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第60話

昨日の更新忘れてました……('ω';)スミマセン

今回は、少し変則進行です

「明日からは塔都市に急ぐので、今日のところは足をきちんと治してください」

「もう痛くないから大丈夫よ」

「油断は禁物です」


 さっきまでの強気な態度はどこへ行ったのか、ルリエーンは真っ赤になった長い耳をたれさせて、あわあわ言っている。

 エルフの耳って垂れるんだな。

 ちょっと可愛い……と言ったらきっと怒られるだろう。

 恐らく、とんでもなく年上の女性だし。


 しかし、意外と純情なところがくすぐったい気持ちにさせる。


 ルリエーンをそっとベッドに寝かせると、種類の違う毛布を二枚重ねて上からかける。

 肩どころか顔半分まですっぽり埋まったルリエーンが、妙に愛くるしい。


「広いベッドだね。二人でも大丈夫そう」

「二人用ですからね」


 ルリエーンへこんだ表情の僕を見て「あっ」という顔をする。


「ごめん、ユウ」


 思わず顔に出てしまった。

 もう少しポーカーフェイスを保てればいいんだけど。


「いいんです。ここはルリエーンさんの寝室にするので自由に使ってくださいね」

「ユウはどこで寝るつもりなの?」

「居間に寝椅子(ソファ)があるので」


 ルリエーンががばっと起き上がる。

 怪我をしているのだから、急な動きはしない方がいいと思う。


「私がそっちで寝るわ」

「怪我したお客を寝かせるような場所じゃないですよ」


 僕は苦笑する。

 寝心地はいいかもしれないが、さすがにルリエーンを寝椅子で寝かすわけにはいかない。


「ちょっと、ユウ。ここ座りなさい」


 有無を言わさない迫力でルリエーンがベッドの端をぱしぱし叩いた。

 迫力に押され、僕は言われたとおりベッドに腰を下ろす。


「ユウ。私はもうお客じゃないわよ? 今日からキミのパーティメンバーで、恋人候補で、目的を同じくする仲間よ」


 さりげなく恋人候補を差し込むところに、ルリエーンの強かさを感じたが、今は口を挟める状況ではなさそうだ。


「確かに付き合いは浅いけど、お客様扱いはして欲しくない」

「とはいえ、やっぱり寝椅子でルリエーンさんに寝てもらうのはどうかと思うんですよ」

「この屋敷の主はキミなんだから、ここで眠るべきよ。私は寝椅子でも大丈夫。冒険者なのよ?」


 しばしの沈黙。

 正直に答えるべきだろう。

 それが誠意というものだし、この先もある。

 こんな小さなことで言い争いをするべきじゃない。


「怖いんですよ」

「何が?」

「このベッドの広さが」


 ルリエーンは俯く僕の言わんとすることをわかってくれただろうか?


 いままで隣に居た存在が、いまは居ない喪失感。

 それを引きずった情けない男が僕という存在だ。



 ▽



 傷心中なんです、と寂しそうに笑うユウがどれほど傷ついているか、件のドワーフ娘は知っているのだろうか?

 ユウにどれほど自分が愛されていたのか自覚しているのだろうか?


 嫉妬に似た怒りのような感情が、私に湧き上がった。

 静寂と調和を尊ぶエルフにあるまじき事だが、その感情をはしたないとは思わなかった。


 こんなに脆い精神状態で世界を旅するなんて危なっかしくて見ていられない。

 助けておいてもらってなんだが、きっと彼はこの先つまずいてしまうだろう。

 その時、支えられる誰かが、手を取って立ち上がらせる誰かが必要だ。


 短い命の人族において、ことさらに年若い彼を支えたい。

 それが私の正直な気持ちだ。


 ならば、最初に私がするべきことは、許されることだ。

 多少腹立たしくはあるが、そのドワーフ娘の代わりだって構わない。

 そばにいて、ユウと共に在ることを許容してもらう必要がある。

 

「広くもないし、怖くもないわよ」


 心の中で決意した私は毛布の端をめくり、ユウを手招きした。

 エルフとしても、女としてもはしたない行為だと自覚はしている。


 このまま、純潔を失うことになっても構わない。

 その程度の好意も覚悟も、あるつもりだ。


「折衷案。ここで二人で寝ましょ」

「却下ですね」


 苦笑しながらも、にべもない物言いのユウの手を掴む。


「いいから、来て? いうこと聞かないと塔で悪辣なトラップの中に放り込むわよ?」

「恐ろしい冗談はよしてください」


 手を振り払うことはしないが、ベッドに入ってくる気配がないユウ。

 お願いだけでだめなら、同情に訴えてみようか。


「ゴブリンが怖くて……」


 ユウは一瞬逡巡したようだが、すぐにぴんと来た顔をし、少しジト目で私に向き直った。


「さっきはそんな事言ってませんでしたよね……?」

「ばれちゃった」


 思わず舌をぺろっとだして笑った私を見て、困ったような笑顔を見せるユウ。

 弛緩し、油断するユウの首に両手を引っ掛け、力いっぱい引き倒した。

 ユウを膝枕するように抱き寄せる。


「ルリエーンさん?」

「ルーって呼んでってば」


 ペシっとユウの額を軽くたたく。


「ユウ、怖くなんてないわ。私が一緒だもの。この先ずっと、あなたが元の世界に帰るまでこのベッドで眠るキミの隣には私が居るわ」


 ユウの頭をそっと撫でやる。

 珍しい真っ黒な髪。

 柔らかでさらさらとした感触。

 ユウは特に逃げることもなく撫でられていた。


 これで少しは警戒を解いてくれればいいのだけど。



 ▽



 どこか満足げな表情で、ルリエーンが僕の頭を撫でている。

 いい気持ちだし、膝枕の感触は最高だが、心がどうにもついて行かない。


 僕は心の中で「ルリエーンはヤールンの代わりではない」と強く自戒していた。

 ヤールンが失せた喪失感をルリエーンで満たそうという、邪な欲がないわけではなかったから。

 そんな下衆な考えを持つ自分がひどく汚れた人間に思えて情けなかった。


 自分の甘えを、この可憐なエルフにぶつけるべきでない。


「難しい顔、してるわね」

「僕は……いま酷く下衆な事を考えました」

「どんなこと?」


 ルリエーンの優しい声が僕の思考を捉える。

 全て話した安心感だろうか、それともルリエーンなら受け止めてくれるという一方的な思い込みだろうか?

 僕は正直で汚れた気持ちを、ルリエーンに吐露することにした。


「ルーさんでヤールンの隙間を満たそうと、そんな考えが……ありました」


 尚も優しく頭を撫でながら、ルリエーンはささやくように答える。


「私で満たせるなら私が満たすわ」

「でも、それはルーさんの好意と弱みにつけこんだ、邪な考えです」

「邪でも、汚れてても……ユウの正直な気持ちならそれでいいわ」


 ルリエーンのその言葉は、僕にとっての殺し文句となった。


 心が軽くなっていく。許されたのだと、緩む。

 そんな自分がひどく浅ましかったが、どうしようもなくうれしかった。


「ベッドで襲ってもいいわよ? 初めてだから優しくしてね」


 軽口をたたくエルフに、僕は得意の困り顔で笑った。


「ルーさん、あまり煽らないでください。こう見えて結構欲望に忠実なんですよ、僕」


 軽口を叩き返すと、名残惜しいと心底思いながらも柔らかなルリエーンの腿を離れ、その隣へもぐりこむ。

 それを見たルリエーンも、毛布を被りながら再び横になった。


 二人の位置は、近い。

 どちらからといわず体を寄せ合い、おそるおそるといった風にぎこちなく抱きしめあう。

 華奢で小さいルリエーンの体は温かく、いい匂いがした。


 その日、僕は二日ぶりの眠りを安堵の中で迎えた。


一話内に二人分です('ω')

完全に一人称よりも、少し状況が見えやすいかなと思います……!

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