第66話
さ、今日も更新ですよ('ω')b
場所は変われどもそこは冒険者ギルド。
やはり、笑い声や怒号が飛び交い、喧騒にあふれた有様はどこでも一緒だ。
……とはいえ、その規模は見知ったネルキドのものとは段違いである。
四階建てからなるトロアナ市の冒険者ギルドは一階部分は冒険者のためのスペース、二階から三階はそれぞれの事務作業を行うスペースであり、四階は会長室や来客用の施設を備えている。
一階の広さだけにしてもネルキドの三倍ほどはあるのではないだろうか。
まるで体育館みたいな広さだ。
僕たちは大きく『総合受付』と書かれた札が天井から下がって居るカウンターに向かった。
カウンターの奥では、カッチリした格好の女性が受け付け作業を行っている。
ただ、その受付が獣人なのか人族なのか見分けが付かなかった。
女性は顔つき体つきは人族に酷似し、どことなく獣特有の体型をした獣人族とはまったく違った。
しかし、耳はイヌ科のそれでダックスフンドのように垂れた耳が頭部についていた。
ときおり、パタパタと動くことからあれがアクセサリである可能性は低そうだ。
「ルーさん、あの受付の方なんですけど……何族ですか?」
「あの人はコボルト族ね。二千年前の邪神戦争の時に、善なる神の一柱『地母神マルファ』が援軍として遣わせた軍勢の末裔よ」
獣人とは違っているが体のどこかに獣の特徴を有す人間、それがコボルト族である……とルリエーンは僕にそっと説明した。
「多くは第二層大陸に住んでいるけど、冒険者になる人たちも多いわ。善良を絵に描いたような種族で、みんなとても強いのよ? エルフも森の神としてマルファを信仰する人も多いから彼らとは比較的いい関係ね」
ルリエーンが説明している間に順番が僕に巡り、件のコボルト女性から声が掛かった。
「こんにちは、総合受付担当、クロリエと申します。本日はどういったご用件でしょうか?」
クロリエと名乗った受付嬢は穏やかな雰囲気を言葉に含みつつ、僕たちに笑顔を向けた。
これが営業スマイルとすれば、なかなか大したものだ。
「入国の際、審査をしない代わりにこちらで入国の記録を残してくれと言われまして。名前はユウ=カドマと申します」
名前を告げながら、冒険者タグを取り出してクロリエに手渡す。
「かしこまりました。少々お待ちください……記載いたしましたので、これで問題ないと思われます。何かあった際にご連絡する際に必要ですので、逗留する宿の名前を教えていただけますか?」
「それもよかったらどこか斡旋してもらえませんか? 塔都市は初めてで勝手がわからないんですよ」
苦笑してみせると、クロリエは小さく笑いを漏らし『シロヤギ亭』という宿を教えてくれた。
冒険者ギルド直営の店で「塔と商業地区の丁度中間位置にあるから動きやすいでしょう?」とのことでチョイスしてくれたようだ。
「ありがとうございます。一週間ほどしたら塔に登ろうと思うのですが、その登録はどの窓口ですか?」
場所のメモを受け取りながら訊ねると、クロリエはやや顔を曇らせた。
右耳がパタンパタンと揺れている。
「塔は現在閉鎖中となっております」
「え!?」
青天の霹靂とはまさにこのことだった。
旅を急ぐために急いで塔都市まで来たというのに、塔に登れないでは意味がない。
ルリエーンにしても「こんなことは初めてよ」と驚きの表情を見せていた。
「どうしてです?」
「魔大陸の影響かもしれませんが、大陸間の中間層……30階層付近で色鱗竜と遭遇したと報告があったためです。現在、調査のための緊急依頼を出していますが、大接近明けでハイクラスの冒険者が足りないのです」
「色鱗竜……!」
「はい、塔の特性上、何が起こっても不思議ではありませんが……今回のことははじめての事態です。塔内の魔物はゲートを通れませんが、相手は色鱗竜です。可能性はゼロではありません。それに色鱗竜がいるとわかっていて塔の門を開くわけには行きません」
僕はルリエーンにそっと目配せをする。
緊張した面持ちではあるが、覚悟した目でルリエーンは僕に頷きを返す。
「その依頼、僕達が受けることは出来ますか? こちらには先行警戒に長けた相棒とそれなりに嗜んでいる僕がいます」
「それは危険すぎます。塔自体五人一組以上のメンバーでないと推奨できません。それにC級のあなたでは……」
クロリエは突然の申し出に狼狽しながら僕たちに危険を説く。
当たり前だろう、A~B級以上のパーティに向けた依頼だ。
それがC級二人で見に行くなど自殺行為も甚だしい、というのがクロリエの見解だと思われる。
「では……一週間待ちます。それまでに進展がないようであれば、入塔を許可してください。急ぐ旅なんです」
かなり圧をかけて、僕はクロリエに「はい」を迫る。
断れば、強行突破してでも通るつもりだ。
やや危険をはらんだ表情に、クロリエは「わかりました」としぶしぶ首を縦に振ってくれた。
「ルーさん、行こう。戦いの準備をしないと」
「わかったわ。一週間あれば十分に準備ができるはずよ。任せておいて」
きびすを返す僕にルリエーンが付き従う。
ルリエーンもまた、覚悟を決めた表情だった。
▽
少し変わった二人組が去った後、私──クロリエ=ヘシェンバーグ──は次の呼び出しをするのも忘れ、ただ額に浮き出た汗をぬぐった。
元はA級の冒険者として数々の修羅場をくぐった私ですら、このような体験はそうそうない。
あの異常な圧力。
それこそ、ドラゴンと対峙したかのような気当たりだった。
彼は一体何者なんだろうか。
とてもC級冒険者の放つ圧力ではなかった。
不安になった私は窓口を一時閉鎖し、冒険者台帳をひっくり返してユウ=カドマの名前を探す。
そして思い当たる。
ほんの二時間ほど前、兵士が同じ名を聞いていなかったか、と。
そして、隣の台に出しっぱなしになっていたそれはすぐに見つかった。
特A級の実力を持った魔道士、“自傷の血”の名が記された台紙を。数々の信じられない記載を。
これは参った。
一週間後、彼の歩みを自分では止めることはできないだろう、と私は諦観した。
今回は少し変わった方式でモブさんを一名挟みました('ω')