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第68話

今日も頑張って更新ですよ('ω')hoo

 一週間しか待たない、と僕はギルドに伝えた。


 その間、僕とルリエーンの二人は、トロアナを駆けまわって最良と思える準備を着々と進める。

 塔都市ならではの豊富な品揃えの中から、必要と考えられる物を買い集めていく。

 ……特に僕は治癒の魔法薬(ヒーリングポーション)を買い集めた。


 傷の有無は進行速度にそのまま影響するし、僕たちにそれをカバーできる人材は今のところ存在しない。

 幸いというべきか塔都市の『発掘品ショップ』では塔から持ち帰られた魔法道具(アーティファクト)が豊富にあり、治癒の魔法薬(ヒーリングポーション)も例外ではなかった。

 腐るものでもなし、あるものは買っておいて損はあるまい。


 また、僕はルリエーンの装備にもかなりの投資を行った。

 【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】から使えそうな【身代わりの護符(スケープゴート)】や【対毒の小手ディポイズンガントレット】、【幻影の外套(ブリンクマント)】などなど、ルリエーンに使えるものは片っ端から手渡し、鎧をはじめとした全身の装備も可能な限り有用な魔法道具(アーティファクト)で固めた。


 先行警戒には危険が伴う。

 それが塔であればなおさらで、そして……僕のパーティメンバーはルリエーンしかいないのだ。


 当初、ルリエーンは僕の大判振舞いな金の使い方に驚き、止めようとした。

 しかし、最終的には「ルーさんの命が今使ったお金で買い戻せるならいいんですけどね」という僕の言葉に納得してくれたようだ。


 塔は時に人の命を平気で奪う。

 いくら僕がそこらの冒険者に比べて強力な力を持っているとしても、危険なことに変わりはない。


「掛かったお金に見合った働きを約束するわ」


 罠解除の道具を売る店舗『盗賊の心得(シーブスハート)』へ向かう途中、ルリエーンは僕にそう伝えてきた。


「それよりも無理はしないと約束してください」

「善処するけど、それはユウも同じなんだからね?」


 そんな風に、逆に釘を刺されつつも『盗賊の心得(シーブスハート)』の扉をくぐる。

 店舗の中には、所狭しとよくわからない道具の数々が並んでいて、少しばかり心が躍った。

 専門の斥候(スカウト)が使う道具なので、僕にはさっぱりわからないが。


 しかし、この道具に資力をかければかけるほど安全性が保障されるというならば、これらは武具同様に必要不可欠なものだ。

 できるだけ一番いいものを揃えないといけない。


「一体これが何なのか僕にはわからないな……」

「でしょうね。ちなみに今、ユウが手に持っているのが、最も基本的な『七つ道具』と呼ばれるキットよ」


 僕の持つ化粧ポーチのような小さな皮袋の中には、針金やルーペのようなものが整然と収納されている。


「どうみても七つ以上あると思うんですけど……」

「基本的な七つの道具に加えて、あったら便利な道具を足してあるの。それに例えば針金は鍵を開けるのに丈夫で柔らかい霊化金のものがいいし、その袋の中で言えば、そこに糸が入ってると思うけど、それが長いほど罠を発動させて無効化するときに距離を取れるわ」


 うなずく僕に、「色々な事態に対応できるのがいい解除キットなのよ」とルリエーンは解説した。


「わかりました。では、いい道具を探しましょう。それでルーさんが一番いいと思ったもの買いましょう」

「とんでもない値段になるわよ?」

「大丈夫ですよ。それは『必要なもの』です。命のためにかけられる投資は惜しむと後悔するでしょう?」


 おそらくこの世界では、という言葉を僕は口に出さなかった。


「わかった。じゃあ、あれかな!」


 冗談めかしてルリエーンが指差したのは鍵付きの棚に入った赤茶のポーチだった。


 『盗賊の心得(シーブスハート)』と銘打たれた札が仰々しく掛かっており、その下には五億ラカという値札とともに注意書きが書かれている。


「何々……。この棚を破壊することなく取り出せた者にだけ、これを購入権利があるものとする……か」

「あれはすごいわよ? おそらく第三層大陸(トロアナ)で最もいい道具といえば、これに間違いないわ。大陸随一と名高い、このお店の名前になるくらいだからね」


 僕が見ても確かに、強力な力を秘めた魔法道具(アーティファクト)であるというのは歴然だ。

 棚自体にも魔法が掛かっていて、おそらく破壊することは難しいのではないだろうか。


「ま、流石に冗談だけどね! 五億ラカあったら第二層大陸(ドゥナ)で家付きの島が買えちゃうよ」


 そう笑ったルリエーンは、「でも、ユウには【安息の我が家(ホームマイホーム)】があるから、家はいらないわね」と付けたし、道具の選定に再び取り掛かった。


「なるほど……なるほど」


 僕はただただ頷き、棚を見つめた。

 そして、おもむろに青い石のついた鍵を鞄から取り出して、迷わず鍵穴に差し込んだ。

 棚の鍵は何の抵抗もなく「カチャリ」と音を立てて開き、飾られていた【盗賊の心得(シーブスハート)】は何の抵抗もなく、僕の手に収まった。

 邪神を封印する『黒竜王の墳墓迷宮』の扉のことごとくを開くことができる【開錠の魔法鍵(アンロックキー)】の前に、この程度の鍵は無力だ。


 しかし、ただの客寄せパンダだと思われていた棚であるためか、店主を含め、誰も僕に気がつかなかったらしい。

 僕は、それをそのまま販売カウンターの店主の元に持っていき、カウンターに置いた。


「これください」

「はいよ、ちょっと待ちな」


 職人気質な雰囲気を放つドワーフ族の店主は、新しく持ち込まれたのであろう新品の七つ道具キットを一つ一つ検品しているところだった。

 検品を終えて、カウンターの上を見た店主が目を見開く。声なき悲鳴のような呼吸音が聞こえた後、その顔が真っ青になった。

 青を通り越して白くなり始めた店主に僕は冒険者カードを差し出す。


「多分、足りると思います」


 以前ネルキド市で、ギルドの窓口に大量の財宝類や古銭など(それでも【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】に収納されたほんの一部であるが)を出し、換金を要請したところ、その内の一つがとんでもなく高価値の財宝であったため、現在、僕のカードには八億ラカ以上の資産が記録されている。

 また、硬鱗の蛇竜(ハードスケイルワーム)森林恐蜥蜴(フォレストシャーク)などの素材を提供したり、『鬼灯兵団』を介して支払われた報酬もかなりの金額にのぼっていた。


「ちょ、ちょちょ……ちょっと待ってくれ。お前さん、これ……どうやって?」

「鍵を開けて持ってきたら売る、と書いてあったのでその通りに」


 狼狽して今にも泡を吹いて倒れそうな店主を傍目に、僕はしれっとはぐらかした。


「確かに……確かにそう書いたが……あの棚を開けられるのは、オレ様の作った特別なカギだけだ! 開けられるはずがない! どうやって開けたか実演してみろ!」


 そういわれると困ってしまう、と僕は苦笑した。

 何せ、魔法道具(アーティファクト)で開けただけなので実演も何もない。


「そりゃあないぜ、とっつぁん。開いたカギにケチつけて、手の内を晒せってのはいただけねぇな~?」


 妙に間延びした、それでいてよく通る声が僕の背後から店主に浴びせられた。

 僕はその気配にまったく気づけず、驚いて振り返ることとなった。


いかがでしたでしょうか

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[一言] 鍵と女のハートは開けるためにあるんだぜぇ〜
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