世界最強の混乱
また目が覚める。これで4回目だ。左右を見ると右隣にはレニーが、左隣にはミールイがいる。この光景も4回目だ。
何故、こんなに成長期真っ只中の僕が深夜に何回も起きているのかというと、あの勇者のせいだ。
『……好き……』
未だにあの場面が脳裏に浮かぶ。いやまて、好きって異性が好きってことじゃないよな? もしかしたら友達として気に行ったという意味の好きって意味かもしれないし……
って! なんでこんなにも異性からの好意を気にしてるんだ⁉
前世だって、好きといわれることは多かった。今世だって、世辞とはいえ、この二人のメイドからいつでも好意を貰えてる。
けど……。首を上に向けると、天井のシミが見える。古い宿を借りているからだ。
僕は、あんなに真正面から好意をぶつけられたのは初めてだ。
それが、なんだか、心を温かくするというか…………単純だな。僕。
そんな自己完結を済ませ、僕はまた意識を寝床へと還らせる。
§
「それで、新入生の方はどうだった?」
ここは、王立第二学園、職員室。ここでは、先日行われた試験の報告を会議でまとめていた。
「初等部のほうではタートルが主席としていいでしょう」
「それに関しては賛成です。あの子は将来、勇者を支える賢者となることでしょう」
初等部。所謂、小学生といわれるところで、そこでも先日、試験が行われていた。
王立第二学園は、幼等部、初等部、中等部の三つが併合している学園だ。幼等部から入学していれば、試験を受けずとも願望すれば初等部、中等部と順に入れる。
初等部と中等部に入ることは、王国の義務であり、平民などは初等部から入ることが多い。逆に、貴族などは幼等部から入ることが多い。子供を幼いころから学ばせるためだ。
「中等部に関しては例年通りです。獣人族のコタールが他を抜いて凄いといったところでしょうか」
「あの子は持ち前の洞察力とコミュニケーションで在学中の生徒と接触して、試験の内容を事前に知っていたようです」
この学園の試験は、なんでもあり。それは、公にされていないが、少しでも賢いものなら知っていること。カンニングでも、ドーピングでも、試験が優秀ならそれでいいのだ。
学園の目標は、生きていく人になること。この魔法が蔓延る過酷な世界で、セコイやズルいは関係ない。生きてさえいれば、人である。それが、この世界の古から伝わる言葉であり、学園設立当時からの目標でもある。
「問題は───幼等部です」
「なんだ? そういえば、幼等部には勇者がいるということなのだが……その勇者がなにかしたのか?」
職員室の上座に座るものが意見を言う。しかし、幼等部のことを話している者が首を左右に振る。
「ハージュ・ア・グレバール。グレバール公爵家からの出であります」
資料が前に出される。その至って普通の公爵らしい資料に、上座に座る者が首を傾げた。
「これの何がおかしいのだ? おかしい部分が分からないのだが……」
「試験の結果をご覧ください」
次に、試験の結果が前にだされる。そこで、場が騒乱と化した。
筆記試験。合計点数は平均ぴったし。だが、試験問題の正答率の方に問題があった。
「これは……!」
その問題は、正答率00%。そう、未解決問題というやつだった。
「今すぐ確認しろ!」
ファルターの魔道定理。ファルターという天才魔導士が330年前に残した魔道定理。ファルターが読んだタオランジャクの『魔術』という本のメモとして残された問題。それがファルターの魔道定理というやつだ。
幼等部の筆記試験にこの問題を用意するというのは、非常にズルいと言わざるを得ないが、それも学園長の遊戯というやつだった。
解けるなんて、想定されていない。
「あっ……あってます……」
「冗談だろ……! これが答えだなんて、どういう魔道論理だ……」
「そして、実技試験もご覧ください」
「筆記試験も予想外だったが……⁉」
瞬間、再び場が驚愕する。もともと、勇者の行動にも驚かされていた。幼等部では弱い魔物でも敵わないことが多い。だが、それを一匹も残らずに倒すのは至難の業だ。それを幼等部の内にするのは十分、異常。
しかし、明らかにハージュは化物だ。
迷路は世界で最高峰の強度を誇るアダマンタイトを壁に使っている。それを一直線に壊すというのは、明らかに異常な事。どんな魔法を使ったのか、見当もつかない。
(まさか、魔禁術……)
この場に居た全員の思考が交わった。
魔禁術とは、魔法の禁術とされていて、あまりの危険性に禁忌とされた魔法。
そんな魔法を、幼等部が行使できるのかという問題だが、そもそもとして全てが規格外の少年が、魔禁術を使えないというのはさらさらなかった。
「決めよう。ハージュは首席だ」
その言葉に、否定の意は誰も唱えなかった。
§
四日後。僕は試験の結果を見に来た。が、人がいっぱいで見れない。ここは『千里眼』で試験結果を見るか───……ん? 首席?
そこにあったのは、首席と書かれたハージュの名前が……あれ? 同名の人って他にも居たんだ?
さて、他にも探さないと……確か試験番号っていう物があったよな? 僕は49番だけど……
首席には、49番が……。
あ、え? あえ? あえあえあえあえ?
「ご主人様! 首席ですよね! 私見えますよ!」
獣人族だから目が良いミールイが言う。どうやらごまかせられないようだ。
というより、なんでそうなった?
僕は試験中の出来事を思い出す……。うん、確かに無茶してたな……
あの時格好つけてやったのが間違いだった~!!!!!
いやさ、だってあの場面はなんか格好つけないと男として0RFHB㉓0ℊ^Hqnv……。
「おめでとうございます! ご主人様! 制服はもうありますがここで着ますか!」
なんであるの? 「だって合格するの分かってますから!」……ああ、そう。
用意周到のレニーさんは仕事人だ。
さて帰ろう。
そんな憂鬱な気持ちを押さえて、後ろを振り返る───と、瑞々しい青髪の可憐な少女が立っていた。
そう、勇者様だ。なんとも気まずい。だって僕はこの四日間この小悪魔少女によって眠れなかったのだ。
「ねえ」
静謐な少女の声が、僕の耳朶を打つ。
「私の事、好き?」
ブッフォオオオオオオオ!
「「ご主人様⁉」」
勇者からの一言に、僕の鼻や口などの穴から血が出る。やばい、大量出血する。
一分後……
僕らは、カフェに居た。
「貴方は、友達として僕が好きですか」
「たぶんちがうそうでもない」
「貴方は、僕に話しかけていますか」
「たぶんそう部分的にそう」
「貴方は、異性として僕が好きですか」
「はい」
アキネ〇ターかな?
「え、えーっと……」
僕は、言葉に窮する。
ちなみに、隣に座るミールイさんは親の仇を見るような目で勇者様を見て、レニーさんは恍惚の表情でこちらを見ている。
なんで、こうなったんだろうなあ……
僕は、空を仰いだ。
ファルターの魔道定理についてもっと書きたいけど我慢っすね。




