世界最強は困っている
「ふむ……で、なんでお前が外に居たのだ?」
図書室。父は筋肉質なのだが読書家でよく図書室に入り浸って居る。そんなときに、僕は先程の出来事を父に伝えていた。
「たまたま夜風に当たりたく、外へ出ていたところ、何処からか悲鳴が聞こえたような気がしたので其処へ行くと、ミールイがいました」
その話を聞くと、父は私の目をじっくりと見つめて、
「……そうか、たまたま、か……」
「はい、そうです」
僕のその言葉に、父はなにかを察してからか、口を閉ざし、もう行っていいと指示をだした。
部屋をでると、そこにはダメッ娘メイドのレニーが心配そうな目で僕の事を見ていた。
「あ、あの……大丈夫ですか?どこか痛いところは……」
「先程も言ったように、大丈夫だよ。別になにかあったわけじゃないし」
「女の子を拾ってくることをなにかあったわけじゃないしで済まさないでください!」
プンスカと怒る彼女をなんとか宥める。こういう時は頭を撫でとけば大概なんとかなるというのが僕の経験上だ。
レニーの頭を左右に振ると、心地良さそうに目を瞑った。そろそろいいか、と頭から手を離すと、何故か不満げにこちらを見つめた。
「もう……なに勝手にやめてるんですか」
「ごめんよ、でも、僕も忙しいんだ。もう少ししたら構っておくれ。僕は君がいないと駄目なんだ」
秘技!ダメ男!
そう、僕は前世でラノベという素晴らしい書物を手にした。そこでラブコメというもので身に着けたものというのが、このダメ男作戦!こういうレニーのような生粋のお世話したいという奴には自分からダメ男になれば向こうも、しょうがないなあ、と言いつつもお世話しちゃうという感じになるはずなのだ!
……まあ、所詮ラブコメで手にした知識だからあまり役に立ってるとは思えないけど。
「そ、そうですよ。ハージュ様は私が居ないと駄目なんですから。いっぱい甘えてくださいね♥」
レニーはトロンとした目で恍惚な表情を浮かべているがいまいち僕はそうなっている理由がわからなかった。
レニーはお世話したいと思ってるんだろうけど、実際はお世話させられる側なんだようなあ……と僕は心の中で呟いた。
レニーと別れると、ミールイの寝ている部屋へと行く。ドアを引くと、何人かのメイドたちが居た。僕はその場に居るメイドたちを退けると、もう起きていたミールイに近づいた。
「あっ、貴方様は……あっありがとうございます!こんな私のために立派な設備を用意してくださって……!」
「別にいいんだよ。それに、僕は親から困っている人が居たら助けてあげなさいと言われているからね」
ミールイは恐縮したような姿勢で何度も僕にお礼を述べた。
「本当に別にいいんだよ。それよりも、他に話があってここに来たんだ」
「なっ、なんでしょうか。あっ、お金のことは……すみません。まだ用意できそうにないのでどうかお許しください……」
なにか話を誤解しているようなので、手で制してなんとか話を止めた。
「そんなことじゃないよ。ただ、君がよかったら、僕の専属メイドとしてここに住まないか?」
「………………………………………………えっ?」
もちろん、父にはきちんと許可をとった。あとは本人の希望次第だが───ミールイが目をカッと見開き、手をギュッと握った。
「もっ!もちろんっ!働かせてください!お願いします!」
そんな食い気味で来られてしまったので、僕は少しだけ引いてしまった。
「う、うんわかった。君の誠意はすごい伝わったから。……よし、じゃあ、改めて。僕の名前はハージュ。ハージュ・ア・グレバールだ。よろしく」
「は、はい。これから宜しくお願いします。ハージュ様」
その言葉と同時に、ミールイは綺麗なお辞儀をしてみせた。これは立派なメイドになるな。
「あっ、あと僕があそこで人を殺していたのは内緒ね」
「えっ、なんでですか?」
ミールイには、疑問符が浮かべられたが、それを諭すように僕は言った。
「それはね、誰にも知られなくていいことだからだよ」
§
三年後。
「ハージュ様……起きてくださーい……」
「起きないと……悪戯しちゃいますよー……」
二人の少女の声が聞こえる。
「起きてるよ」
僕は目を閉じていながらも、声を出した。
前世では、奇襲はよくあることだったから寝るときは特に気を付けている。部屋に誰か来たらその気配を探ってその誰かが分かるように訓練した。
さらに今世では魔法があるので、その精度は折り紙付きだ。
体を起こして瞳を開ける。視界に映し出されるは二人の美少女。この世界は顔面偏差値が全体的に高いけど、それでもこの二人は美少女と呼んでもいい。
「明後日はついに学園に行くことになりますね!」
「きちんと準備してくださいね」
大人びたレニーと可愛らしく尻尾を振るミールイ。二人とも少し似ていて姉妹のようだ。
そんな二人の頭を思わず撫でる。
「え、えと……頭撫でるのは、もっとして欲しいですが……取り敢えず今は着替えを……」
「ふ~~ん、気持ちがいいです!ハージュ様」
ベッドから体を下ろし、床に足を着ける。すると下から魔法陣が現れてそのままスッと頭まで上った。
それと同時に服が着替え終わる。
二人だけは僕の力の事を伝えている。
だから、この二人が居るときは隠す必要もなく力を使っている。
「僕は朝食に行くとするよ」
二人に向かって言うと、二人はニッコリとした表情で
「「はい、御主人様♥」」
といった。
そして、朝食は、相も変わらず賑やかである。
「おい!肉は俺のだぞ!」
「いやだしー、誰が脳筋馬鹿野郎をさらに脳筋にさせなきゃいけないのー」
「二人とも、静かにしなさい。少しはハージュを見習ったらどうだ」
「ははは……」
そう、賑やかである。今、騒いでいるこの二人は、公爵家の次男と三男だ。脳筋と呼ばれているものが次男、そう馬鹿にしているのが三男だ。
ちなみに僕は十三男という懸け離れたもので末っ子だ。
「あー、姉さんそれ僕のー」
「アンタ、よく本読みすぎてご飯食わないから奪われて当然よ」
今日は、結構な兄弟が集まっているので、凄い賑やかなのだ。
こんな所にレニーとミールイを連れては行けないので安全なところで待機してもらっている。
「ところでハージュ、明後日は学園に入学するようではないか。私は楽しみにしているよ」
この所作がいかにも公爵というのは、公爵家第六男、トックホグラスだ。
「ありがとうございます、ホグラス兄さん。期待に答えられるように頑張ります」
みんなにはホグラスと呼ばれている。
朝食が終わると、僕はそそくさとこの場所から去る。
みんな個性豊かすぎるからあまり気分はよろしくない。
というよりも、学園のことについて考えないといけない。
僕は公爵家だ。それなりの実力をださないといけない。しかし、年齢が年齢だ。この世界の常識だと、9歳では保育園生みたいなものだ。
そんな保育園生がありえない力をだしたら、周りにも怪しがれる。優れた公爵家という案にしようと思ったが、レニーとミールイにその案は却下された。
なにしろ、『優れた公爵家どころではありません』『ハージュ様は規格外だかね……』というのだ。
僕もこの年齢にしては力は強いと思っているので、なんとか納得した。
まあ、なんとか制御していくしかないか……そう考えつつ、僕は地下室に向かう。去年から制御の訓練をしている僕は、この地下室で色々と実験している。
例えば───
「『魔炎園』『水爆流』」
相互打ち消す合う魔法を発動して、魔力をなくす。さらに。
「『魔力隠蔽』『魔力渦』」
様々な魔力を隠す魔法を使って魔力消費をする。これを常時、僕はしている。しかし、それでも魔力の生成率が早いので一瞬でも魔法発動をやめると一気に魔力が溢れる。
「どうするかな……」
これ以上魔力を隠せる自信が無い僕は、そうつぶやくのだった。
僕もこのあとこの物語をどうするか困ってます。