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第95話

バール無双第二部が完結しましたので、こちらの更新をば('ω')!

久々となりましたがよろしくお願いいたします。

 かつてサー・イボロだった“モノ”の行動は迅速にして単純だった。

 目の前の敵──僕達への直接的な、そしてひどく暴力的な敵対行動だ。


「ガァァァァッ!」


 黒い化け物は、その巨体からは信じられないような速度で飛び掛かってきて、その勢いのまま大振りの拳を僕に振り下ろした。

 すんでのところでそれをなんとか躱したが、その威力は塔の硬質な白い床石を大きくへこませ、周囲を揺らすほど。

 ……多少頑丈とはいえ、直撃をもらうのは避けたいところだ。


「おいおい、何だってんだ、こいつは!」


 建物の屋根から狙撃を狙っていたザイゲンが、自動弩級(リピーターボウ)を連射して牽制する。

 しかし、黒い化け物はその攻撃を意に介さず……お返しとばかりに口から黒い炎の塊をザイゲンに発射した。

 ザイゲンは火球をこともなげにかわして見せたが、天井に直撃したそれは大きな爆発を引き起こし、その破片が周囲にばらばらと降り注いだ。

 このまま長期戦になれば被害が大きくなりすぎるかもしれない。


「ルー、僕から離れて! ケイブさんの後ろから援護射撃を!」


 ルリエーンはうなずくと即座にその場を離脱し、ケイブの後方へ回った。

 意図を汲んだ頼れる盾役……ケイブが盾を大きく構えて立ちはだかって、化け物にプレッシャーをかける。

 あの化け物にプレッシャーを感じる感覚があるかは不明だが。


「坊主、無理すんな!」


 煙の様に現れたルーピンが、化け物の背後に一撃を見舞いながら僕の隣に並んだ。

 背中に大きなキズをつけられたソレは威嚇じみた咆哮をあげて、周囲の動く対象に向かって手当たり次第に火球を吐き散らす。

 一つ一つがボーリング玉ほどもあるそれが、着弾と同時に爆発して周囲を大きくえぐった。


「コイツ……理性がないのか!?」

「そのようでござるな」


 僕の声に応えるかのような涼しい声が聞こえたその一瞬、化け物の胸から肩にかけてが大きく斬り裂かれた。

 大量の青黒い液体が傷口から迸る。

 大きな咆哮をあげた化け物は力任せの一撃をゴモンに放つが、捉えたゴモンは影の様に掻き消え、体一つずれた位置に姿を現した。

 伏見流の歩法の奥義、『残身』。

 知ってはいてもあそこまで使いこなすのは、今の僕には無理そうだ。


 ……それよりも、僕にとってはまだこの化け物が生きていることのほうが驚きだった。


「む。拙者の抜刀をまともに受けてまだ、立つでござるか……」


 おそらく、ゴモンが放ったのは『伏見一刀流』の殺撃であろう神速の刃。

 あれをもろに受けて、まだ活動状態を維持するなんて、見た目以上の化け物なのかもしれない。


 隣からは「こいつは不死身かよ」というルーピンのぼやきが聞こえてくる。

 殺撃を喰らってあの元気さだ。

 そうであってもおかしくはない。


「ガアァァァァッ!」


 化け物が再び咆哮をあげ、僕に飛び掛かる。

 直線的な動きだ。


 ──ならば、応撃をもって討つ!


 僕はその攻撃をぎりぎりまで引き付けて回避し、その無防備な胴に渾身の一撃を見舞った。

 もっとも得意とする殺撃、伏見流交殺法『喰命拳』で以て、化物を撃ち抜く。

 大きく、鈍く、重い音が耳に届く前に、化け物の巨体は高速できりもみ回転しながら外壁に向かって吹き飛んだ。


「……ッ!」


 気配を感じた僕は、もうもうと土煙の上がるその地点に<血の投擲槍>を連続で打ち込む。

 手応えこそあったが、仕留めたという確信が持てない。


「追撃だ! 油断するな!」


 ルーピンの指示で、全員がはっとして各々の最大火力を土煙の中に集中させる。

 ふわりと土煙が散り消えたその場所には、十数本の<血の投擲槍>に縫い止められた化け物がいた。


「ググゥ! ガァァ!!」


 驚いたことに『それ』はまだ生きており、今も槍から抜けようともがいている。

 その強靭すぎる生命力に僕も含めて全員がぞっとした。


「頭切り離しても生きてるんじゃねーのか?」


 そうルーピンが苦笑いすると、「やってみてもいいでござるよ?」とゴモンが刀を抜こうとする。それをケイブが手で留めた。


「待て待て、まずはこいつが何なのか調べる必要がある」

「確かにそうねぇ。でも、長らく探索者も冒険者もやってきたけど、こんなの見たことないわ」


 ミーネは遠巻きながら、注意深く化け物を見ている。

 『ザ・サード』の中で最も魔物の知識が深いミーネがわからないとなれば、一行の誰もがわからないということだ。

 どうしたものかと膠着した状態でいると、騒ぎを聞きつけた、周囲の住民や冒険者たちが集まってきた。

 これだけの大立ち回りをすれば、野次馬もさぞ見つけやすいだろう。


 僕はミーネにアイコンタクトを取って、青魔法で周囲の視界を遮る。

 パニックでも起きたら大変だ。


「ルーピン! また厄介ごとを増やしやがったな! ケイブがついててなんてざまだ!」


 やがて、騒ぎを聞きつけて、この階の階長(かいちょう)で冒険者ギルド支部長の男──ラコルが現場に駆け付けた。


「うるせぇ、ラコル! 襲われたのは俺らだよ! 仲間の奴らはふん縛ってあるからあいつらに聞け」


 ルーピンが縛ってある白装束の男たちを指さす。

 そこに注目を集めてる間に、ケイブがそっとラコルに耳打ちする。


「ラコル、それよりも人払いを。見たことのない魔物がいる。処分に困っているのだ」

「……なんだと? 詳しく聞かせろ」


 ラコルがギルドメンバーに指示し、現場検証を行うと称して周囲一帯を封鎖するのを待って、目隠しの魔法を解除する。

 その瞬間、ラコルたちが息をのんだのがわかった。


「おいおい、なんなんだこいつはよ……? 魔族か何かか?」


 いまだ唸り声をあげる黒い化け物は、長く塔に住むラコルにしても目にしたことがない生き物であるらしい。

 しかし、つぶやいたラコルに、応える者があった。


悪性変異(マリグナント)、君たち人間が忘れてしまった、真なる脅威さ」


いかがでしたでしょうか('ω')!



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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭のサー・イボロが誰かぼんやりだったので数話読み返してきた。 爆ぜずにきりもみで飛んでいく辺りからしてマナグリントの強固さがわかりますね 弟子の彼の喰命拳ですら壁もリッキーも原型留めて…
[一言] |д゜) ☆1の方も読みたいなー
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