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【書籍化】碧玉の男装香療師は、ふしぎな癒やし術で宮廷医官になりました。  作者: 巻村 螢
第三部 碧玉の男装香療師は、国を滅亡させる!?

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3-4 お客サン、店ノ前デ何ヤッテルネ

「何度来られても同じだよ! 商売の邪魔だからさっさと出て行きな!」


 張朱朱に首根っこを掴まれた月英と翔信は、ぺっと店から追い出されてしまった。

 待ってと振り向くも、来るなとでも言うように、店の扉が目の前で強く閉じられてしまう。バタン、と大きな音を立てて格子飾りの美しい扉は、もうウンともスンとも言わない。


「じょ、女傑~」


 地面で尻餅をついていた翔信は、掴まれていた首後ろをさすりながら、閉められた扉に目を丸くしていた。


「やっぱり今回も駄目だったか」


 同じく地面に尻餅をついたまま、がっくりと項垂れる月英。


「まあ、仕方ないさ。そりゃあ、自分とこに損害を与えたって思ってる相手を、歓迎する馬鹿はいないからな。信じてもらうのも簡単じゃないさ」

「もう三日なんですけどね……困ったな、時間もそんなにあるわけじゃないし」


 期日の一週間後まで、あと四日。

 何の手がかりもないまま、既に半分が過ぎようとしているところだった。


「ちょっと、現状を整理してみようぜ。行き詰まった時は最初からってね。これ、刑部の鉄則な」


 翔信は、立てた人差し指を月英の顔の前で揺らした。


「まず、移香茶の茶葉に毒が混ぜられた」

「はい。それで茶葉を作った僕が犯人だって疑われてます」


 二人は腕組みしながら向かい合い、うんうんと脳内で記憶を巡らせる。


「まあ、一番可能なのが月英だもんな。他に考えられるのは、東明飯店で混入されたって説」

「僕も最初はそう思ってましたが、あの張朱朱さんの態度を見るに違うような気がするんですよ」

「確かに。彼女が、自分の店の評判を落とすようなことをするとは考えづらいな」


 元々、今回の件に関しては目的が分からないのだ。

 誰を狙ったものなのかもハッキリとしない。


「じゃあやっぱり、僕の手から東明飯店に渡るまでの間に混ぜられたってことですかね」


 ふむ、と翔信は顎を撫でながら空に視線を飛ばす。


「だとすると……一番怪しいのは茶心堂の店主……ってことになるな」


 顔を月英に戻した翔信と視線が絡むと、二人して肩をすぼめて長嘆した。


「何か、事件って嫌ですね。疑いたくない人を疑わないといけないだなんて」

「だろ。刑部じゃこれが毎日だぜ? 今回と違って、まだいつもは部外者だからマシだけどさ」

「刑部の皆さんが死体になるのも分かりますね」

「待て。まだ死んではない」


 精神を日々摩耗しているのなら、頷ける状態ではあった。

 翔信も「まだ」と言うあたり、いつかは死にそうだなと思っているのだろう。

 すると、「あっ」と翔信が何か思い出したような声を上げた。


「そう言や、お前って体調大丈夫なのか? あの日、茶心堂で例の茶を飲んだだろう?」


 東明飯店で騒ぎが起こったせいで返品された茉莉花の茶葉のことだ。

 月英自身も飲んだことをすっかり忘れていた。


「まったく何ともなかったですよ。この通り元気ピンピン普通のお茶」


 両腕を上げ、力こぶを作ってみせる月英。


「ちょっとも元気さが伝わってこない平坦さだな、お前の腕。可哀想になるわ」

「哀れむくらいなら肉饅頭をおくれ」


 上げた両手を掌を上にして、翔信の目の前に差し出せば、間髪容れずスパーンとたたき落とされる。


「可憐な女人以外におごる余裕などない」

「官吏が吐いていい台詞じゃない」


 一点の曇りもない眼だった。彼の闇を垣間見た。

 一体彼の給金は何に消えているのか。そんなに安いはずがないのだが。


「――って、そんなことはどうでもいいって! 返却された茶葉が普通だったってことは、やっぱり東明飯店のだけがおかしかったのか?」

「鄒央さんは、他の茶屋に被害はなかったって言ってましたけど、もしかしたら鄒央に言わなかっただけとか、被害者が少なくて分からなかった場合もありますね」


 翔信は肩に垂れていたボサボサの三つ編みを解くと、髪をわしゃわしゃと自ら乱す。


「んーじゃあ、卸してた店全部に聞いて回るかとする」


 言いながら、翔信の手は器用に再び三つ編みを作っていく。

 あっという間に髪を綺麗に整えた翔信は、肩に下がる三つ編みを背中へと弾いた。


「しらみ潰しだが、ここでこうして地団駄踏んでてもしょうがないしな。やれることから手を付けてくぞ」

「そうですね、じゃあ一旦鄒央さんに卸先を聞きに行きましょう」


 先ほどはたたき落とした月英の手を、今度は翔信自ら掴み、月英を地面から立ち上がらせる。


「ありがとうございます、翔信殿」

「監視役なもんでね」


 肩をすくめて仕方ないように言う翔信だったが、その表情は照れくさそうだった。


「お客さん、店の前で友情深めないでヨ。深めたいなら河原で拳交わしてきてくださぁい」


 開いた店の扉の隙間から、店の女の子の顔が覗いていた。

「はぁい」と二人は河原へ向かいそうになった足を、慌てて茶心堂へと向かわせた。



中華後宮恋愛もので新連載はじめました。

よろしければ、互いの身分に気付かず想い合っていく寵愛ストーリーを

お楽しみください。


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