第64話
今日も元気に更新です('ω')
ルリエーンとの出会いから、三日。
周囲が夕焼けに染まるころ、僕達二人は『第三層大陸の塔都市』……
トロアナにほど近い森の中にいた。
高くそびえる白い塔は、もうすぐそこに見えている。
「毎回そうだけど、地面に降りるとホッとするわね」
「そうですか? 僕は空を飛ぶのは結構楽しいんですけどね……」
【隠された金庫室】に【羽ばたき翼機】を仕舞い込んで、森林街道に出るべく森の中を進む。
ルリエーンによると、市内に入るための門は日没後しばらくすると閉じられてしまうらしい。
トロアナ市に入るなら、少し急がねばならない。
「大きな町ですね」
「この大陸の中心地だもの。ネルキドの数倍はあるわよ?」
確かに、空から見たトロアナ市はネルキド市と比べるまでもないほどに巨大な都市だった。
中央山脈のやや西側にあるこの塔都市は、まさに第三層大陸の中心となる都市だ。
ネルキド市をはじめとする西部地域の全ての道はここにつながり、東には中央山脈に居を構えるドワーフ王国の玄関口が存在する。
ちなみに、各大陸の『塔』を有する塔都市だけが、大陸と同じ名前を冠することができるというのは最近ルリエーンに教えてもらった話だ。
各大陸に存在する塔都市の歴史は古く、国という枠組みができる前からそこには人の生活があったと聞いた。
今でも塔都市は国に属さず、むしろ一個の国として存在しているそうだ。
「あれが『塔』……大きいですね」
空に向かってそびえ立つ、あの白く巨大な建造物。
元居た世界でも、見上げるような建物はあったが、この塔は異質すぎる。
空の先でかすんで見えなくなっているのに、存在感だけがやけに巨大で……神々しくも寒々しい妙な気配を感じてしまう。
「いきましょ、ユウ」
「はい。急ぎましょう」
森を駆け抜けて森林街道に出た僕たちは、目立たないように街道を北上し、入管でごった返す南門の入国審査列へ並んだ。
「これはまた、大きいですね……」
「この大陸最大の都市で、第三層大陸の冒険者ギルドを統括しているのもここだからね。私も初めて来た時は驚いたわ」
十メートルほども高さがある城壁は、なんともいえない圧迫感を放っていた。
門の前ではネルキド同様に検問の兵士が立っており、出入国のチェックを何やら板状の魔法道具で管理している。
入出国ゲート五つもあり、そのすべてに人が並んでいて。出入りの激しさを物語っていた。
門の前に集まっている者の多くは商人風で、馬車も多い。
逆に、勢いよく出国していくのは冒険者の風体をした者も多く、大接近が明けたことを喜ぶ声もちらほら聴かれる。
その大接近を利用したおかげで第三層大陸に登ってこれた僕としては、やや複雑な心境だが。
ルリエーンはきょろきょろと首を振って挙動不審な動きをする僕を優しくたしなめつつ、トロアナ市の説明をしてくれた。
広さは約二十五キロ平方メートル。人口は冒険者含め二十万人ほど。
ドワーフ王国以外は国らしい国のない第三層大陸で、人族の統治する土地としては最も広く、経済活動も活発。
ドワーフ王国との条約で協力体制にあり、ドワーフたちからもたらされる資源や製品を他の大陸や都市に供給するために一役買っているのが、このトロアナ市である。
また、塔を擁することで輸出入や発掘の拠点となっており、同じ塔都市である第二層大陸の『学園都市ウォン=ス=ゲイル』とは姉妹都市という扱いとなっているらしい。
塔の周辺はどの大陸もこういった大都市が築かれているそうだ。
ルリエーンは「魔大陸は別だけどね」とも付け加えたが。
「ルーさん、そろそろ順番です」
「ここの入国は早くて済むので楽よ」
進んだ先、入国ゲートでは二人の検問官が並んでいた。
「トロアナ市へようこそ。身分証明がある方はご提示いただき、この水晶板に手をおいてください」
おそらくマニュアル化された文言なのであろう、兵士の一人がスラスラと説明する。
ルリエーンを見ると、促されたとおり冒険者タグを見せて、A4ほどの大きさの透明な水晶板に右手を載せた。
それを読み取るかのように光の横線が水晶板を通過し、水晶板は淡く青く光った。
「ユウ、同じようにすればいいわ。犯罪歴なんかの照合をするためのものだから怖くないわよ?」
その丁寧な説明は、いささか度が過ぎてやしないだろうか。
僕が物知らずなのは確かだけど。
「では……」
ルリエーンと同じように、僕は冒険者タグを取り出して見せ、水晶板に手を置いた。
検査の光が通り過ぎた後、水晶板が紅く光る。
それを見た兵士は一瞬ぎょっとした顔をしたが、すぐに平然とした顔を作って、そばに控えていた兵士に目配せした。
「失礼ですが、詰め所にご同行願います」
目配せされた兵士はすぐにこちらに駆け寄り、僕に同行の旨を伝えた。
特に拘束されるでもない、理性的な対応だ。
(またこのパターンか)
半ば自分の境遇に呆れながらも、今回はケガ人が出ていないことに妙な安堵を覚えた。
そういう気分もあってか、僕は快くうなずく。
「はい、わかりました」
「では、こちらに」
「待ちなさい」
同行人である美しいエルフはこの対応に納得できなかった様だ。
「どういうことなの? ユウは塔都市に来るのは初めてのはずよ? それがどうして要入国検査なのよ?」
「それがわからないから詰め所においでいただくのです。赤が出た以上、入国に関して適切な処置をとらざるを得ないのが我々の仕事なのです」
水晶板を持った検問兵は、食ってかかるルリエーンに毅然とした態度で対応している。
仕事熱心で好感が持てるなぁ……と僕は暢気なことを考えていたが、雲行きがおかしいのは確かだ。
「ルーさん、大丈夫です。きちんと調べてもらえばわかることですしね」
「なら私も付いていくわ。あなたが正式なメンバーでないにしろ、『鬼灯兵団』のバッソ千人隊長から信頼を置かれる人物で、二つ名すらもつ冒険者だって、この人たちに説明しなきゃいけないし」
ルリエーンの言葉に、兵士の顔がやや引きつるのがわかった。
ちょっと雲行き不安('ω')?