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第63話

今回もちょっと甘め('ω')b

 夕食の焼き魚を食みながら、『塔』についての基本的なレクチャーを受ける。

 どうやら、『塔』は思っていたよりも、ひどい場所のようだ。


「できるだけ準備をしないといけないな……」

「塔に入る前に、またきちんと説明するわ。それに、私自身の装備が必要だしね」


 少し困ったように、ルリエーンが苦笑する。


「あ、そういえば荷物は馬車に?」

「日用品とか細かいものは馬車に乗せてたけど、装備品はね……その、全部ユウが燃やしちゃったから」

「あ、すみません……」


 景気よく赤魔法で炎を撒き散らしたものだから、ゴブリンの巣にあったものは全部燃えてしまっただろう。


「気にしなくていいのよ、助けてもらっただけで十分。装備はトロアナ市で買いなおすわ」

「手持ちに何か使えるものがあるかもしれません」


 【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】の鍵を取り出し、魔力を込める。

 カチリと音がして、アイテムが収められた心象風景が目の前に広がった。


「ルーさん、得意な武器は?」

「弓と弩級(クロスボウ)、あとは短剣かな。投げナイフも使えるけど」


 【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】の中に、彼女が使えそうなものが何かないかと僕は見渡す。

 そして、一つの武器を現実世界に引きずり出した。


「変わった形の短杖(ワンド)ね」

「杖じゃありませんよ、これ」


 僕の世界では『銃』と呼ばれているもの。

 銃身の短い猟銃のような形状をしているが、リボルバーのような回転式弾装(シリンダー)を備えた特異な形状をしている。

 拳銃というには大型過ぎるが、片手でとりまわせるように全体的なバランスが調整されており、重さも弩級(クロスボウ)とそう変わらない。

 銃床は赤い色合いの磨きこまれた木材で、銃身は真銀(ミスリル)特有の淡い輝きを返していた。


「これ……たまにドワーフたちが使ってる武器に似てるわね」


 手渡されたそれをまじまじと見ながら、ルリエーンがコメントする。


「ほとんど同じですよ。ただ、こっちの方がずっと高性能ですけど」


 そう、この世界のドワーフたちは火薬の技術を持っている。

 爆弾岩というそのままな名前の鉱物を粉末火薬にして、発砲する原始的な銃。

 所謂『燧発式銃(フリントロックガン)』をドワーフたちは作ることに成功していた。


 火薬の威力や精度の問題から、それほど高い攻撃力は今のところないようだが、散弾銃のように細かい金属片を発射して魔物をけん制する姿はネルキドの防衛戦で何度か見たことがある。


「これは使ったことないわね……そもそもドワーフ族以外には出回らないものだし」

「ところがこれ、ドワーフ製とは限らないんですよ」


 【薔薇の貴婦人(ローゼスレディ)】と銘打たれたこれは、れっきとした魔法道具(アーティファクト)である。


 製作者は不明。

 ドワーフかもしれないし、過去にレムシータに存在した『渡り歩く者(ウォーカーズ)』かもしれない。

 とにかくこれは、もともと【隠された金庫室(ヒドゥンヴォールトゥ)】に収納されていた一級の魔法道具(アーティファクト)だ。


「これ、よかったら使ってください」

「どうやって使うの?」

弩級(クロスボウ)と一緒で狙いをつけて引き金を引くだけです。たぶん、弩弓(クロスボウ)よりも軽いと思いますよ」

「矢は?」

「これです」


 僕は回転式弾装(シリンダー)を指差す。

 リボルバーのように回転式弾倉(シリンダー)をずらすと、そこには鈍色をした六発の銃弾がすでに装填されている。


魔法道具(アーティファクト)を使う時の要領で魔力を込めてみてください」


 ルリエーンが【薔薇の貴婦人(ローゼスレディ)】に触れると、回転式弾倉(シリンダー)の弾が金色に変化する。


「これで装填完了です。六発まで連射できるクロスボウと思っていただければ」

「魔力消費はそんなにだけど、矢弾のように持ち歩けないのね」

「そうですね……でも弾は再利用可能ですし、作ることも出来ますよ。今度予備を作っておきます」


 僕がこの武器を使わないのには理由がある。

 ……と、いうよりも正確には使えないのである。

 呪いか嫌がらせかは不明だが、この【薔薇の貴婦人(ローゼスレディ)】という魔法道具(アーティファクト)は女性専用なのだ。


 当初、発見した時は「僕の厨二的冒険心が!」と小躍りして喜んだものの、黒竜王(アナハイム)しか使えないとわかると、がっかりした。

 竜族しか使えないのかと訊いてみると、黒竜王(アナハイム)曰く、女性特有の魔力が通わないと魔法道具(アーティファクト)が起動しない仕組みになっていると説明されたため、失意の中で【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】にしまいこんだ一品であった。

 

 ドワーフが銃を使っているのを見た僕は、ヤールンと塔に入るときの武器の一つとして手入れはしておいたのだが、どうやら出番があったようで何よりだ。

 弩級(クロスボウ)に慣れたルリエーンならば、【薔薇の貴婦人(ローゼスレディ)】を上手く使いこなすだろう。


「強力な武器です。きっと役に立ちますよ」

「これ、もらっちゃっていいのかしら? 古代遺物(レガシー)級の魔法道具(アーティファクト)だと思うんだけど……」

「僕じゃ、それ使えませんしね。きっとルーさんならうまく使えますよ」

「そう? じゃあ、ありがたくいただくわ。ユウからの初めてのプレゼントが武器って言うのはちょっと残念だけど」

「……ッ!」


 フフっと少し笑って、ルリエーンは僕にウィンクして見せた。

 どうやら僕は選択肢をミスったようだ。


「すいませんね、世間知らずなもので」


 照れ隠しに苦笑しながら僕は【隠された金庫室(ヒドゥンセイフ)】からもう一つ引っ張り出す。


 桜色の金属で出来た髪飾。

 それが降り注ぐ月光を反射して、きらりと光った。


「これを」


 身を乗り出して、それをルリエーンの頭にそっと飾る。

 予想外の動きだったのか、ルリエーンは長い耳を真っ赤にして、その場に硬直した。

 よしよし、僕としては満足な反応だ。


 しばしして、美しい森の住人(ルリエーン)は上目使いに僕を見ながらささやいた。


「世間知らずな割に女たらしね、ユウは」


いかがでしたでしょうか('ω')


先日は渾身のダジャレが駄々スベりしました。

ちょっとショックなので慰めてください。

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