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第73話

『塔』編スタート('ω')!

 『塔』。

 それはただ『塔』とだけ呼ばれる巨大建造物であり、全ての大陸間をつなぐ橋でもある。


 各主要大陸の中央に聳え立つそれは、全二百階からなる一つの建造物だとする探索者もいれば、五十階ごとに大陸間をつなぐ別々の建造物だとする探索者もいる。

 いずれにせよ、この塔という古代遺物(レガシー)は大陸間をつなぐ機能を持っているというのはこの世界(レムシータ)においては常識だ。


 また、この塔には内部を自在に変容する機能があり、一度踏破しても数日から数年で広さや罠を含む内部構造を変化させる不思議な力がある。

 当然、魔物の種類や配置、数も変化するが、不幸中の幸いか財宝もまた出現する。

 塔内を徘徊する魔物の中には未発見や絶滅したとされるもの、あげくに魔族や竜族すら報告に上がり、それらは各階に存在する召喚ゲートを破壊しつくすまで永遠に喚ばれ続ける。


 ただし、十の倍数階はその変化や召喚の特性が無い。

 そのため、塔民と呼ばれる元冒険者や元探索者たちがそこに宿場町やバザー街を作っており、塔からもたらされる財宝や魔法道具(アーティファクト)が物々交換を含めて売買されているらしい。

 そして、その十階層ごとの街を目当てに、食料品などを売買する武装商人などが塔を上り下りする。

 塔という狭い世界で、生活が成り立っているのだ。


 さて、踏み込んだ塔の内部の多くは、白いコンクリートのような継ぎ目のない壁と床で構成されていた。

 何故か内部は明るく、灯りは必要ない様子だ。

 僕は「まるで建築途中のビルの中みたいだな」と思った。


 しかし歩を進めると、時折、思い出したように芝生と雑草の生えた土床になったり、豪華な絨毯が敷かれた通路が突然出現したり、その混沌とした様相は妙な不安を掻きたてた。

 塔の広さは階によってはネルキド市ほどあるらしいが、先行警戒をする四人がすぐに登り階段を見つけるため、僕自身がその広さを感じることはあまり無かった。


 罠や魔物の襲撃に細心の注意を払わなければならないのが、塔に入るときの鉄則だが、先行警戒の出来るメンバーが半数以上を占める僕らは、半日ほどでトロアナ十階までを踏破し……すでに最初の宿場町に到着していた。


「これはすごいですね」

「んだろ? よし、宿も取ったし……休憩といこうぜ」


 黒竜王(アナハイム)の玉座と同じ位の広さのこの階層には、どこから木を持ち込んだのか木造の宿や店が所狭しと立ち並び、足止めされている冒険者や武装商人でごった返している。

 僕としてはさらに十階上がってしまいたかったが、パーティの面々……それにルリエーンにもそれは固く止められた。

 塔を昇降する者は『十階ごとに休息を必ずとる』ということが鉄則であるらしい。

 情報収集をし、可能ならば地図を購入し、休めるタイミングで必ず休み、疲労を残さないことが広大で危険な塔を踏破するのに必要なのだ。

 とっさの判断が常に求められる塔では、そういった基本的なことが命に関わるのである。


「坊主、急ぐのはわかるし、その理由も聞かねぇ。でもよぉ、コイツは鉄則だ。特に三十階からは依頼の事もある。常にベストな状態を維持しなきゃなんねーんだよ」


 そう説教しながらも、その辺で引っかけたと思われる冒険者風の女の尻を撫でながらルーピンは宿に消えた。

 どうにも締まらないな……ルーピンって男は。


 他の面々もため息混じりにそれを見送り、各々自由行動となった。

 ザイゲンとゴモンは宿屋に併設される酒場へ行くといい、ケイブは知り合いに会いに行くという。

 ミーネは気がつくと居なくなっていた。


「ユウ、どうする?」


 残された僕にルリエーンが訊ねる。

 

「そうですね……バザーがあるんでしたっけ?」

「十階にあるのは小規模だけどね。珍しいのが欲しかったら三十階の大バザールのほうが掘り出し物があるかも?」

「大バザールって名前からしていろいろ期待できそうですねぇ」


 ルリエーンと手をつないで、ゆっくりと歩く。

 十階はそれほど広いわけではないので、すぐに端から端へと到達してしまうが、小さな露天や、バザーをルリエーンと見て回った。

 やはり、塔から発掘される魔法道具(アーティファクト)が売られていたり、時には武装商人が第二層大陸特産の野菜類を持ち込んだりとなかなかバラエティ豊かだ。


「ルーさん、何か目ぼしい物ありました?」

「そうね……強いて言えば、さっきの露天で売っていた変わった服が気になるくらいね」


 ルリエーンが言っているのは、明るい色に染められたチューブトップワンピースである。


「でもあの服、肩ヒモがないから私が着たらストンと脱げちゃうかもね」

「なるほど。では、ぜひ部屋着に買いましょう」


 「え、いや、でも」と挙動不審になるルリエーンの手を引いて露天に引き返す。


 件の露天に到着した僕たちが見たものは、早々に姿をくらませていたミーネであった。

 何やらブツブツといいながら服を手に取っている。


「欲しいけど……荷物になっちゃうし……でもこの生地でこの安さは塔ならではよね……」

「ミーネさん、何してるんですか?」


 声をかけるとミーネは視線を向けることなく答えた。


「この服ね、ドゥナの南のほうの伝統衣装なんだけどなかなか市場に出回らないのよ。それにすごくいい生地だわ。何着か欲しいけど、これから登りだしかさばるといけないし、って迷ってるのよね」

「僕もルーに買おうと思って」

「あら、意外と甲斐性あるのね? 結構高いわよ?」


 一着につき白貨が4~5枚。

 確かに服にかける金額としては高額かもしれない。


「そうよ、ユウ。これ以上ユウに何か買ってもらったら罰があたりそう」

「あくまで僕の趣味ですからね……どの柄がいいですか?」

「ルリエーンならこの水色と薄緑のが似合うんじゃないかしら。あまりハッキリした色よりも淡いのが似合いそうね」


 ミーネがパステルカラーを主体としたデザインの一着をルリエーンにあわせる。

 確かに、肌の白いルリエーンに程よく映えている。


「ミーネさん、ダメですって! ユウがその気になっちゃう」

「いいじゃない。服くらい買ってもらいなさいよ。よく似合ってるわ」

「でも……」


 僕はそんなやりとりを傍目に服の代金──ミーネが持っている分も含めて、十三枚の白貨を店主に渡す。

 店主は金払いのよさに驚いたのか、もう一着持っていっていいと僕に告げた。

 真っ白な一品を選ぶと、僕は店主に頭を下げて袋に詰めてもらった。


「……だから、エルフだって冒険者だって女は女よ? 服だって……」

「そうかもしれませんが、今はそういう話を……」

「ルーさん、ミーネさん。今手に持ってるのの代金はもう払っちゃいましたから」


「「え」」


 言い合いをしていた二人の声が見事にハモる。

 そしてルリエーンは苦笑しながら「もう」といいながらも少し嬉しそうにし、ミーネは「いいのかしら」と言いつつ一着に絞るつもりだった二着を交互に見た。


「もし荷物になるなら預かっておきますよ?」

「うーん、いいわ。なんとかなると思うし。アリガト」


 ミーネは軽くウィンクすると手を振りながら上機嫌に歩いていった。


「ユウの金銭感覚はどうにかしたほうがいいわ……」

「そうですかね?」

「でも、ありがとう。大事にするわね」

「では、早速宿に戻って着てみましょう」


 ルリエーンには「脱がせてみたいです」と本音が透けたかもしれないが、気にしないことにした。


「食事はどうしようかしら?」

「さっきそこでいいものを見つけたので、今日は珍しいものが食べれますよ」


 そういって鞄をポンポンと叩いた。

 

 ──その晩、食卓に並んだのは所謂ロールキャベツという料理だった。


 正確にはロールキャベツのような何か、だったが。

 武装商人の露天でキャベツに似た野菜を発見した僕は、宿の厨房を借りて得意料理をレムシータの食材で再現してみたのだ。

 なかなかいい出来だと、自画自賛してみる。


「これ、美味しいわ!」

「よかった。さぁ、食べたらファッションショーと行きましょう」

「もう、ユウったら。いいわよ、でも今日は早めに寝ないといけないわよ?」


 ルリエーンに苦笑されながら食事を終えた僕は、この日も温もりに包まれて安息の眠りを得た。


いかがでしたでしょうか('ω')

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すみません、表現が悪かったようで( ̄▽ ̄;) 「ユウお金銭感覚はどうにかしたほうがきっといいわ……」 というセリフが分からなかったんです。 「ユウの金銭感覚」とか「ユウ、お金の感覚は・…
[気になる点] 途中でミーアなる人物が急に出てきた あと、お金銭感覚の意味がわからない
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