第70話
今日も頑張って更新しました……('ω')
冒険者ギルド直営の宿兼食事処である『シロヤギ亭』。
僕たちが一週間の定宿とした、この三階建ての大きな宿は、その客と従業員全てがギルド所属とあって……なかなかの特異性を持っていた。
部屋は細かくグレード分けされており、値段も細かく分かれているのだが「出来るだけいい部屋を」と僕は伝えて、一人一晩5白貨もする部屋を取った。
なんと個人用の浴場まで完備している。僕の世界で言うところのスイートルームというやつだ。
ルリエーンはこの豪遊に目を白黒させていたが、休養を薦めたのは彼女だ。
曰く、僕は『時間に追われているような……まさに生き急ぐといった雰囲気』らしい。
「塔に入るまで、少しリラックスした方がいいわ」
そんな風に言われて肩を揉まれ始められてしまっては、従うほかない。
「危険が多い塔の中では、ずっと緊張状態を強いられるわ。入る前からそんな風に焦っていては保たないわよ? それが原因で大きな事故に巻き込まれる可能性もあるし」
「なるほど……わかりました。おとなしくしています」
自分が焦っているという自覚はある。
だが、「急いてはことを仕損じる」なんて言葉があるくらいだ。
ミカちゃんの為にも、オンオフはしっかりと意識しておくべきだろう。
「ルーさん、ルーピンさんはどういった人ですか?」
『盗賊の心得』から帰ってきた僕は、寝椅子に腰を下ろしてルリエーンに訊ねた。
ルリエーンが師匠と呼ぶ彼に興味があった。
まったく気配を感じさせないあの男が、ルリエーンにとって何者なのか……そういう嫉妬じみた気持ちもあったのかもしれない。
何とも情けない話だが。
「“巧手の”ルーピンは私の盗賊技術の師匠よ。元は遺跡の探索を専門とする探索者で、たくさんの遺跡やそれこそ塔も突破してきた第三層大陸きっての『盗賊』よ。賭け事が大好きで女好き、口もすこぶる悪いけど……悪人ではないわ」
「ルーさんをルリちゃん、なんて呼んでいるのでどんな人かと思って」
「あら、もしかして妬いてるのかしら?」
「どうでしょうね」
僕自身も、その感情にうまく折り合いがついていないのでなんともいえない。
少しイタズラっぽく笑うルリエーンに、僕は苦笑して頭をかいた。
「ただ、今回の申し出は渡りに船だと思うわ。ルーピンはとても腕のいい『盗賊』だから。先行警戒も罠解除もこなせるし、ああ見えてかなり強いの。それに、彼がつれてくる仲間なら私も知ってる人たちよ。戦力的には申し分ないはず。相手が色鱗竜ならそんなの無意味でしょうけど」
「それなんですが、相手が色鱗竜なら話し合いでなんとかなりませんかね?」
僕の発言を聞いたルリエーンが、驚いた顔になる。
「相手は最高位のドラゴンよ? 人間の話なんて聞いてくれるわけないわ」
「でも二千年前は一緒に邪神と戦ったんでしょ?」
「その伝説の信憑性自体が疑われてるところよ。邪神に関する遺跡も資料も残ってないんですもの」
第四層大陸を魔大陸と呼んで忌避する上層の人々には、どうやら二千年前の情報が正しく伝わってないようだった。
そうなると黒竜王の努力が無駄になってしまっているようで、僕は妙に腹立たしく感じた。
ルリエーンの責任でないことはわかっているが、この事実をどう伝えようかと思索してしまう。
「僕の師匠……アナハイムは実際にその戦いを目にしたそうですよ。竜と人が協力して邪神の核を封じたと聞いています」
「魔大陸出身のユウがそういうなら、きっとそれが事実なのね。未踏破地域の解明が進めばそういう歴史の真実が明らかになっていくかもしれない」
この二千年、人は必死に生き、取り戻しているのだ。
探索者や冒険者といった失われた何かを探す人々が職業として認知されるほどに、何もかもが失われてしまっているのだ、と僕は感じた。
今、邪神の話を持ち出したところで、信憑性はないだろう。
人々が自らその足で、魔大陸と呼ぶ第四層大陸を旅し、『黒龍王の墳墓迷宮』を突破して初めて……その事実に、真実に気づくことになるのかもしれない。
その時、それを語るのは黒竜王その竜だろうか?
「ユウ? どうしたの?」
「ああ、すいません。ちょっと考えごとを。それでルーピンさんのことですが……」
「もしかして、ルーピンと私の仲を疑ってるんじゃないでしょうね?」
「いえ、そんなことは……」
「何もないわよ、ルーピンとは。女好きだけど、自分を好きじゃない女に手を出すような人じゃないから」
ルリエーンの眉間にやや険が指すのを見て僕は話題を変えなければ、と焦った。
実際、ルリエーンとルーピンの間に何かあったとして、過去のことと割り切ることは容易だ。
気にならないかといえば、また別問題だが。
「ま、ルーピンのパーティが手伝ってくれるなら、塔を上ること自体にはそれほど不安はなくなったと見ていいと思うわ。あとは本当に色鱗竜が居るかどうかだけね……」
「そうですね、もし本当に居たら……まずは話をさせてください」
「戦って勝てる相手じゃないから結果的にそうするのが一番いいかもしれないけど……竜言語なんて誰も話せないんじゃないかしら」
「それはおそらくなんとかなるでしょう」
実際、多くの言語があることは知っていたが、『渡り歩く者』の特性か、それとも竜血による影響か、僕は言葉に一度も困ったことはなかった。
言葉という概念の枠内であれば、おそらくどの言語でも意思疎通できる能力が自分に備わっていると考えている。
「さて、ルーさん。今日の夕食はどうしましょうか?食堂で食べてもいいですし、僕が作ってもいいですよ?」
いかがでしたでしょうか('ω')