世界最強は盗賊狩りをする
唐突だけど、僕の家族を紹介したいと思う。
現在、僕の座席位置の真正面よりも右に位置する若々しい女性の名前はアン。僕の母親だ。そして、この部屋を一望できる上座に座る筋骨隆々の男性がパーファラン。僕の男性だ。
他の兄弟は多忙なため、今座るのはこの僕を含めた三人だけだ。
ご飯を食べ終わると風呂場へ向かう。自慢ではないのだが、僕の家は公爵家なので、すごく家が広い。そのため、困ることもある。それは、部屋の移動が長いということだ。
これでは足が疲れてしまう。足の運動には最適なはずだが、僕には魔法という素晴らしき筋トレ方法がある。そのため、この6年間で積み上げた僕の筋肉はとても常人離れしている。
「あっ、お父様」
風呂場へ向かう途中。普段は自室で籠る父の姿が見える。
父は、いつになく豪快に僕の背中を叩きながら言う。
「今日でお前も晴れて6歳!6歳ともなれば、もっと女っ気もあっていいものだが……まあいい!あと"王都王立第二学園"に通うのもあと3年だ!剣術も叩きあげてすぐにこのソードマスターを超えてくれよ?」
かッと白い歯をみせ、豪快に笑いながらこの場を去っていった。
……二年前、4歳だった僕は父と剣の鍛錬をしていた。そのとき、流れ的に模擬戦となり父上と決闘した。そして……勝ってしまったのだ。もちろん、父上は手加減をしていただろう。しかし、僕も腐っても世界最強。たかが4歳でも剣技だけで勝ててしまったのだ。
それ以来、すっかり父上はいつもいつも「ハージュはいつか俺を超える大剣士になる!」と周りに言いふらす結果となってしまった。
僕としては、やめてほしいんだけどなあ……。とても恥ずかしいことになってしまっている。
「ハージュさま!ハージュさま!一人でいかないでください!」
僕の後を追ってきている可憐なメイド格好少女が、一人。たいがい、この後は───
「あっ」
メイド少女は僕の目の前に来たかと思うと、なにも障害物がないところで、こけそうになる。
そんなのは日常茶飯事なので魔法で身体強化をして素早くメイド少女を支える。
「あ、ありがとう……ございます……」
「まったく、なんでいつもなにもないところでコケそうになるんだ?」
「あ、あうう……」
少し僕がメイド少女を揶揄うと、メイド少女は僕の腕の中で俯いてしまう。耳は真っ赤だ。
このドジっ子のメイド少女は、レニー。僕の専属メイドとして仕えてもらっている。といっても、ご覧の通りレニーはドジっ子なので、僕がレニーを献身しているといったほうが正しい場合もある。
暫くレニーの頭を撫でていると、レニーはそそくさと恥ずかしそうに僕の傍から離れる。
「今から風呂場に行くところなんだ。レニーも一緒に入る?」
「は、はい。お傍に仕わせてもらいます」
レニーと一緒に女子風呂に入ると、大量のメイドがこちらを向く。
……この光景はいつまでたっても慣れないなあ……
僕は、外面と内面でわけている。外面の僕は、クールで何事にも動じないという風になっているのだが、内面では違う。むっつりの煩悩まみれだ。
勿論、女子風呂というのはメイドも使うので、非常に恥ずかしいといえる。でも、それも6年がも続くと自然とそういうのも消えてくるというものだ。
そう、例えムチムチの女の子が密着することがあっても───僕は!絶対に屈しないぞおおお!(前世、童貞・女性経験皆無)
風呂から上がると、そこには憔悴しきった顔の僕がいた。ヨロヨロと歩き続ける。いつも、とてもこの時間は疲れる。
治癒系統の魔法で精神を癒す。
窓の外を見ると、そこには日没しきった夕闇の空が広がっていた。もう虹色の月光が三つとして光り輝く。そろそろかな。
自身の部屋に戻り、素性が隠せる服に着替える。
最近は、この時間帯に外へ出かける。僕は、日に日に魔法の実験をしているのは勿論のこと、さらに実践をしないと身に付かない。だが、僕は表立って戦闘をするということは避けたい。
だからこそ、僕は夜な夜な外へ出かけて盗賊を狩る。そういえば、最近父が「治安がよくなってなあ……」とか話してたっけ。興味ないや。
今日狩りたいと思って居るところは盗賊界隈の南東のドンとか呼ばれてるところだ。事前準備はできてるし、楽しみだ。
場所に着くと、辺りを見渡す。どうやら今は宴の準備をしているようだ。おや、誰かが連れてかれている。小さな女の子だ。
盗賊の宴の最中、一人の盗賊が10歳くらいの女の子を引きずってくる。女の子の目は実に反逆的で引きずられている時でも殴れるチャンスを伺っていた。
宴の中心に女の子が来ると、一人の男がその下腹部を晒す。
うわあ……あんな小さな女の子に興奮するのか……。僕も決して言えた気ではないが、それでも嫌がる女の子に興奮する卑陋な奴に慈悲をかけるわけはないか。
不潔な下腹部を生で見るその女の子の気分は最悪だろう。ようやく自分の立場を知り、目の焦点があっていない。そろそろ潮時か。
ここで、僕の研究成果が発揮される。僕の3年間の集大成。それがこの吹き矢の形をした魔具というものだ。魔具は武具に魔力を詰めた道具であり、それは通常の武器とは異なる。吹き矢に魔力を込めて盗賊の頸動脈あたりを狙って吹く。
吹き矢の矢は狙い通り盗賊の頸動脈を突き刺し、魔力が籠った毒が盗賊を侵していく。辺りは騒然と化している。そして、どうやら賢しい盗賊が吹き矢が放たれた場所を特定する。だが、その前に隠匿魔法で盗賊のところまで一気に近づく。
現れるときはずっと前からそこに居たように、消えるときはいつの間にかという魔法が隠匿魔法。それは達人レベルでは誰にも見抜けない代物だ。
盗賊の背中に来れば、一瞬にして剣で切り刻む。剣術は前世でもメジャーな技術なので毎日鍛錬をしていた時期もあった。そんな僕が放つ剣術は人が六回人生を歩まないと届かないといわれた程だ。
周りの盗賊はなにがなんなのか理解できず、あたふたとしている。
そんなことを繰り返していると、一人の盗賊がポツリと呟いた。
「ま、まさか……!【陰の盗賊狩り】……っ!?」
その一人の呟きに数少なくなってきた盗賊たちは、焦燥の額が見える。最近、盗賊狩りをしていると、その惨状を見た生き残りがその名を語り継いできた。【陰の盗賊狩り】。如何にも厨二心のその名にはうんざりしているのだが、なにもこの世界ではそういう称号というのが普通なのだ。まあ、魔法という概念がある時点でそういうことなのだ。
そろそろ姿を隠さなくてもいいと判断すると、僕は盗賊の前に姿を現す。
急に姿を現した僕に、盗賊は驚愕する。数は……いつの間にか三人となっていた。
人というのは、信じられないことには目を背けるのが多数だ。そして、それがもし目に見える形となったら───その存在を消すだろう。
まさか【陰の盗賊狩り】がこのちっこい子供とは思わないだろうなんだから。
二人は突っ込んでいき、僕の剣技に敗れる。
死んだ彼らは、何故死んだのかも理解が追い付かないだろう。
さて。
「君がボスみたいだね」
目の前にいる男を見据える。
「どうやって姿を消したのかは知らないが、二度は無いぞ小僧」
男はぶちぶちと血管を腫れ上がらせ、激昂とする。
そして、僕と彼の戦いが始まった───
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ストーリーなんも考えてねえ……こっからどうしよう