第92話
久々の更新と相成りました('ω')
僕は、大和田を冷えた気持ちで見下ろす。
きっと僕の瞳は、また黄金の輝きを放っているのだろう。恐怖に歪んだ大和田が、怯えた目で僕を見ていた。
「やめ……やめてくれ! オレ達……友達だろ?」
「そうでしたっけ?」
友達、という言葉がまったく心に響かない。
泣き顔で無理やりに作り笑いをしているこの男には、暴力を振るわれた記憶しかないのだが。
ただ、今すぐ殺すのでは本末転倒だ。すっきりするかもしれないが、それではミカちゃんの情報を得ることができない。
「じゃあ今からいくつか質問をします。正確に正直に答えてください」
大和田は無言で頷く。
「萱嶋さんは、どこですか?」
「今は『白の教団』総本山にいるはずだ……。聖女として保護されている」
この狂信者に保護?
どうにも腑に落ちない。カルト集団が異分子である異世界人を助けてるっていうのか?
「『白の教団』とは?」
「『渡り歩く者』が中心になって作った組織だ。『白い部屋の主』様──オレ達は単純に『神』と呼んでいるが、その教えを広めている」
「その神とやらはなんなんです?」
「し、知らないッ! 本当だ。俺達が『次元重複現象』に巻き込まれたとき、オレ達に力を与えてくれた存在だ。それ以外はわからない。自分で名前をなくした神だと言っていた」
名前をなくした……?
どうにも嫌な予感がする。
直感というか、第六感的なことだが……僕の奥底で危機感や焦燥に似た感覚がじわりと滲んでいる。
「その教えとはなんです?」
「『預言者』の神託に従うこと、それにドラゴンを駆逐することだ」
「『預言者』?」
「最初に白い部屋を訪れた『渡り歩く者』って話だが、素性まではしらねぇよ……」
なんだって素性のわからない相手をそうも妄信できるのか。
いや、異世界になんて非日常に放り込まれればそういう心持ちにもなるのかもしれない。
「では、なぜ竜を駆逐するんです?」
「『白い部屋』に居なかったお前は知らないだろうが、この世界は悪しき竜族に支配されているんだ! そのためにオレ達が召喚された! 勇者として!」
自分が正義サイドだと刷り込まれているのか?
ゲームのやり過ぎだろう。勇者だなんてちゃんちゃらおかしい。
「では、最後に。総本山はどこです?」
「オ、オレを助けてくれれば連れていってやれる! オレならその場所まで顔パスできるし、仲間として紹介すればすぐに萱嶋さんに会えるぞ!」
大和田の必死な訴えに、僕はどうしたものかと考える。
確かにこの狂信者の集団の中枢に、自分だけで入っていくのはなかなか難しいかもしれない。
しかし……
(こいつ、絶対裏切りそうだし)
と、心が警鐘を鳴らしているのも確かだった。
そして聞けば聞くほど……大和田の言う神とやらは黒竜王が封印を見守る『名を奪われた邪神』なのではないかという疑いは深まる一方だ。
「で、ユウ。こいつどうすンの?」
状況を黙って見守っていたルーピンが、全ての死体から金目のものを回収して戻ってきた。
賊の所持品を獲得することは特に冒険者ギルドでも禁じられていない。
「そうですね……」
(生かしておいてもいいことはないか)
曲がりなりにも元クラスメートであるし、殺したとなれば他の敵対していない数少ないクラスメートをも敵に回す可能性はある。
おそらくバレやしないだろうが……大和田をモニターする加護スキルを持っている者がいるかもしれない。
少なくとも死因を探れば、最終的に僕にたどり着くリスクはある。
しかし、回復した大和田が裏切れば、また面倒だ。
自分はともかくルリエーンに危害を加える可能性もある。
何より、元の世界にいたときよりも、大和田の攻撃衝動は異常なまでに高くなっているように思えた。
「やはり殺しましょう。後腐れなく。命のやり取りとはそういうものですし」
リスクを天秤にかけた結果……こう結論付けるのが、最適解に思えた。
何せ、『塔』などというニアデスなダンジョンでの出来事だ。
事故が起こることもあるだろうし……大和田も含めて生き残りは全部処理してしまえばいい。
ボクの情報が洩れなければ、他の生き残りのクラスメートと確執になることもないだろう。
バレたらバレたで、正当防衛の旨説明すればいい。
それでわかってもらえず敵対するようなら、こちらもあきらめがつく。敵として、適切に処理をするだけだ。
大和田と同じように。
「ユウ、同郷の人間でしょう? いいの?」
「ええ。特に友人というわけでもなく、どちらかというと元の世界にいたときから僕を目の敵にしていた彼です。この世界においてこういう命のやり取りともなれば……死ぬ覚悟はとうに出来てるでしょう」
ややあっさり決断した僕をみて大和田は泣き叫ぶ。
「助けてくれ! 頼む! もう何もしないから! 謝るから! な? ……な?」
「このガキ、面倒くせぇなぁ。俺が止めを刺しといてやろうか?」
ザイゲンがイライラした様子で大和田を見る。
「頼む……ッ! 助けてくれ……。せめて妹にもう一回……」
嗚咽を漏らしながら涙を流す大和田を見て、僕はため息を漏らす。
大和田の妹といえば、少しばかり世話になったこともある。
乱暴者の兄と違って、心優しい気遣いのできる人間だ。
「妹さんもこっちに来てるんですか?」
「ああ、あの日、一緒に巻き込まれた」
再びため息を漏らして「わかりました」と一言。
しかたない。借りは借りだ。命の価値に見合うかはともかく、あの子に義理を通しておかなくてはならない。特に、こんな世界で兄弟を失うのは辛いことだろう。
「大和田君、今回だけです。次はないですよ」
正直、自分の甘さはこの世界ではありえないものなのだろう……と自嘲するが、かつて僕を一度助けてくれた妹に免じて一回は恩赦としよう。
「すまない……本当に……」
こうして、三十六階における『白の教団』との戦闘は終わったのだった。
いかがでしたか('ω')
甘い? いいんですよ、彼はこの先もちょっと出番がありますので。