世界最強は家を出ます
僕は今、研究室で魔法陣を見ている。この魔法陣は、レニーとミールイの二人が作った耐魔力中毒のための魔法陣だ。
中央で回る魔法陣の性質、メリット、デメリット、魔力の消費量などのその全てを見る。
その全てを見ているが、なんとも信じられないことにこれは耐魔力中毒の性質を持っている。まだ未熟なものがあるが、たった一つの魔法陣でこんな精巧なものが作られるのか。
これを改良すれば、さらに少ない魔力消費で魔法を展開させることができる。この右端のところは要らないな。ここの両端は確かに安全面を重視されている。が、その分魔力消費分があるのでここも除外。
僕の魔力制御技術ならこのくらいの危険性は安全といってもいいくらいだ。
あとは余白の部分を隣にくっつきやすい陣のパターンにして……完成かな。
魔法陣は、その"銘"がある。魔法陣が作られたとき、天啓的に、頭の中からとある言葉が生まれる。それが銘だ。
もちろん、この魔法陣も銘が浮かんできた。その名も、
「『魔力中毒反射』」
「ご主人様! 遂に完成したんですか⁉」
ミールイが身を乗り出して可愛らしい尻尾を振る。ああ、と軽く返事しながらミールイの頭を撫でると、癒されたかのように目を細めた。
「でも、僕はこんな魔法できないと思ったし、これを完成できたのはミールイとレニーのおかげだよ。ありがとう」
なにかうずうずしているレニーは、嬉しそうに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
にしても、ホントにこの魔法陣は凄い。こんな発想ができるとは……実は二人には魔法を作る才能があるのかもしれないな。少なくとも、この魔法は僕が発見するのに何年後となったことか。
さて、実際に試すとするか。
「じゃあ、早速これを二人にする」
二人に『魔力中毒反射』の魔法陣を見せる。それと同時に二人は頷いた。心の準備はできたみたいだな。その魔法を展開させる。
さらに『魔力相対連繋』を二人にかける。僕の魔力が少しだけ少なくなった。だが、それも一部の一部。体感の0,000000000000000001%ぐらいだ。
「すごい……!」
「これが、ご主人様の魔力……」
「まあ、使いたい時に好きに使うといい」
なんせ、魔力は腐るほどあるのだから。
というよりも、思ったより魔力が減らないな。これでは、殆どいつもと変わらない。でもまあ、時間は前世よりもある。ゆっくりと魔力制御のことは考えるとしよう。
僕は研究室を後にする。もう少しでここもお別れか。すぐに戻って研究したいな。
§
二日後。昨日は今日の学園に行く準備の最終確認をしたのであまり魔法の研究はできなかった。
学園についてくるのは、専属従者のみ。つまりは、レニーとミールイだけだ。でも、この二人は僕は信用している。裏切ることはないだろう。
家族は馬車を用意してくれたが、別に僕が全力ダッシュしたら半日も経たずに着くのだが、それを言ってしまったら終わりなので我慢している。
でも、馬車に乗ったら二日かかるんだよなあ……。
ここは我慢して馬車に乗ることにする。そして、相も変わらずレニーとミールイの二人が僕の両腕にくっついて離れない。馬車の中だから人目はつかないけど……「坊ちゃん、モテモテですねっ」と御者がからかう。こういうのがあるんだよ……
がっくりと項垂れて僕は学園に向かうことにするのだった。
「元気でねー!」
「ちゃんと勉強しろよー!」
「早く帰ってきてね~!」
公爵家のみんなが手を振っている。だけど、前世では、こういうことがなかったな。
───前世、俺は発展途上国のスラム街で生まれた。犯罪は当たり前。五歳にもなれば子供でも戦う術は身に着けていた。
死も間近に住んでいるその中で、六歳にもなれば両親の顔さえも覚えていなかった。
俺は運よく奴隷で買われ、労働力として過ごしてきた。その中で、僕は武術を覚えた。受け身を取らなきゃ殴られるのを耐えられないからだ。他にも、なるべく急所は避けたり……。
そんな時だ。暇だったので外で武術の練習をしていると、あるオジサンが現れて、筋がいいから、と拾われた。そこから、俺は全てを身に着けた。とりあえず、学ぶものがあれば全部を覚えた。
それが───
「ご主人様? どうしたの? そんな悲しい顔して」
「ハージュ様、私たちでは御不満だったでしょうか……」
! どうやら過去のことを思い出していたら二人を心配させてしまったようだ。
「そんなことないよ。別に、なにもないから。安心して」
そうだ。いくら過去のことを悔やんだって過去は変わらない。だから、今は今世を楽しもう。それが、僕なんだから。
「さあ、手を振ろう? 多分、これから先あまり会うことはないと思うから」
「? ハージュ様は学園を卒業為された後は家に帰らないのですか?」
「帰る気はないね。それでも、二人は一緒に着いてきてくれるかい?」
「もちろんです!」「当たり前です」
即答だった。頼もしい二人だ。ある日、魔術で作った道具で二人の僕に対する好感度を調べたことがあったが、なんとカンストしていた。
MAXを100に設定したが、二人は測定不能。機械はそのまま壊れた。それ以来、この二人には絶対の信頼を置くことと、少しの恐怖を覚えた。
そうこうしているう内に、一日が終わった。夜、僕らは野宿をした。
その間も、僕は探知系統魔法を忘れずに過ごしていた。───! なにか探知魔法に引っかかった。人の気配だ。複数人───ざっと六人くらいか。手練れだな。
「ちょっと行ってくる」
「着いていきます」
レニーがなにかに勘づいたのか、僕の傍に寄り添う。
「別にトイレだから、気にしなくていいよ……」
やんわりと嘘を吐く。今、来ている奴らは日頃鍛えているこの二人でも敵うかあやういレベル。連れて行かない方がいいだろう。
レニーは顔を真っ赤にして僕に離れていく。
これでいい。僕は手練れ六人に向かって歩いていく。夜は、魔物で溢れている。ましてや、こういう馬車の道中だったらなおさらだ。
魔法で魔物をいちいち殺しながら進むのは面倒だな。一気に片そう。探知魔法を発動。魔物の位置を特定して、そこに魔法陣を飛ばす。こういうのは魔法陣に座標を描かなきゃいけないので魔法陣の余白を埋めることになる。だから、距離が空く魔法は威力がいまいちだ。
一匹の魔物に複数の魔法陣を用意しないといけない。めんどうだ。ここも改善していかないと。
さて、ここに六人がいるようだが……姿が見当たらない。まあ、ここは森の中だ。木々に隠れているのだろう。例えば───僕は後ろに短剣をかざす。するとそこに魔法が飛んできた。相当な威力だ。一発で短剣が溶けてなくなった。
「まったくつまらない」
魔法は相当な威力だった。でも、僕に敵わない。足元にも及ばない。
「そんな軽口を叩ける余裕があるなら、これだって防げるよね」
足元に刃が飛んできた。それをスレスレにバク宙で避ける。それと同時に足で魔法陣で紡ぐ。足は手より器用ではないので両足でなんとかする。
今では息をするように展開する『焔之水』を発動させる。その威力は、昔の比ではない。木々が燃え盛る。これで少しは明るくなったな。
「森で火系統魔法を打つとか、イカレてるね!」
何故か楽しんでいるやつがいるな。戦闘狂とかか?
まあいい。さっさと済ませよう。
きゃはは……




