第76話
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トロアナ二十階層。
ここはトロアナ十階の約二倍ほどの広さがあるエリアで、塔から切り出したのか、似たような材質の白いセメント質の建物が立ち並んでいた。
多くの建物は二~三階建てで、見たところ宿や商店も多い。
また、このエリアには探索者ギルドや冒険者ギルドの支部や、商業ギルドもあり、目新しいものでは『塔民ギルド』といったものが見受けられた。
「塔民ギルド、とは……?」
首を捻っていると、ケイブがその肩を叩いた。
「『塔民』とは、地上に住居を持たず、塔の安全域を生活の基盤とする者らのことだ。元探索者や元冒険者が多い」
「何故、わざわざ塔で暮らす必要があるんです?」
「探索者ってヤツの領分は、人の住めないところに踏み込んでいって、人が住めるようにするのが目的だ。それは塔も例外じゃあない。それにここを人間の生息域として確保することで、俺達や武装商人が行き来するのに一役買っておるのだ」
ややズレた見かたをすれば、観光地の駐在員みたいなものか、と僕は独自に解釈した。
おそらく、ここで生活するためのサイクルが仕上がっているのだろう。
「食料とかは大丈夫なんでしょうか?」
素朴な疑問を口にすると、今度はザイゲンが応える。
「魔物の肉はいくらでも手に入るし、水は青魔法使いがいればなんとでもなる。ソレも商売になるしな。野菜類は流石に武装商人に頼ることになるが、さっきの十八層みたいなところがあれば、収穫物を手に入れる機会もある」
それを聞いて、色々と納得がいった。
本当に隔絶された一つの世界として成り立っているのだ。
「お~い、レクチャーはそん位にしてメシにしようぜぇ」
やや先を歩いていたルーピンが手を振っている。
今日は血を使ったのでスタミナのつく食事がしたいな、と僕はぼんやり考えた。
「今日は各自行動にしないんですか?」
「ちーっと相談したいこともあるんでなぁ」
そういってルーピンは一軒の店(ビルにしか見えないが)を指差した。
『地図の切れ端亭』と看板が掛かったその店は、一歩中に入るとフローリングか敷かれた酒場のようで、なんだかほっとする雰囲気の店だった。
飾られている観葉植物が多いためかもしれない。
客は多いものの、あまり大声で騒ぐ様子も無い。
かといって静かかというと、そこらかしこで話し声はあるという、これまで冒険者のたまり場ばかりにしか顔を出さなかった僕には、なんとも不思議な雰囲気の店だった。
「おやっさーん、久しぶりだなぁ」
ルーピンが独特の「ニシシシ」という笑い声を上げて店主に手を振ってみせる。
筋肉隆々で頬髭を盛大に生やした店主が口の端をニィっと釣り上げて、軽く手を上げて僕たちに挨拶して見せた。
テーブルに座るやいなや、いくつかの大皿料理が店主自らの手で運ばれ、各々の前には金属製のカップが置かれる。
僕を除いて、だが。
「こっちの兄さんは初めてだな」
「ニシシシ、今回の依頼主さ。“自傷の血”ご本人様だぜぇ」
「ほう、あの二つ名持ちか!」
店主は値踏みするようにまじまじと僕を見ている。
正直いい気分ではないし、こんな所にまで噂が広がっているのかと思うと少々気が重い。
「おおっと。すまんすまん。昔のクセでな、珍しいやつがいるとつい観察しちまうんだ。お前さん『渡り歩く者』だろ? 喰えないものと飲めないもの、何かあるか?」
ガハハと笑いながら放たれる爆弾発言に僕とルリエーンの表情が凍りついた。
「おやっさん、それはマジでいってんのかよぉ?」
「違ぇのか?」
視線が、僕に注がれる。
しかたない、話してしまってもいいだろう。
ルーピンたちは命を預ける仲間でもあるのだから。
「そうです。僕は、渡り歩く者です」
「だろぉ?」
店主は尚もガハハハと笑う。
根が悪い人物ではないようだが、油断できない。
警戒する必要はあるだろう。
「でも、どうして?」
「カンだ!」
「気ィつけろよ、坊主。おやっさんは時々こうやってカマかけてくるんだ。相手にしてると疲れるぜ」
フライドポテトをつまみながらルーピンが「ニシシシ」と笑っている。
どうやら、性質の悪いカマかけに嵌ってしまったようだ。
「ま、とりあえず二十階到達ってことで祝杯を挙げようぜ。ユウにはブドウジュースでもついでやれ」
ザイゲンがやや困り顔で場を取りまとめる。
ケイブ、ゴモンも頷いて見せ、ルリエーンは苦笑して僕を見た。
「『渡り歩く者』って自称するってことは、元の世界の記憶があるのね」
ミーネが流し目を勇に送りながら訊ねる。
「え、記憶のない『渡り歩く者』もいるんですか?」
「そういう人たちは『漂流者』って呼ばれるわね、そうと判別のつかない人たちも大勢いるけど」
記憶を失った次元転移者。
そういうことがあるなら、自分は運がよかったのかもしれない。
ミカちゃんを含めて、『次元重複』に巻き込まれた人の記憶は大丈夫なのだろうか?
一抹の不安が頭をよぎった。
「ソレも含めて……みんなキミの話が聞きたいんでしょ? ルーピンがみんなで食事……なんて、裏がありすぎて笑えないわ」
ミーネは笑いを浮かべたまま、それでいて目はあまり笑っていない風に感じられた。
もしかすると疑われているのかもしれない。
「ちょ、ちょっと! 師匠方! ユウを犯罪者か何かと疑っているんですか?」
「嬢ちゃん、ソレとコレたぁ話が別だ。オレ達ゃ単純に“自傷の血”ってのがどんなヤツか知りたいだけさ」
ルーピンたちの視線が、僕に注がれた。
疑われたユウさんの返答はいかに……!
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……なんてね('ω')ハハハ