世界最強と最高魔道到達点との邂逅
あの絶望的状況から数日。ちなみにどうやってあの三人を言いくるめたかというと、ただ単に前世で嘘つきの友人がいたのでソイツを参考にしたまでだ。
『女の子なんて優しくしたらす~ぐに落ちちゃうんだから~、あっもちろん君は別だよ? 僕の一番だから』
とか言いつつも通信アプリで違う女子とチャットしていたアイツのことを思い出す。
僕はホモではないと誓おう。
そして今。僕は学園服に袖を通している。今日は学園入学式だ。今までは宿で泊まりだったけど、今日から学園の寮で泊まるということになるな。
僕は上を見上げる。そこは二度も見た巨大な学び舎の時計台。そう、ここは学園の門だ。
そして、視線が刺さる刺さる。「ほう、あれが今回の首席か……」「随分と普通の姿ですな」
……なんか聞こえる声がもうやだ。前世の記憶が蘇る……。
えっとー……最初は教室で待機……だっけか?
僕のクラスは、21-3か……。ちなみにだけど、この世界は人口が多い。昔は魔法困窮時代と呼ばれた人口が信じられない程減少したことがあったけど、それ以降は人口爆発がこの大陸に起きて、今じゃこのありさまだ。
この学園もその人口に耐えられるほどの巨大さだ。前世の比じゃない。
教室に入ると、全員がバッと此方を向く。その目は、僕が首席ということを知っていそうな目だった。
その後は、質問地獄にあわされて終わった。
もうホントにきつい。
あれ? テーラーも同じクラスだ。よろしくね。
……あれ? 勇者様も同じクラスだ。……約束? あっ、はい。覚えていますよちゃんと。
「「よろしくね、ハージュ」」
なにか嫌な予感がする、気がする。
ちなみに、勇者との約束はその場のノリでしてしまったものだ。あの時はなんとか言いめくるために『可能な限りなんでもするよ』と言ってしまった。
僕は憂鬱な気持ちで歩き出す。どうやらこの後、理事長のありがた~い言葉があるようだ。
そして、みんなで体育館に座る。こういうことも前世とそっくりなようだ。そして、理事長───ガスラルノアが教壇へと上る。
その後のことは語らなくていいだろう。
上っ面だけの抗弁をただ垂れるだけの作業に、前世も今世も必要なのかと甚だ思う。
それに、あのガスラルノア本人の言葉は、実に薄っぺらかった。いつでも嘘を付けられる、そんな感じがした。
でも、そんな作業にさらに腹立たしかったのは……
『では、今年度首席のハージュ・グレバールくん。前へ』
なんの事前準備もなく特待生祝辞なんかという代書きで教壇へと上らされたことだ。
みんなの前で話すのは慣れたことだから別にいいのだが、普通に恥ずかしい。
そんな今。
僕は理事長室の前に居る。あの後、ガスラルノア本人から理事長室に来るように伝えられた。
コンコンと軽いノックをする。すると扉の向こうから「どうぞ」と重そうな声が聞こえてきた。
僕は指示通りにドアを押し開ける。部屋の奥の方に居る未だ若き女性が、現【魔帝】、魔術師最高到達点と称されるお方だ。
実際にはこの若そうな見た目でも魔法で600歳は生きているとの噂だ。
「やあ、先程は無茶ぶりをしてごめんね」
「ホントに、とんだハズレくじを引きましたよ」
罰が悪そうに言うと、目の前の彼女は目を真ん丸として驚いていた。
「どうしました?」
「……いや、私にそんな軽口を叩けるのは、この世で君だけだろうね」
「もっとかしこまった風に言った方がいいでしょうか?」
すると彼女は手をブランと力無く振る。
「別にそんなことなんてしなくていいよ。それに私は友達気分で話しかけられるほうが、かしこまった感じよりもよっぽど良い。媚びを売るようなものに見えてしまうからね」
「そうですか。ではこのままでいきたいと思います」
「……うん。じゃあ本題に入らせてもらおう」
再び、重い声が彼女の喉を震わせ、僕の耳朶を打つ。
「君は……ずいぶんと試験でやんちゃしたそうじゃないか」
「そんなつもりはなかったんですがね……」
「いいや、録画系統魔法で君の姿を見せてもらったけど……あれは驚いた。ちなみに聞くが、君はまだ9歳だよね?」
「戸籍上では」
「変な含み方で物事を言うね、君は」
ガスラルノアはクスリと顔を崩した。
「……それで……あの魔法は、なんていうものなんだい?」
その笑いが込みそうな一言に、僕は思わず吹き出てしまった。
「やっぱり、貴方も戦闘マニアの方なんですね」
先程から薄々ではあるが気づいていたが……これは本物だ。とことん自分の武を磨き上げる。
多分、それがこの人の本質なんだろう。その敬意を称え、僕はその魔法を口にする。
「『直線流星』」
「……『直線流星』?」
「ええ、それが、あの時放った魔法です」
「既存の魔法ではないんだね。魔法陣を見せてもらっても?」
僕は、掌に魔力を流さず『直線流星』の魔法陣だけ描く。
「ほう……美しい。ここの陣のパターンは繋ぎにくいはずなのだが……どうやって繋げているんだ?」
「それはここのパターンを使えば魔法線で繋がったここのパターンの繋ぎが強くなります」
「キューレマーの魔法則か! 確かにそれを使えばこうすることも可能だが……よくキューレマーの魔法則を使おうと考えたな。あの魔法理論は理解するのが難しく、応用が多い。それに、魔法学者の者しか使わぬメジャーなものはずだけど……」
魔法陣からこちらへと視線を切り替える。僕は目を瞑って過去の事を思い出していた。
「何年か前、タオランジャクの『魔術』を読み漁っていました。そして、この魔法理論が目に留まったのです。そのことを思い出したので、そこに描いてみました」
「なんという記憶力……それが、君の強さを足らしめているのだね」
そんなこと、考えもしなかったな。僕の強さ、か。確かに、脳も魔法で弄っているのだし、完全記憶力を維持している。僕は、もう魔法で出来た体といっていいだろう。
だから、こうして人の域を外れた力を得ているのだろう。
「───私は」
急な声が、僕の眼前へと差し掛かる。
「私は、自身の中で人を区別している」
「……例えば?」
「下から順に、『盆』『棲』『塔』『錬』『空』。そして、間違いなく君は『空』にいるだろうな」
その言葉には、少なくとも闘志なるものが籠っているような気がした。
「……貴方は?」
「……私も、『空』だよ」
「ずいぶんと野心家なのですね」
「確かめてみるかい?」
先程感じた闘志というのは、あたっていたみたいだった。
「……いいえ、流石に元后様には敵わぬと思いますので。遠慮しておきます」
───だが、今ここでやるにはリスクがデカすぎる。それはまた今度にしよう。
「そうか……残念だよ。また今度、ということでね。じゃあこれで用件は終わりだよ。付き合わせちゃって悪いね」
「いえいえ。では」
僕は扉の前に立ち、その扉を引くと……人が倒れた。
「ぶぎゃっ!」
純粋で穢れることのなさそうな黒い髪の毛。そんな女の子が僕の前に倒れてきた。
「……誰?」
僕は、そう呟いたのだった。
ぴっぎゃああああ。次回はあと二週間後になりそう?




