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【書籍化】碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。  作者: 巻村 螢
第二部 碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で後宮妃の心に花を咲かせます。

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終-5 最多来訪者

 この頃月英は思うのだが、皇族専属医の呈太医よりも、自分の方が燕明と接する時間は多いのではと。

 月英の居場所と言えば香療房か燕明の私室と言えるほど、すっかり馴染んでいる。


「仕方ありませんよね。月英殿は私の子ですし、子が父に会いに来たいと思うのは当然ですから」

「待て。さらっと、さも自分に会いに来ているかのように認識を改竄するな。月英は俺に会いに来ているんだが」

「燕明様、眠気が残っているようでしたら、一度顔を洗われてはいかがです?」

「もう夕方なんだがな」


 残る眠気も何もないだろう。完全におちょくっている。


「ていうか、まず人の心を読まないでくださいよ、藩季様」


 相変わらずどんな技なのか謎である。


「それと、僕は別に陛下に会いに来てるわけじゃないんですよ。ここ最近は、色々と報告する事が多かっただけです」


 やはり、燕明を訪ねる機会が多かった一番の理由は、亞妃の様子を報告をするためであった。


「何もそんなにハッキリバッサリ切らなくとも……」

「不憫ですね、燕明様」

「お前はハッキリ言いすぎだ。もう少し隠してくれ」


 相変わらず、主従がどちらか分からない関係性をしている。

 見ている分には愉快なのだが、そろそろ燕明が爆発しそうだ。執務机の上で握った拳が震えている。


「――って、藩季のことなどどうでもいい! 今日の本題は亞妃だ、亞妃!」


 案の定、燕明は声を張り上げいつも通り無理矢理話題を修正する。


「それで月英、亞妃はもう大丈夫なのだな」

「大丈夫ですよ。むしろ、今の彼女に敵う人は後宮にはないんじゃないですかね」


『敵う』などと、今までの亞妃とは繋がらない言葉が出てきた事に、燕明と藩季は顔を見合わせて、「どういう事だ」と月英に首を傾げて問うた。

 月英が「実は……」と、先日の侍女との騒動と、万里に対する示威行為を笑いながら話せば、二人は「まさか」と目を瞬かせていた。


「まさかあの物静かな亞妃に、そのような一面があったとは……」

「まあ、亞妃様も狩猟民族である白国の民ですからね。それに、あの烏牙石耶様の娘でもありますし」

「確かに。そう言われれば納得だな。まあ、姿はまるで似てはいないが」


 視線を宙に飛ばし、クツクツと喉の奥で笑う燕明は、きっと大于と亞妃の姿を並べて思い出しているのだろう。

 耳より情報として、大于と亞妃の爪の形がそっくりらしいことを教えてやれば、「しょうもなっ」とさらに笑みを深くしていた。


「――しかし、移香茶だったか? お前が北の花で作ったものは」

「ええ。お茶っていう萬華国の文化と、待雪草っていう白国の香り……二つがあったからこそできたものです」

「まるで、萬華国と白国の架け橋になろうとした、亞妃のような茶だな」

「とても温かかな女性ですよ、亞妃様は」

「月英も、とても温かだよ」


 蕩けるような穏やかな表情で思いがけない褒め言葉をもらい、月英は面映ゆそうに視線を落とした。

 もごもごと、嬉しさで口が勝手にニヤけてしまう。


「亞妃のことを最後の最後まで諦めなかった。きっと、亞妃の笑顔は月英にしか取り戻せなかったのだろうな……そんな臣下を持てて、俺は嬉しいんだ」


「ありがとう、月英」と、燕明が目礼を送った。

 褒められることなど殆どなかった月英。

 正面からの褒め言葉と感謝の言葉に、口の中が酸っぱくなった。

 嬉しさと気恥ずかしさと、そして仄かな誇らしさが、月英の胸の内側を優しくくすぐる。


「い、いえ……その、僕こそ結構自由を許してもらってて……北に行かせてももらったし……だから今回の事はできたって言うか……その、つまり――」

「つまり?」


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― 新着の感想 ―
[良い点]  終章ですが、今回もほんわかした気持ちで読み終われそうですね。  叶うなら、月英と主上さんには進展してもらいたいですが……  それは脇に置いておき、最後まで楽しみにしております。
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