世界最強はルーン魔術を学びます
僕が溜めに溜まっているこのありったけの魔力を一部だけ結界魔法へと変換させる。その魔法は未だに乱反射している魔法弾をガードしている。
目の前の鹿はただ無機物に機械のようにその角から魔力を発し続けている。
しかし、その実態は正真正銘の生物だ。しっかりと代謝もしているみたいだし、きっとそうだろう。……そうだよね?
代謝をしていない生物っているんだろうか。
と、そんな思考している間にも魔力弾が結界に当たる。壊れる気配はない。
にしても、目の前の鹿は喋らずにずっと魔力弾を発し続けるだけだ。作戦も変えないとなると、様子見をしているだけだろう。知性もしっかりある証拠だ。だけど、こんな不毛なことをしていても状況は一切変わらない。
こっちから動こう。
「『大気凝縮』」
僕は片足を持ち上げ、その下にその魔法を発動する。『大気凝縮』。それは大気を凝縮させるだけの魔法。それ以外なにも効果はなく、一般的に魔力消費量が多いだけで魔道実験にしか使われていない。
しかし、『筋力増加』で強化されたこの足で凝縮された高気圧を踏めば───ヴアァァァァァァァァァァァァン! と辺りに衝撃波が舞う。うん、今思いついたけどいいかもな、これ。
実際に高気圧を思いっきり踏んだだけで辺りに衝撃波が起きることなんてないのだが、それは前世の話。
ここは異世界だ。この九年間で物理学も学びなおしたのだが、丸っきり法則が違うことなんてザラだ。
今ので鹿はよろけている。結構隙ができているといっていいだろう。そして、そのよろけは三秒という長い時間だ。
まるで、隙なんか関係ないと言わんばかりの遅さだ。
その誘いを受け取るべく、僕は『焔之水』を百個打ち込む。こちらもほんのお返しだ。
こんなのは欠伸をしながらでも出来るのでいくらでもやってやるよ。
『キュイィィィィぃイイ!』
そして、いつもの魔物ならここで倒れる。しかし、その百個を咆哮だけで消滅させた。いくらなんでも空気の揺れだけで魔法を打ち消せるほど便利なものじゃない。魔力が籠っているな。
そして、その空気の揺れが少しおかしい。何故か、空気の揺れがある一定の場所に溜まっている。だから、音がそこだけずっと鳴っている。この形は……
『『鹿咆哮崩星塔弾』』
魔法陣───……ではないが、鹿は魔法を発動した。しかも、魔力消費量が見られない。……珍しいやつを使っている。
それは、失われた魔法。ロストテクノロジーとすら言われた古代魔法───ルーン魔術。
古代文字とも言われるルーン文字を媒介に魔法を発動させる。魔法陣を使って魔法を発動させるのではなく、ルーン文字という文字を使って魔法を発動させるため、事前に文字を書いておけば魔法を発動できるので、魔力を消費しない。
しかし、何故ルーン文字を書いただけで魔法が発動されるのかが未だに解明されていない。それが、ルーン魔術がロストテクノロジーと呼ばれる所以だ。
しかし、今の魔法を見て分かった。
ルーン魔術、その正体は───
「こうか?」
僕は僕の掌にルーン文字を描き出す。
魔力とは、常に不純物がある。魔力回路にあるマナから作られた魔力は自身の血液や蛋白質などが含まれている。
自然にある魔力には酸素や窒素などが含まれる。
その不純物を完璧に失くし、純粋な魔力を使ってある一定の形のものを描くと、魔法が生まれる。
そもそも、魔力が消費する原理は、魔法を発動するときに酸素や血液などの不純物が摩擦してその抵抗を、魔力そのもので消費することで抵抗をなくす。
だから、純粋な魔力を使うと、魔法行使の魔力消費が無くなる。なるほど、良いことを知ったな。
理に直接干渉しているのと一緒だな。いわば、神が使う言葉……というのかな?
取り敢えず、魔力消費量が無く協力な魔法が打てるのは実に有能だ。メイドさんたちに教えとこうかな?
その前に……あれを防がないとな。
僕の目の前にある『鹿咆哮崩星塔弾』。流石に僕の結界魔術でさえも破れてしまうな。なら、
「『鹿咆哮崩星塔弾』」
僕も同じ魔法を打つまでだ。ルーン文字の使い方は先程知ったから後は目の前の鹿と同じルーン文字を描けばいいだけ。
籠った魔力量も一緒なので、二つの魔法は相殺する。
同じ魔法を使ったのに、鹿は当たり前のように突っ立っている───わけではなかった。
『なぜ、お前はここにいる? ルーン魔術を使えるのは、限られたものだけ』
「へえ、喋れるのか。驚いた」
『……一つ、賭け事をしよう』
こういう魔物が喋れることでさえ今世で二回目なのにさらに賭け事をすることになるとは……。笑えて来る。
くつくつと喉を震わせる。それは、本心からくる喜びだった。
これも、前世でギャンブルを極めたからだろうか?
「いいよ。内容は?」
すると鹿はさも当たり前に、僕が答えるのを予想していたのか笑っていた。
『今からオレの発動するルーン魔術を完璧に真似できたらお前の勝ち。できなかったらオレの勝ちだ』
シンプルだな。しかし、そんなこと、僕ができないとでも思っているのか?
「いったい何を賭けるんだ?」
『オレとお前の命だ』
命───まあ、そのままの意味だろう。賭け事の内容に対して賭ける物はデスゲームだな。
「それは無理だな」
『それじゃあ交渉決裂だ』
そういうや否や、鹿は僕に突進してくる。それは、青白く輝いていて、魔法とは思えなかった。いや、本質的には魔法なんだろうが、あまりにもそれは美しく見え、魔のものとは違って見えた。
「ははっ、思ったよりも狂ってるな。お前」
僕は二千個もの魔力弾を散弾させる。しかし、鹿は踊っているかのように避ける。そして、鹿から魔力の動きが見えた。
『『鹿咆哮崩星塔弾』』
残り四百個の魔力弾は、『鹿咆哮崩星塔弾』の四百個によって消え去った。いや、魔力弾は負け、四百個の『鹿咆哮崩星塔弾』が僕の方へ向かってくる。
「いやそれ連発できるのかよ」
若干突っ込みつつも、そのルーン文字をよく見つめる。うん、やっぱり先程のルーン文字とも違う。
まだ改良のし甲斐がありそうだ。
さて、この量をどうやって捌こうかな? 普通の魔法では火力不足で負けてしまう。かといって同じルーン魔術を使ったとしても駄目だ。もうすぐそこまで迫ってきている。『鹿咆哮崩星塔弾』は描くまでに時間を有する。
なら───
「作るか」
即効性、火力性を重視したルーン魔術を。
始祖の魔術。




