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【書籍化】碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。  作者: 巻村 螢
第二部 碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で後宮妃の心に花を咲かせます。

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終ー8 部下の変化

「どうやら亞妃様の体調は戻られた様子。いやはや、良かったと喜ぶべきなのか、これはこれでまた面倒臭いと言うべきなのか……」


 呂阡は神経質そうに、指先で書類を捲っていく。


「しかも、なにやら早速百華園で騒ぎを起こした様子。けいぐうから苦情が来ていましたよ。何でも侍女が脅されたとか何とか」

「それは芙蓉宮のお姫様には非はありませんよ。オレもその場にいましたから。桂花宮の侍女達の性格が悪かったってだけです」


 呂阡は目の前に立つ万里をギロリと一睨し、そしてまた手元へと視線を戻す。


「問題の火種が増えたことは憂慮すべきことですよ。全く、例の医官も余計なことをして。和を乱してないと生きられない病かなんかでしょうか。わざわざ狄まで行くとは……それを容認した陛下も陛下で――」

「狄ではなく白国ですよ。先日、布令が出ましたよね」


 呂阡の言葉を訂正で遮った万里に、呂阡は捲っていた手を机に叩き付けた。


「一体何ですか、春万里! 先程からそこに突っ立って。何か用件でもあるのですか? ないのであれば、私はあなたの感想に付き合っている暇はないのですから、さっさと仕事に戻りな――」


 ただでさえ瞳が小さい呂阡の三白眼が、興奮にさらに瞳を小さくした時、万里がついと手紙を机に置いた。

 突然差し出された手紙の題字を見て、呂阡の瞳はそれこそ点になる。次の瞬間、呂阡の眉間にかつてないほどの谷が刻まれる。


「……春万里、これは何ですか」


 机に置かれた一枚の紙を手に、呂阡は目の前で素知らぬふりをしている万里を睨んだ。呂阡が手にしている手紙には、『辞表』としっかりと記してある。


「見ての通りのものですが?」


 はぁ、と呂阡は頭が痛いと溜め息で伝える。


「…………理由はなんですか」

「逃げるのはもうやめたんです」


 万里は、眉一つ動かさぬ涼しい顔をしていた。


「逃げるとは何のことです。分かるように話しなさい」

「自分の本当の気持ちから……ですかね」


 訳が分からないと、呂阡の眉間の皺はさらに深くなっていく。


「多分このまま官吏として進んでも、オレなら結構良い位置までいけると思うんですよね」

「自意識過剰です……が、概ねそうでしょうね。あなたなら、私のように若くして長官席に座ることも可能でしょう」


 万里は「どうも」と人懐こい笑みで顎先を下げた。


「でも……オレは多分、呂内侍の椅子に座った日には後悔すると思うんです。その座り心地良さそうな椅子の上で、オレは呂内侍みたいに眉間に皺寄せて、選ばなかった道ばっかりをずっと気にする羽目になるんですよ」


 選ばなかった道というのは、もしかすると彼の奇妙な経歴のことだろうか。


「し……っ」


 呂阡は口を開きかけて、出そうになった言葉を呑み込んだ。


『くれぐれも、上が下の邪魔をしてはならんぞ』――記憶から蘇った孫二高の言葉が、呂阡の言葉を奪っていた。


「……理由はわかりました」


 しかし、まだ納得はできない。


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