夏祭りの約束に遅れた旦那なんて大嫌い!
まただよ。
まーた遅れてる。
毎度毎度のことだから驚きもしない。浴衣で惨めに立ち尽くす私のことなんてどうでもいいわけ?
そういうところ嫌い。
「ごめん、ごめん。帰りにサキの好きなお店に行こうね」
なんて言葉を言うのだろう。そんなことに騙されんぞ。そういうところ嫌いなんだよ。
ビシッと言ってやる。約束の重さを思い知らせてやるからね。
花火は始まっちゃったか。近くで見ようって言ってたのに、あんなにちっちゃい花火。手持ち花火のほうがまだ大きいよ。
そして無粋。救急車の音。赤いランプが遠くに光ってる。花火よりあっちが気になっちゃうよ。
おっと。運ばれる人は大変な思いだもんね。心の中で謝っておこう。ゴメンナサイ。
◇
で、なんで旦那はこんな場所で冷たくなってんだ?
私は病院の一室で立ち尽くしてた。
仕事から待ち合わせの場所まで急いで来た途中、祭りでテンション上がった子どもが道路にふらついて出ちゃったところを助けたんだってな。
なんてお人好し。バカじゃない?
それで死んでたら世話ないよ。
そういうところ嫌い。
いつも損な役回り。
あの時もそうだったよ。
新人の私にみんな仕事押し付けて帰っちゃって、泣きべそかきながら仕事してたら、当時の旦那。そっちも仕事押し付けられて、ようやく会社に帰ってきたのに私の仕事手伝ってくれて──。
人の気持ち持ってきやがって。
そのくせイケメン後輩の永瀬くんに私をくっつけようと画策してやがってさ。
見え見えなんだよ。好きな人くらい自分で選ぶつーの。
そういうとこ嫌いだって。
なんだよ。このネックレス。今日が結婚記念日だって覚えてたのかよ。ボーとしてる顔しててちゃんとしてやがる。
これが最後のプレゼントかよ。ふざけんなって。家とか車とか買う計画、一人でしろってのかよ。マジ勘弁。
「僕が死んでもサキが困らないように高めの保険に入ったからね」
なんて言ってたな。これじゃ私が保険金詐欺を疑われるじゃねえかよ。
全然足りねぇよ。
今日言おうと思ってたんだよ。
家族がもう一人増えるって。
バカだなあ。ホントにバカだなあ。
嫌いだよ。
ずっと幸せにする?
はあ? いつもじゃん。約束破って。
いつもみたいに埋め合わせするんだよな?
はあ。無理だろ。最低。ドン引き。
まだ24歳だよ私。その歳で一生分泣かすなんて。
こんなんじゃ嫌いになれないじゃんか。せめて浮気とかしといてくれよ。
どうすんだよ。この思い抱えて生きてくしかないじゃん。ちくしょう……。