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【書籍化】碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。  作者: 巻村 螢
第三部 碧玉の男装香療師は、国を滅亡させる!?

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4-5 月英の恋人殿

「――よし! さっそくこれを鄒央さんに伝えないと!」


 内侍省の前で、そう月英が意気込んだ時だった。


「え、月英」


 不意に名を呼ばれ振り返れった先には、万里がいた。

 一週間も経っていないというのに随分と懐かしく思ってしまう。


「ば、万里!」

「月英、オマエなんでこんなところに!?」

「万里こそ、こんなところで何してるの!? 春廷が万里が香療房にもほとんど戻ってないって言ってたけど……」


 万里は内侍官と一緒に百華園から出てくるところだった。

 どこかの宮に香療術でも施しに行っているのか。いやしかし、翔信からは香療術も全部禁止されてると聞いている。

 であれば、なぜ。


「万里、もしかして亞妃様の――」


 そこまで言ったところで、間に素早く翔信が滑り込んできた。


「月英、ここはまずいって。宮廷内だし、どこから御史台に漏れるか分かんないから」

「そうだった……接見禁止だ」


 ぼそぼそと翔信に小声で呟かれ、月英も思わず辺りを見回してしまう。

 向こう側に万里が見えているだけに、至極もどかしい。


「さ、行くよ」


 未練がましく口をもごもごさせる月英を、翔信がこれ以上は、と肩に手を掛けた。

 月英も諦めてその場を去ろうと、万里に背を向ける。


「月英!」


 しかし、万里の声が月英を振り返らせた。

 そして、万里の行動は周囲に困惑を与えた。


「え……なになに? どういうこと?」


 万里は頭上で大きな円を描いたり、身体の横で振ったりと謎な動きをしていた。

 手振り身振りというやつなのだが、無言でやっているから見ている方からすれば何やってんだ状態。


「ちょ……万里……大丈夫か?」


 思わず、傍観していただけの内侍官すらも口を挟んでいた。

 しかし、翔信と内侍官が困惑の目を向ける中、月英だけは違った。


「ハッ!」

「いや、月英……『ハッ!』じゃなくて。というかこれではっとする? どこで?」


 月英も万里と同じように無言で肘を叩いたり、首を揺らしたりして応答する。

 そして最後に満足げな表情で頷くと、万里も達成感あふれる表情で頷いた。


「いや嘘でしょ。何が通じ合ったの。これで何が分かるんだよ? もう二人の間には言葉は要らないってか? ばかやろう、どこの恋人だよ羨ましいんだよ」


 理解を超越した二人に、翔信の情緒が崩壊していた。

 内侍官はただ静かに目を閉ざしていた。


「さあ、翔信殿! ここは大丈夫みたいですから行きましょう!」

「お前、さっきまでガニ股でカニの真似してたの覚えてるからな。そんな格好付けてもガニ股で歩いてたの忘れないからな。どういった意思疎通をすればカニが出てくるんだよ」

「カニ? そんなことより、茶心堂へ急ぎますよ」

「もうやだ……ついてけない……」


 泣き言を言う翔信の手を引っ張って、月英は茶心堂へと急いだ。




 

 

 遠ざかっていく小さな背中を、万里は安堵した眼差しで見送っていた。

 元同僚が隣で「お前ってそんな奴だったか」と若干引き気味の声を漏らしつつ、内侍省へと戻ったのを確認し、万里は思い切り背伸びした。


「さて、アイツの元気も確認できたし。俺もやることをやらないとな!」


 不安が晴れ、久々の清々しさを胸に後華殿を出た瞬間だった。


「目と目で通じ合う、か……ほう?」


 声に驚いて横を向けば、殿柱の陰に背の高い男が立っていた。

 背に流れる髪は、いっぺんの混じりけもない黒色。身に纏う袍には金糸の刺繍が施され、佇んでいるだけで香り立つ色香。


「ぉ……ぁあぁ……っ」


 男の顔がゆっくりとこちらを向く。

 この国一の白皙の美貌が微笑んでいた。


「少し話をしようか……月英の恋人殿」


 美丈夫――燕明の額に立った青筋を見て、聡い万里はこの後の自分の命運を察した。



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