第93話
ガトラジで応援してもらったので、仕事の合間を縫って更新('ω')!
「しっかし、小僧は甘ぇなぁ……」
トロアナ40階の酒場の一角、冷えたエールを一気に煽りながらルーピンがぼやく。
僕が大和田を生かしたことが、どうにも気に入らないらしい。
「僕も……そう思います。ですが、あれはあれでよかったとしておいてください」
いつもの顔で苦笑を返す。
あの死傷者多数の戦場で散々『敵』となった者の命を奪っておいて、同郷の『渡り歩く者』だけは殺さずに助けたのだ。
身内贔屓と思われても仕方がない。
あの後、僕達は大和田と数人の幸運な生存者の武装解除を行った。
生存者はひどく少なかったが、いずれも重傷者だったため<治癒>が使用可能なミーネに頼んで治療を行い、全員を拘束、連行した。
生き残った生存者の多くは殉教を望んだが、『勇者』大和田の命令ですっかり大人しくなり……今は40層にある治療院で全員が入院中だ。
その後、僕たちは問題なく調査を終了させることができた。
そもそも問題などなかったのだ。
というのも、依頼で受けていたドラゴンの噂は、彼等……『白の教団』が流していたらしい。
大和田自身がその首謀者ではないらしいが、腹心の男……ゴドーから言質を取った。
下の階層で会った、あのサー・イボロという男が中心になっていたらしい。
なるほど、何としてでも僕たちを止めようとするわけだ。
「……以上が、報告となります」
40階層に到達した僕らはすぐさまその足で冒険者ギルド支部へ依頼の達成に向かい、問題なしとの報告を行った。
同時に30階から40階までの10階層分のマップを情報をギルドに売却して、決して安くはない報酬も手にする。
安全宣言が出された塔はにわかに活気づき、足止めをされていた武装商人や冒険者たちは我先にと階段を下っていった。
それを尻目にみながら、僕たちは依頼達成の小さなパーティを酒場で開いているところだ。
「ドゥナまで登りきったらどうするつもり?」
ミーネがミートボールが乗った奇妙なパスタを頬張る僕に訊ねる。
「まずは塔都市……ええとなんて言いましたっけ?」
「学園都市ウォン=ス=ゲイル?」
「そう、ウォン=ス=ゲイルで『白の教団』の情報収集をしてその総本山へ向かおうと思います。“探索の羅針盤”で探し回るよりずっと確実ですからね」
おそらく、そこには他の転移者が大勢いるはずだ。
上手くすれば帰還するための情報も集まっているかもしれない。
「でも、さっきの勇者とかいうのがいないと入るのは難しいんだろ? 逃がしちまってよかったのかよ」
「方向と場所さえある程度わかれば……まぁ、後は何とかします」
ザイゲンの当然ともいえる問いに、僕は苦笑しながら答える。
「また力技で何とかするつもりだぞ……?」
「ユウは物静かに見えて、やることなすこと無茶苦茶でござるからな」
ザイゲンゴエンに何やらひそひそとされて、僕は目を白黒させる。
からかわれているのか、心配されているのか判断に困る大きなひそひそ声だ。
「……俺達もついていってやりたいけどよ、第三層大陸に仕事を残してきちまってるからな」
「あら、ならルーピンだけ戻ればいいじゃない」
ルーピンが「そりゃないぜぇ」とため息をつくとテーブルに笑いが満ちた。
ミーネに振り回されるのは、ルーピンのお家芸である。
「ま……大和田君次第ですね。スムーズにいくように話を通しておいてくれると助かるんですが」
大和田は40階層に駐在するガイドを雇い、先に50階層に向かった。
僕を『白の教団』の本部へ招くための渡りをつけさせるために、あえて大和田を先行させたのだ。
裏切る可能性は十分に考慮しているが、同行させて寝首をかかれるよりはマシ……というのが僕の判断である。
それに僕は少し高揚していた。
こちらの世界に来ている『渡り歩く者』のこと……特に、同級生たちの所在を調べるには、もっと多くの手間と時間がかかると思っていた。
紆余曲折を経たものの、その情報が今回すんなりと手に入ったのだ。
「私もついていくから大丈夫よ」
「ルリちゃん一人じゃ頼りないから言ってんだろぉ?」
ルリエーンの言葉にルーピンがからかい混じりにつっこむ。
それに頬を膨らませるルリエーンだったが、すぐに笑い顔になる。
早ければ明日、彼等とはお別れになるかもしれないのだ。
きっと、ルリエーンも寂しいに違いない。
……僕が、そうだから。
「『白の教団』についてもっと知る必要があります。『渡り歩く者』が中心と言っていましたが、どうしてあそこまで狂信的な集団になるのか……」
僕には他の可能性も見えていたが、それには触れずに話題に出す。
「規模もわからん。それに新興宗教としてはあまりにも組織的すぎるし、実際に『神聖変異《ディバインコード》』を受けているヤツもいるとなると……いよいよもってキナ臭いな」
ケイブの言うとおりである。
すでに百人以上の信者を、今回この騒動のために塔内へ送り込んでいるのだ。
一体、どれほどの規模の集団なのか想像もつかない。
「とりあえずは、第二層大陸まで気を抜かずに行こうぜぇ」
ルーピンが気だるげに、そして半笑いで今後の指標を上げる。
「そうですね。第二層大陸までの道のり、よろしくお願いします」
「ま、固い話は抜きにして、今日は休んじまおうぜ。オレも疲れちまったよ」
ザイゲンもやや酔いが回った様子で、笑う。
大きな仕事が一段落したのだ、少しくらい気を緩めてもいいだろう。
……そんな風に考えた愚か者が、酒場の陰からこちらを見ていたのを、僕たち全員が勘付いていた。
いかがでしたでしょうか('ω')