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僕は全てを極めます!  作者: ゆるん
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世界最強の楽しみ

「おお、タクシーラ。仕事ご苦労様。紹介するね、ハージュ。彼女はタクシーラ。私の助手だよ」


 ガスラルノアは、そう今も倒れている彼女を紹介した。


 僕はタクシーラを凝視する。彼女はキョトンとこちらを見るだけだ。


「こんにちは。僕はハージュ・ア・グレバール。よろしく」


 にっこりとあくまで敵意はないと示す笑顔を作る。


 先程、僕はこの娘の事を気づかなかった。常時、半径12㎞の探知魔法をかけている僕が気づかなかったのだ。一体、何者だ?


 見たところ、魔力は人並み。しかし、その体の中に渦巻く魔力回路は凄まじく太い。これはもしかしたら……元后を超えるかも。


「では、僕はこれで」


「うん、またね」


 ガスラルノアはにっこりと手を振って僕を見送った。


 タクシーラは最後までこちらを不思議そうに見ていた。


 そして、扉を閉めると、すぐに誰かが転移してくる。レニーだ。僕の親しい者には、僕の考えた魔法の一部を教えている。その一つが、この転移魔法だ。


 移動、戦闘共に優れているこの魔法は、僕のメイドたちも重宝している。


 何故か一般化していないのが不思議なのだが。


「なんだ?」


 レニーが真面目そうな顔でいるので、こちらも只事ではないことを考える。


「賊です」


 ただの賊なら、僕に相談する必要もないだろう。僕のメイドはそれなりに強いのだ。


 つまり、今回はそれほどだということ。


「移動」


「はい」


 レニーは転移魔法の術式を描き、その術式を真似て僕も転移する。転移魔法は、魔法陣に座標を描かなきゃいけないため、場所へ移動するためには座標を調べなきゃいけない。


 多少面倒ではあるが、それでもメリットが大きいので愛用している魔法だ。


 視界が真っ白となり、再び視界が晴れると、目の前にはミールイさんがいた。


「わっ!」


 唐突に目の前に現れたら誰だって驚くだろう。ミールイはそのまま尻餅をついてしまった。


「いった~……」


「ごめんね、ミールイ。大丈夫?」


 僕がそう告げるとミールイは有無も言わず立ち上がり、まるで軍隊のように「いえ! 大丈夫です!」と言った。


「ほんとに? それなら良いけど……目標(ターゲット)はあれ?」


 僕が視線を向けると、防御をしているレニーと……得体のしれない化物が拳を挙げていた。


 あれは……人だな。


「なんかポヨポヨしてるんだけど、あいつ」


「はい。ですけど凄まじいパワーで私達では太刀打ちできませんでした」


「なるほど、だから僕が呼ばれたわけだね」「よろしくお願いしま───」


 ミールイが最後まで言う前に移動し、その化物の頭部と思われるところに膝蹴りをお見舞いする。


 濃縮された魔力回路がある膝は、それこそ桁違いのパワーとなっており、蹴りだけで原子の分裂が起きる。それは核分裂と同等のエネルギーとなり、周囲に爆発を齎すが、それを魔力によって化物の頭部に集約することで周囲の被害は出させない。


 前世でもこの方法は考えたが、自身の体力的問題と科学的問題の二つの壁のせいで実現不可能だった。しかし、この魔法の世界ならそれが可能だ。


 そんなエネルギーを受けた化物の頭部はもちろんのこと破裂。しかし、それはニュルニュルと再生される。確かに魔力は人族のそれだが、それ以外は明らかに人外だ。


 さて、これはキメラとでも名付けとこうか。


 明らかに人ではないのと、しかし人であるという矛盾そうで矛盾じゃないという複雑な存在なキメラさんだが、はたしてどうして救ってくれようか。


 まずは───捕縛系魔法で捕まえる。意外とパワーがあるから捕まえるのに苦労する。


 ぐぐぐと喉元あたりの鎖に力を入れれば酸素不足なのかぐったりと倒れた。


「さて、どうするかな? なにかある?」


 僕はメイドさんたちに視線を向ける。すると、人影がどこからともなく現れる。レニーは何故か毛が逆立つ。このレニーの反応は……


「おはよう ハージュ」


 この仄暗い地下でも一際目立つその水色の髪が靡く姿は、明らかにこの世界のものじゃない神秘てきな何かを感じる。


「やあ、勇者様」


「私のことはクラルって呼んでって言ったじゃん」


「わかったよ、クラル。で、なんでこんなところに来たの?」


「用は、貴方」


 クラルは、真っすぐに僕の目を見つめる。


「僕?」


「そう。この前、言った。なんでもするって。私、考えた。だから、来た。だけど、これはなに?」


 クラルの視線の先には、僕が縛った化物が。


「え、えーっと……」


 淀みながら視線を逸らす。どうやって説明しようか。そう僕が思案していると、勇者さんはなにか察したように頷いた。


「こうする」


 クラルは化物に手を当て、眩い光を掌から発する。


 するとみるみる内に化物の顔が女性の顔へと変わってゆく。


「聖魔法か」


 聖なる魔術、聖魔法。魔法の波長を変えただけだが、それは聖へと成る。


 主に教会でしか見られない類だけど、まさか勇者でも使えるとは。知らなかった。


「さて、私の任務は終わり。後は貴方になんでもするという約束を叶えさせてもらうだけ───」


「ちょっと待ってください! 確かにそんな約束はしましたが、今それをしなきゃいけないということはありませんでしょ⁉」


 クラルがウキウキした気持ちでこちらを見つめるが、それをレニーが阻んでしまった。


「そ、そうです! そうやって略奪してこちらを興ふ……じゃなくて! 絶望させようとしてるんでしょ!」


 と、なぜか意味がわからないことを言っているミールイさんまで現れた。この前もそうだったが、ああなった三人は止まらない。何故か僕を独占しようとする結論に至るからこれは逃亡するのが正解だ。逃げよう。


 そして、本当の目的はこちらじゃない。


 先程の化物に紛れていたある気配───


 もっとこの地下の最奥にある存在の気配。これは……先程の比じゃなさそうだ。


 あまりにも洗礼された気配遮断。その領域になるとそこだけ空間がスッポリ空いているような感覚がある。


 コツンコツンと奥へと歩き出す。先程いた場所も荒んでいたが、こちらのほうがもっと酷い。


 人が出入りしている様子もないな。


 そして、道すらなくなる。


 もはや人口ではなく自然でできたこの地下に───扉があった。だいぶ古い。これは『魔法困窮時代』よりももっと昔に造られた建物だ。


 よく周りを見ていなかったけど、ここはダンジョンなのかもしれないな。


 ダンジョンは、自然で成形される魔物発生が頻繁に起こる場所。それは神話の時代に神が造ったと言われるほどだが……はたして、そんな昔のことを調べられる人はもうこの世にはいない。


 ダンジョンは、ただ一直線にある。そして、最奥にはダンジョンヌシと呼ばれるボスがいる。


 ギギギと扉を引くと、妖し気に光る球体が視線の先にあった。その球体は僕の存在を確認するや否や形を変え、それは鹿の形を模した。


 そして、その形は見覚えがあるものだった。


 だけど、その思い出とは程遠い理性が無い魔物がそれであった。


 そんな思いが混雑としてあったが、真っすぐに惹かれた思いは一つだけ。


 ───楽しもう───

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