第71話
本日は前半ルーさん、後半ユウの変則掲載です。
えっちな部分をねこそぎ削ったら短くなったので合体させました……('ω';)
※ルリエーン視点です
色々考えるのは、やめにした。
結局のところケースバイケース、状況即応で事に当たっていくしかないのだ。
ユウはまだ年端もいかない少年であり、きっと私との距離を測りかねている。
そんな距離など、なくたっていいのに。
だから、私から近寄り、甘えよう。
自分の性格からしてべったりと甘えるのはなかなか難しいことだけど、ユウができそうなことを、ほんの少しのわがままで誤魔化しながら信用してもらうしかないのだ。
私が、本気だということを。
「ユウの料理が食べたい!」
「了解です。今日は何にしましょうかね」
「そうすれば二人っきりで食事が楽しめるしね」
キッチンに向かうユウの背中を見つめながら、私はそっと呟く。
自分でも信じられないセリフだなと、自嘲しつつも変化が楽しくもある。
( オレになびかなかったくせにコロっといかれやがって!)
ルーピンの言葉が、ふと思い出される。
かつてルーピンに冗談とも本気ともいえないモーションをかけられたときは、「人族というのは面倒な生き物だな」程度にしか思わなかった。
恋だのなんだのというのは二百年ほどもして、いろいろ落ち着いてから訪れるものだと信じていたし、そもそもエルフ以外にそんな感情を抱くなんて予想外の事態だ。
まさか、出会って間もない人間のために、命までかけようという自分には驚くしかない。
──確かに、恩義があった。
きっかけがそれであることは間違いない。
あの雄々しい姿と優しい笑顔。
安心が慕情にとって代わっていくのを、少し怖くも感じた。
制御できない想いが次第に膨れあって、静謐を良しとするエルフにあるまじき心の乱れがあることに動揺もした。
……しかし、それはとても心地のよい変化に思える。
【盗賊の心得】での一件にしても、今考えるだけで腰が砕けそうだ。
金の問題ではない。
ユウが自分にそれだけの価値を見出してくれている、ということが純粋に嬉しいのだ。
大切にされているという実感が心と体を支配して、はしたない欲望をちらつかせるほどに。
ユウに愛されたいと、願ってしまう。
それを求めない、とユウに言っておきながら……我ながらわがままなことだ。
「ルーさん? ルー?」
「あ、ごめんなさい。なにかしら?」
やや油断していた私は、ユウの呼びかけを聞き逃す。
「魚と肉、どっちがいいですか?」
「じゃあ今日はお魚で。生では出さないでね」
「はいはい、お魚ですね。じゃあ今日はバターもあるのでムニエルにしましょうかね」
「それと、ユウ。もう一回呼んで?」
「ルーさん?」
少し照れたように私の名前を呼ぶユウ。
「どうして『さん』つけちゃうかな?」
あはは、と笑って誤魔化しながらキッチンに戻るユウを再び見送り、ソファに座りなおす。
今のやり取りだけで幸せを感じてしまう自分が、妙に気恥ずかしかった。
* * *
※ここからユウ視点です。
食事を終えた僕は、風呂の準備に取り掛かる。
ルリエーンは用意した『キンピラ』を肴に、ぶどう酒をちびちびとやっているようだ。
合うのかな……あれ。
酒を飲むエルフというのも、かつて想像していたエルフの姿と違って少し興味深い。
風呂の準備を終えた僕は、離れてそっとルリエーンを眺める。
「ユウ? どうしたの?」
「いえ、酒を嗜むエルフというのがなかなか想像と違っていて興味深いというか……」
「そうかしら? メープル酒とかぶどう酒ならエルフも飲むわよ。エールは私もあんまり好きじゃないけど」
エール、という言葉をきいてヤールンを思い出し、僕はチクリとした心の痛みを感じた。
おそらくもう二度と会うこともできないであろう、ドワーフの少女を思い出して心が重くなる。
そして、それはうっかり顔に出てしまったようだ。
「う……ごめん。また失言しちゃった?」
「いえ、大丈夫です。ヤールンさんはエールが好きだったので、少し思い出しちゃっただけです」
「あー……ゴメンなさいね、ユウ」
少し落ち込んだ様子のルリエーンに苦笑して見せ、僕は用件を伝える。
「あ、それより風呂の準備ができましたよ。どうします?」
「私はまだ少し飲んでるから、後でいいわよ」
「じゃあ、お先に。ツマミ……足りますか?」
「うん、これ、おいしいわね。エルフ好みかも」
「まだ用意してあるので、足りなかったら言って下さいね」
ルリエーンに軽く手を振って、僕は浴場へ向かう。
この部屋には比較的大きなバスタブを備えた浴室があり、湯につからないと気が済まない僕のような人間にはとても助かる。
「ふぅー……」
湯船に浸かり、深く息を吐き出す。
ミカちゃんのことを考えれば、この一週間という時間は長いようにうも感じたが、ルリエーンの言うように焦って失敗することを考えれば、休息も必要だというのは理解できた。
自分ひとりでは気づけないことを、そばで気づかせてくれるのが仲間なのだと実感する。
かつての自分は一人でなんとでもなる、と思っていた。
それこそ、この世界に来る前ですら、そう考えていた節がある。
だが、そうではなかった。
自分が気付かないか、気付かないふりをしていただけで多くの人に助けられてきたのだ。
誰かが、そばにいるというだけでこんなにも心が安定する。
アナハイムは大丈夫だろうか。寂しがってやしないだろうか。
そんな事を考えながら湯船で目をつぶっていると、引き戸の開く音、そして閉める音がした。
「ルーさん……!? まだ入ってますよ!」
「知ってるわよ」
意に介さない様子で返事が返ってきた。
ちゃぽん、と音がして広くはない湯船にルリエーンが入ってくる気配がする。
「あったかい」
ルリエーンのまだ少しヒンヤリとした肌が、足に触れる。
「ルーさん……びっくりですよ」
「いつまで目を閉じてるの?」
「そうですねえ……魔法を使って風呂場の明かりを消すまででしょうか?」
指をパチンとならしてと風呂の明かりをけす。
「真っ暗になっちゃった」
サパっと音がしてルリエーンが動いた。
首に手が回り、僕に抱きつく形でルリエーンが密着する。
「ユウ、『警戒者』は夜目が聞くのよ」
僕にしても竜眼の影響でルリエーンが見えていた。
その背中から臀部にかけての美しいシルエットが、湯船に波紋を作っている。
「どうしたんですか、ルーさん」
「どうしたのかしら? 自分でもあんまりよくわからないのよ」
ルリエーンはそのまま何か行動をするでもなく、ただ僕に抱きついていた。
控えめなものの、柔らかな丘が僕の胸板に押し当てられている。
「酔ったのかも」
「呑み過ぎですか?」
「気は大きくなってるかもしれないわね」
ルリエーンは小さく笑うと僕に頬ずりした。
くすぐったく思いつつも、ルリエーンの愛情表現に撫でることで応える。
美しい銀髪の頭を。
細く美しい曲線の肩を。
柔らかく白磁のような背中を。
「ユウ……ユウ。ごめんね」
「どうしたんですか?」
「いま私、ユウの気持ちを無視して、自分の気持ちをぶつけてる」
ルリエーンの腕に力がこもる。
怖がっているのか、緊張しているのか。
「僕の気持ち……どうなんでしょうね。いつ迄も吹っ切れない僕もどうかと思いますけどね」
「吹っ切らなくてもいい。でも、ユウの中に私の居場所も欲しい。……ヘンかしら?」
ルリエーンの肩を持って少しだけ引き離すと、抵抗するでもなく、そっと離れる。
少しだけ体勢を立て直して、ルリエーンを抱き寄せた。
「ユウ……私、あなたが好きよ」
「ルーさん……ありがとう。こんな僕を好きでいてくれて」
浅く唇を触れ合わせて、笑い合う。
言葉を交わすでもなく、再びキスをして、また笑う。
まるで境界を探るように。そして、その境界が曖昧になるまで僕らは何度もキスを交わした。
その日、僕とルリエーンは何もかもを許し合い……溶け合うまで愛し合った。
いかがでしたでしょうか('ω')
これでもう警告の心配はないぞ!
表面上はプラトニックだ!
さぁ、皆さん週末ですよ!
ちょっと心が軽いですね?
ささ、評価ボタンをポチっとどうぞ。
週末もね、出勤のね、うなぎは……
執筆の燃料が必要ですよ……orz