第67話
今回はヤールン視点('ω')
ちょっと短め。
※ヤールン視点です
木々の立ち並ぶ森林街道を東に向かってドワーフ用の馬を走らせる。
馬は全身から汗を噴出し、息は荒い。
かなりの強行軍だ。馬も疲弊している。
それでも、森林街道を駆けて、ゆっくりと旅する人や馬車を追い抜いていく。
右手に光る真銀製の腕輪を時折見ながら、自分自身も気力を振り絞る。
「にーさん、どこ行ったんや……」
ネルキド市を飛び出して、五日。
ほとんど寝ることもせず、塔都市方面へ向けて森林街道を進んでいるがユウの姿も、痕跡すらも見つけられていない。
ここに至るまでの間に、すでに馬を貸馬屋で二回乗り換えて半分以上の距離を来ているはずだが、徒歩であるはずのユウに追いつけないなんてあり得るのだろうか?
乗合馬車も毎回見つけるごとに、尋ねてみているが成果はない。
一本道の森林街道で追い越してしまうことはないだろうし、ユウのことだから魔物にやられたということもないだろう。
たしか、急ぐ旅だと言っていた。世間知らずのにーさんからは想像できないが、自分同様に貸馬をはしごしている可能性はある。
とにかく、走らなければ。
そう考えて、馬を急がせる。
塔都市までは、このまま行けばあと一週間ほど。
なまじどこかで追い越したとしても、塔都市の門前で待つか冒険者ギルドに問い合わせることも出来る。
会って謝らなくてはならなかった。
自分が愚かであったことを。
会って伝えなくてはならなかった。
唯一無二の存在であることを。
はやる気持ちが伝わったのか、馬も速度を速める。
次の宿場でにーさんが見つかればいい、と期待した。
しかし、残念ながら見つからなかった。
そもそもどこの宿も立ち寄ったという形跡がまったくなかった。
今時分、宿を利用するのは、自分のように急いで移動しているものや開門特需を狙う商人くらいのものだ。
宿の利用人数はまだ少ない。
風体を尋ねれば、わかりそうなものだが、今回の宿に至っては自分が二番目の客だという。
一番目の客は魔物に襲われ、大怪我を負った商人らしいが、今朝方護衛ともども息を引き取った、と女将は言った。
もしやと想い、恐る恐る確認したが捜し人の姿はなかった。
安心した反面、さらに焦燥感が募る。もう塔都市まで行ってしまっている可能性がいなめない。
「にーさん、置いてかんとって……」
涙が溢れそうになる。
泣いて立ち止まるわけにはいかないが、どうしても涙が出てしまう。
たかだか捜し人が、幼馴染で女だったから何だというのだ。
なぜ一緒に行こうと差し出されたあの手を振り払ったのか。
なまじ、その幼馴染が恋人だったとして、自分の気持ちに見切りが付けれたのか。
そんなわけはなかった。
早朝、宿場を後にしたヤールンは再び、馬を急がせる。
あと少しで塔都市だ。
──しかし。
「はぁ!?」
塔都市に到着したあたしは、駆け入った冒険者ギルドで耳を疑うことになる。
ユウ=カドマは数時間前に塔に入ったと。
「ほな、あたしもすぐに入るわ。用があるんや」
首を振ってそれに応えた受付のコボルトは、不可能であるとアタシに言った。
ユウ=カドマ及びそのパーティメンバーの入塔は特別依頼に関する特例であり、現在は塔に立ち入り禁止であること。
さらに、あたし冒険者としての実力が『塔』に見合っていないことがその理由らしい。
そこまで言われて、あたしは否応なく理解することになった。
力がなければ、ただ並んで旅することすら出来ないのだ。
そんな事すら理解していなかった自分が、ただただ情けなかった。
戦闘力では足を引っ張るだけの自分に、ただついてきて欲しいと言っていたユウは、どんな気持ちだったのか。
ガラスみたいに脆いあの少年を、何故一人にしてしまったのか。
後悔が湧き出て、回る。
出そうになる涙をぐっとこらえて、踏みとどまる。もう、泣いてはいけない。
手を差し出して、引き起こしてくれる男の手を自分で振り払ったのだ。
ならば、その手を掴むためになんだってしなくてはいけない。
「わかった。塔があくまでにD級に上がる。その後試験でもなんでもしてくれたらええわ」
ヤールンはそう受付のコボルトに伝えると依頼カウンターにそのまま向かった。
実力と実績が必要だ。
困難に立ち向かって、ユウの隣を歩くための力が必要が。
戦士の自分であれば、純粋な戦闘力が。
入塔カウンターの先にはもう塔の入口が見えている。
ただ決意の目で塔の入口を見つめた。
そこに向かうユウの後姿が、一瞬見えた気がした。
遺憾ながら、間に合いませんでした('ω')