第88話
完全ダウン中……('ω')
ギルドに依頼された30階からの調査は順調に進んだ。
危険視して誰も立ち入らなかったために再練成された塔内は、罠も召喚門も健在なままだったが、同時に内部の財宝も手付かずのまま残されていた。
特に31階と32階はどこかの古代の王城を再現したようで、財宝も多く残されており、『ザ・サード』の面々はところどころで喜びの声をあげていた。
魔法道具も数多く発見され、この二つの階層だけで十を超える魔法道具を発見することが出来たのは僥倖だ。
それらは全て『ザ・サード』の取り分になる。
僕についてくることのメリットが少しでもあったことに、少しばかり心が軽くなった。
魔物の数は多かったが、僕は持つ力を隠す必要がなくなり、同時にルーピンたちは僕の力を信頼できるようになった為、戦闘は極めてスムーズに進んだ。
遠距離からの魔術や飛び道具による先制攻撃と、接近されればされたで『殺撃』を容赦なく浴びせて倒した。
伏見流二人であっという間に魔物や召喚門を破壊し、あとは残った魔物を殲滅しながらマッピングおよび調査を行うのがパターンになっている。
そして……トロアナ36階。
塔としてはスタンダードなコンクリート地の構成になっており、その様子に僕たちはむしろ安心した。
何故なら、様相の変わっている階というのは定石どおりに行かないことが多く、普段以上に警戒をする必要があるからだ。
塔内である以上、警戒が必要ではあるが、必要以上の警戒をしなくて良いという点ではやや安心できる。
階段をあがるとその先は小部屋のようになっており、通路は南北に伸びていた。
とりあえず北側の調査から始めることにする、とルーピンが宣言した。
「今日はどうするんですか? 40階まで一気に調査を?」
僕の問いかけにルーピンは少し呻った後、頷いた。
「そぅだなぁ……このペースなら大丈夫だろ」
ルーピンがいうには、ここまでかなり注意深く進行しているらしい。
「ドラゴンはいない」──“嘘破りの”ダルソンからもたらされた情報は正確で彼からの情報を疑う必要はない……と聞かされている。
ルーピンがそこまで言うのだ、きっと間違いないのだろう。
では、噂を流布しているのは誰か?
僕はそれについて確信に近い答えを持っていた。
あの絡んできたカルト集団……『白の教団』である。
その目的は不明瞭だが、おそらくは塔内の流通を滞らせることによる竜族へのネガティブキャンペーンかあるいは、秘密裏に自分達を殺害して竜族の被害に見せかけるか。
もしくはその両方か。
そもそも竜族に対して、なぜそこまで強い敵愾心を持っているのは謎だし、目的も不明なのだ。
いずれにせよ、そうであるならば、そろそろ警戒を強めたほうがいいかもしれない。
「さて、情報を整理しておこうぜ」
そう切り出したルーピンは、おそらく僕と同じ結論にたどり着いているのだろう。
おそらくプロパガンタとネガティブキャンペーンのために現状を発生させたのではないかということと、そのために『白の教団』が40階手前に網を張っている可能性について示唆し、警戒を怠るな……と僕たちに告げる。
30階に宣教師がいたことからあそこで全て処理しようとしていた可能性もあるが、上層は『白の教団』の勢力がさらに強い可能性も考えられるため注意は必要だ、とルーピンは言った。
「こっから先はドラゴンよりもあいつらが相手になる可能性が高い。んまぁ、ずっと気楽でいいけどな」
ルーピンがにやりと笑う。
竜族を相手取るくらいなら、まだ宣教騎士とやらのほうが随分あしらいやすいのは確かだ。
「まったく迷惑な連中よねぇ」
「まったくだ」
「黒竜王以外の色鱗竜に会えると思っていたんですが、少し残念ですね」
「ユウにしてみれば同族に会うチャンスだったわけだからな」
僕の言葉にケイブが同意する。
「ま、人と一緒で色鱗竜の全てが話のわかるやつとは限らないからな。今回は話のわからない人間を相手するほかねぇよ」
……と、ルーピンはハンドサインで囲まれている旨を伝える。
南北の通路、それに階段の下から殺気を帯びた気配を感じる。
後ろから誰かつけてきている気配はあったが、せいぜい違法に同乗しようとした武装商人の斥候だろうという程度に考えていた。
そのそれぞれから十数人の武装した集団が姿を現す。
そして、北側の通路の先から姿を現した人物に僕は見覚えがあった。
「大和田君……?」
僕に気付いた元クラスメート──大和田健吾も驚きを隠せない様子だった。
「お前……門真か?」
大和田は重厚な白い鎧に純白のサーコートを纏っており、さながら上位の騎士といった出で立ちだった。
「勇者殿……知り合いですか?」
大和田の横に居た壮年の男が大和田に訊ねる。
「ああ……俺と一緒に転移に巻き込まれたが、もう死んでいると思ってたぜ。『白き部屋』での謁見にも居合わせなかったしな。驚きだ」
大和田は僕から目を離さないまま答える。
その目は不審と蔑みに満ちて──いつも彼が僕に向ける視線と全く変わっていなかった。