第81話
更新ミスりました('ω')
ちょっと遅れましたが、どうぞ!
「君達、この先へ上るのかい?」
「ええ、それが受けた依頼ですので」
興味本位、というよりも確認のような物言いにやや違和感を覚えたが、特に隠すことでもないので素直に答えることにする。
端的に答えた僕に、詰め寄る様に近づく謎の集団。
なんだろう、セールスのような押し付けがましい圧迫感を感じる。
「ドラゴンが出るってきいたよ。危ないからやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうよ。ドラゴンは本当に危険なヤツらなのよ!」
「君達はドラゴンの恐ろしさを知らないから、こんな依頼を受けられるんだ」
脅すように、諭すように危険を次々と口にする。
確かに竜族は危険で強力な種族だが、少なくとも黒竜王は対話可能だった。
相手が色鱗竜であれば対話の可能性は十分にある。
逆に会話すら不可能な低位な陸竜や蛇竜、恐竜であれば苦戦はするかもしれないが、このメンバーで対処はできる。
さらに言うと、この依頼を完遂しないと、ここで足止めされてる冒険者達は自分も含めていつまでたっても上に登れない。
「危険なのは承知しています。低位のドラゴンですが、蛇竜と戦ったこともありますし、侮れない相手であることは十分理解しています。お気遣いを感謝します」
誤魔化すようにいつもの苦笑を浮かべてお辞儀をした。
「お前ら……『白の教団』だろ? こんなところで啓蒙活動かい?」
ルーピンがニヤニヤ笑いの中に隠した鋭い視線で数人に投げかける。
僕たちを引き止めていた男女のグループはギクリ、とした表情でルーピンをみる。
「隠さなくっても……いや、隠してないか。その白いバンダナ、見覚えあるぜぇ?」
ニシシシとルーピンが笑う。
見れば、男女の手首や首にはカラーギャングよろしく白い布が巻かれている。
「ルーピンさん、『白の教団』って?」
「最近、第二層大陸で流行ってる新興宗教……カルト教団さ。新たに降臨した『白き部屋の主』って神サマを奉ってるらしいぜ」
さすがに情報通は何でも知っているんだな、と僕は感心した。
その『白の教団』が、何故自分達を足止めしているのかはわからなかったが。
「カ……カルトとは不敬だぞ! 確かに新しき神ではあるが、確かな存在である『白き部屋の主』様に向かって……」
「その神サマの信徒たるあんたらが、なーんでオレらの仕事を邪魔するのかってことさ」
「『白き部屋の主』様の至上命題が竜族の危険を啓蒙することと竜族の討伐だからだ! 『神聖変異』を受けた異界の勇者達が、今に竜族を根絶やしにしてくれるだろう!」
顔を赤くしながら熱っぽく語る男の目は狂気じみていた。
その男を取り巻く者達も同様に普通ではない雰囲気で、頷いたり、時に涙を流しながら祈るような仕草を見せている。
どうやら本格的にヤバい人たちだったようだ。
「では、ドラゴンがいたらお任せするということで。僕たちの依頼はあくまで調査なのですから。皆さんが安全に昇降できるルートを確保するのが目的ですしね」
「いいや、君達はわかっていない。第三層大陸で少々腕が立つといわれて自信を持っているのかもしれないが、ドラゴンは恐ろしいんだ! そんな甘い考えで命を無駄にするつもりか?」
話を切り上げようとするも、ぐいぐいくる感じにいよいよイライラが溜まってきた。
こういう、話が通じそうで通じていない手合いは大嫌いなのだ。
「ユウ、もう行こう。話をしても無駄だよ」
ルリエーンが僕の袖を引っ張る。
小声であったが、男に聞こえたようで見る見るうちに顔をさらに赤くした男は、激昂して腰の獲物を抜いた。
湾曲した剣で、切れ味はよさそうだ。
取り巻きは止めるでもなく、ただ傍観するように男を見ている。
「エルフめ! 高慢で頭でっかちの分際で我が神を愚弄したな!」
「剣をしまって下さい」
僕は努めて冷静な言葉で男に呼びかけ、戦闘態勢に入ろうとする『ザ・サード』の面々に目配せする。
冒険者ギルドからは騒ぎを聞きつけて野次馬と職員がでてきた。
「話が通じない、と言っただけですよ。僕達には僕達の依頼があります。それを邪魔しようとするのは、マナー違反ではないですか?」
「うるさい! 我が神を冒涜する輩は『竜』にとり憑かれている! 忠告に従えない子供も『竜』にとり憑かれているに違いない!」
もはや完全に正気を失っているのは誰の目にも明らかだった。
「浄化だ! 浄化せねばならない! この汚れた世界を!」
男は唾を飛ばしながら、突然切りかかってきた。
さすがに塔内にいるだけのことはあると思える鋭い剣筋だが、些か遅い。
硬質化した左手で剣を掴んで止める。
「僕に、僕らに……殺意を向けないでください」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
掴まれたまま僕が離さない剣を捨て、腰のナイフを抜き放つ男。
次の瞬間、轟音があたりに鳴り響いた。
地に臥し、のたうつ男。
ルリエーンが持つ【バラの貴婦人】からは薄く煙が昇っている。
「ああああ、ぼっああああぁぁぁ」
腕を撃ち抜かれた痛みによるものか、男は時折嘔吐しながら床をのた打ち回った。
「ユウ、大丈夫? 手は? 怪我してない?」
「はい、問題ないです」
ルリエーンが僕の体をチェックして、無事をすみずみまで確認する。
「サー・イボロ! なんてことを! 神罰がくだりますよ!」
取り巻きの女性が男の腕を止血しながら僕とルリエーンをにらみつける。
「そりゃないんじゃないの~? 殺されかけたんだぜ? ここにいる全員が証人だ」
状況を見守っていたルーピンがいつの間にかそばに来ていた。
その後ろではザイゲンが他の『白の教団』メンバーににらみを利かせている。
「殺されなかっただけ、マシだと思って欲しいけどね」
ルリエーンは静かに怒りの感情を彼らに向ける。
弾丸は全弾込めてあった……全て撃ち込んで、この男を肉塊に変える事すらできたのだ。
「あなた方がサー・イボロの忠告を無視し、我が神を冒涜したからです!」
「おねぇさんよー。神を冒涜って俺達がどう冒涜したって言うんだよ?」
ルーピンが女性の顔を覗き込む。
「我々の忠告を無視したことがすでに神への冒涜です!」
支離滅裂なことを言う人だ。
ため息しかでない。
狂信者というのがピッタリくるこの一団が、カルト集団と呼ばれる所以を理解する。
何とも、思い込みの激しい人達だ。
「僕らは行きます。あなた方の教義や信念についてはわかりませんけど。僕には急ぐ理由がある。それを止めるなら、殺意を以って立ちはだかるのなら……あなた方は僕らの敵だ」
意図的に竜眼を使って狂信者たちを威圧する。
殺意を込めた視線が、心の奥底の原初的恐怖を大いに惹起したのだろう、睨み返すべく目を合わせてしまった者たちが、ことごとく泡を吹いて倒れる。
「いいですか? 僕らの邪魔をしないでください。今度僕らに剣を向ければ、命のやり取りになると思ってくださいね?」
周囲の野次馬にまぎれてこちらを見つめる信者たちにも一瞥をくれてやる。
ゴクリ、と生唾を飲み込む音が周囲のものには聞こえただろう。
ルーピンとザイゲンはいつの間にか広場から姿を消していたので、もうここにいる必要はない。
気絶した狂信者を放置して、僕たちは宿を探す為にその場を離れた。
次回も是非、よろしくお願いいたします('ω')ノシ