けた眼鏡をかけて本に目を落としていた。


「本を読んでる間は話しかけても滅多に気づかれないんだ。邪魔されるのを嫌うからなるだけ静かにな」


「なるほど。道理で鐘がないわけだ」


 本を大事にしている方のようで本には埃1つ落ちていない。これは丁寧に扱わなければとヴァレンティア達の毛が飛ばないよう上からそっとここに来る途中で買った毛布を被せてルドレイに預ける。


 本棚の順はバラバラでジャンルごとに置いている訳ではないようだ。ざっと見る限り著者はある程度固まっているようだが必ずそうという訳でもない。

 ならばどういう順か。


「好みかな」


「?」

 

 俺自身もそうなのだが、好きな作品から順に並べていくのだ。なぜならふと何かしら読みたい気分になった時に楽だから。シリーズものだろうが関係なく並べるので家に来た友人らからは不評だが、読めればいいのだ。


 なので俺は女性に一番近い本棚の端にあるものを手に取る。

 題名は『不滅の幻想曲』、仰々しい名だ。革張りの表紙をそっと撫で、ページをめくる。

 内容はありふれた物語だった。悪の元凶を倒すべく異界よりやってきた人々、彼らがどう悩み、どう決意し、どう攻略したのかが事細かに書かれている。金を払っていないのでちゃんとは読んでいないが、うん、ナルジアの話だったよね。

 よく考えてみればEternal Fantasiaを訳せばそんな感じになったはずだ。


 つい2、3ページ読むつもりがそこそこ読んでしまったので買い取るべきだろうと本をカウンターまで持っていこうとする。と、女性は読書を中断し、俺の事をじっと見ていた。


「あの、何か?」


「貴方は、なぜそんな男といるの?」


 質問に質問で返す奴は嫌いじゃない。

 ムカつきはするが。ルドレイが苦手だと言った理由が分かった気がした。

 

「俺の家族の恩人なんだ。本屋に案内して欲しいっていうからここに連れて来たんだ。文句あっか?」


 後ろで暇をしていただろうルドレイが俺の代わりに理由を言ってくれる。少し尖った言い方だが、特に気にしない。

 女性はそれで納得したらしく、うんうんと頷いた。

 

「へえ、それなら納得だわ。貴方、名前は?」


「ノアだ。貴女は」


「イサベルよ。その本はお近づきの印にあげるわ」


「金は払う。いくらだ」


「いらないわ」


「1000ゴールドくらいか?」


「……」


 無視を決め込むつもりらしいイサベルにため息をつき、ボックスから1000ゴールドを取り出す。

 取り出す度に革の袋に入ってるのありがたいな、とか思いながらカウンターの上に乗せ様子を伺うと、イサベルは口を尖らせながらゴールドを何枚か返してくれる。


「760ゴールドよ。頑固なのね」


「物にはそれ相応の対価を払わないとだからな……ところでルドレイはイサベルさんとどういった関係なんだ? 苦手と言う割にはお互いを知っているようだが」


「幼馴染なの。ここから離れた王都で、近所だったのよ」


 離れた王都からどうしてこんなところに、しかも割と近い場所で暮らしているのか気になりはするが、それよりも気になる単語を耳にしたので繰り返す。


「王都までの行き方を知りたいんだが」


「あら、連れてってあげるわよ」


「いや俺が連れてく」


「あなた、奥様の妊娠中にそばを離れると言うの?」


「ぐっ……」


 かなり仲がいいみたいだな。

 しかし、イサベルの誘いは非常にありがたい。1つの街に留まることは重要だと思うし、イベントもそこかしこに転がっているだろう。その中にテイムスキルを取得できるものもあるかもしれない。

 その可能性を捨てて王都に向かう……。価値は、あるな。


 1つ懸念点をあげるとするならばイサベルのメリットか。

 俺を騙している感じではないので、気にしない方がいいのかもしれないが。


「イサベルさん。王都までの案内を頼んでもいいか?」


「イサベルでいいわ。もちろんよ、明日にでも向かえるわ」


「明日は厳しいな。一日後でどうだ?」


「ふふ。楽しみにしてるわね」


 満面の笑みでぱたぱたと奥の部屋に向かうイサベルを見やりながらルドレイからバスケットを受け取る。


「今日は助かった。王都までの案内も見つけられたし、恩返しとしては十二分だ」


「あいつで本当にいいのか? 俺の方が……」


「イサベルも言っていたが妊娠してる妻を置いていく気か? それが原因で離婚になっても知らないからな」


 だが、それでも、と引き下がらないルドレイについ噴き出してしまう。

 実家の近所にいる犬の散歩の代行をしたときに帰り際の犬が同じ顔をしていたのを思い出した。人とこうして一緒に行動するのは得意ではないのだが、思えばルドレイは犬に似ている。


「あらルドレイまだいたの?」


「今宿に戻るとこだ!」


 ルドレイが犬ならイサベルは猫だな。


「あ、ノア! おれのことはルドでいいからな!」


「ああ、ルド。いい夢を」


「あたしのこともベルでいいのよ?」


「それは遠慮しておこうかな」


 眼鏡を首から下げて首を傾げているイサベルがからかっているのだとすぐに分かったので、首を横に振りバスケットの中にいる4匹を見せる。


「本に毛がついてはと思ってこうしてるんだが、旅はこの子たちも一緒で構わないか?」


「もちろんよ。この部屋全体に【浄化】と【物質強化】の結界を張ってあるから多少汚れても大丈夫なの。好きにさせても大丈夫よ」


 大丈夫だと聞いた皆がバスケットの中から飛び出す……ことなく俺に降ろしてくれと頼んでくる。リースとマースだけ自分たちでふわふわと飛んで行った。

 ケセランパサランは図書館とかによくいるイメージだし、本が好きなのだろう。少し嬉しそうな気がする。

 バスケットを床に置き、疑問に思ったことを尋ねてみる。

 

「結界?」


「あたし、こう見えて結界師なのよ。持ってるスキルを結界化することができるの。そういえばノアの職業は?」


「放浪者だ」


「そう、だからそんな珍しい子連れてるのね」


 イサベルに恐る恐る近づいたルーウィと撫でてと言わんばかりに寄って行ったヴァレンティアを撫でながらイサベルは眦をほんの少し下げた。

 そしてまた床に降ろして先程奥の部屋に行ったときに持って帰って来た地図をカウンターの上に広げた。


「そう、で、明後日の話なのだけれど。王都に行くには2つ街を越さないとなの。ササールとタタン。道中に村がいくつかあるのだけど必要最低限のこの道を通って、街で補給をするのが普段のあたしの帰省ルートなのだけれど」


 不意に途切れた言葉に俺は地図から目を上げる。


「どうした?」


「その、1つ寄りたいところを思い出したの。これが一番早いのだけど、そこに寄ってもいいかしら?」


「全然構わないが……」


「ありがとう。それならこの村からこっちに向かって」


 地図は俺のマップに更新されてイサベルが言うルートに自動的に範囲が限定された。

 これはイベント判定なのだろう。この表示されている場所から出るなよという範囲なのだと思う。


「それでいいかしら?」


「ああ」


「じゃあ、また明後日。4の鐘の時にこのお店集合ね」


「また明後日」


 ふむ。その間に急いで物資やらを揃えてクールタイムの30分をとらないとか。

 ……まあいけるだろ。

 


 

 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 125/125〈+12〉

 【MP】 50/50


 【STR】 36

 【VIT】 25〈+30〉

 【INT】  25

 【MND】 25

 【DEX】  25〈+45〉

 【AGI】 134〈+10〉

 【LUK】 77


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv3】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *




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