第65話
本日も張り切って更新します('ω')
トラブルの行方はいかに。
二つ名を持つ、ということは特別に認められた実力をもった冒険者である証明だ。
しかも、それを裏付けるC級であるということは、タグを見れば容易に確認することができる。
加えて『鬼灯兵団』といえば、第三層大陸にすら勇名がとどろく実力派である。
その幹部メンバーである千人隊長から信頼を寄せられるような人物を誤認で拘束し、あまつさえ投獄や入国拒否をしたとなればどんな責が及ぶかわからない。
ルリエーンの発した警告は、憲兵たちを揺さぶるに十分なものだったようだ。
僕としては、そういった権威のようなものを振りかざすのは好きじゃないんだけど。
「ルーさん、そういう脅しはよくないですよ。その水晶板の精度はよくわからないですけど……問題があるなら調べてもらえばいいんですし」
僕が苦笑いしながらルリエーンを嗜めるものの、憲兵の緊張は解けなかった。
「そ、そうですとも」
緊張した様子の憲兵が、相変わらずな紳士な様子で椅子をすすめてくれる。
曰く、この水晶板は信頼度の高い魔法道具ではあるが、やはり誤反応はあるらしい。
「で……ではですね。ここでいくつか質問をしても?」
「ええ、結構ですよ」
僕は聞かれるままに実績や犯罪歴の有無などの質問に答えた。
「あ、実績ということなら冒険者ギルドに問い合わせてもらえば、『鬼灯兵団』経由で記録が残ってるはずです。つい最近までネルキド市の防衛に、一緒に参加していたので」
僕の言葉に頷いた憲兵は、冒険者ギルドに羊皮紙を持ってきた若手の部下を走らせた。
その間も、いくつかの質問をやり取りする。
しばらくして息を切らせて戻ってきた部下が慌てた様子で書類を差し出した。
書類に目を落とした憲兵の顔色が、みるみる悪くなっていく。
ちょっと視線を動かして、僕の事が書かれているであろう書類を確認してみる。
▽
“自傷の血”ユウ=カドマ。
冒険者集団への所属なし、一時『鬼灯兵団』所属。
(特記実績)
・硬鱗蛇竜を単身討伐。
・森林恐蜥蜴を単身討伐。
・広域魔法によるデモンウルフの群れの殲滅。
(特別注意)
『本人の強い希望で昇格拒否。自動昇格を行わないこと。受諾可能クエストレベル:Aに設定。緊急依頼は本人に要相談』
▽
青い顔をした憲兵がなにやら小声で部下と話している。
「隊長どうしたんですか」
「これ見てみろ……」
「これは……!」
「……何かあったら俺達の信用問題だ」
「もう通しましょうよ。こんなの内勤の連中に任せられませんよ。奥に連れて行っても、ろくに調べもせずに入国拒否の判断をしたりするヤツもいますし……」
「ああ、入国拒否や投獄でもされたら上から大目玉で……」
「責任はオレらですよ。もう、独断で通しちゃいましょうって」
生憎、少しばかり耳がいいので丸聞こえなんですけどね……。
しばしして向き直った憲兵が、汗ばんだ顔で僕にニッコリ笑ってみせる。
「こ……この水晶板は、犯罪記録のあるものや、危険と判断されるものを簡易に見つけるためのものです。もッ……もちろん、誤反応もありますが、なにか心当たりはありますか?」
あくまで丁寧に、を心がける兵士に僕は好感を持った。
仕事熱心で、傲慢ではない。
それだけで、人間できてると思える。
「それは僕が希少魔法の使い手であるとか、黒魔法を使うとかそういったことにも反応しますか?」
「……あるいは。おそらく、あなたの戦闘に関する能力を水晶板がなんらかの脅威と判断した可能性があります」
おそらく、それが正解だろう。
なにせ僕の半分は、優しさでなく黒竜で出来ているのだから。
「なるほど……。どうすれば入国できますかね?」
「ご心配なく。このまま入国していただいて結構ですよ。念のため入国後すぐに冒険者ギルドに立ち寄っていただいてもらえれば」
憲兵の言葉を聴いて頷いた僕は、壁にもたれかかって待つルリエーンに目配せして席を立った。
「どうも、お手間を取らせました。疑うのも我々の仕事と思って許していただけたらと思います」
「いえいえ。僕としてもこうやって仕事熱心な兵士さんがいればこそ、塔都市の安全性がわかるってものです」
お互いに軽く会釈して兵士用に設けられた通用門から僕たちはトロアナ市に入った。
* * *
足を踏み入れたトロアナの街は、驚きに満ちていた。
広いメインストリートの両サイドに立ち並ぶ商店や露店、行き交う人々、建物の高さ。
どれもこれも、規模が違う。
「さ、言われた通り、冒険者ギルドへ向かいましょうか」
「はい。場所は……」
「こっちよ」
ルリエーンに手を引かれて、大通りに配置された専用の歩道を歩く。
中央は馬車などが行きかう、いわゆる車道となっていてこういった住み分けもネルキドとは様子が違う。
「ルーさん、その……ちょっと恥ずかしいです」
「ダメよ。ユウったら、一人にしたら何をやらかすかわからないもの」
出会ってからたった三日で、僕の信用は焦げ付いてしまったらしい。
一体僕が何をしたっていうんだ。
「それに、私はユウと手をつないで歩きたいわ。ダメかしら?」
可憐に笑うルリエーンにそう言われてしまえば、これを振りほどくのはまず不可能だ。
僕は、苦笑いをしながらもその柔らかい手に誘われて、初めての塔都市トロアナを歩いた。
今回は平和的解決が成されました('ω')b