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第6話

本日も張り切って更新してまいります('ω')

しばらくはアナハイムとイチャイチャしながらスローライフしてるので許してください……

 ※アナハイム視点です



「まずは【探索の羅針盤(シーカードコンパス)】が見つかってからの話です。出かけるまでにここをきちんと整理してしまいたいですしね」


 そんな風に朗らかな笑顔を見せるユウを見て、我は思わず後ろ手にもった【探索の羅針盤(シーカードコンパス)】をぎゅっと握り締めた。

 肉を載せる銀食器と飲用可能な魔法薬を探す途中で、偶然に見つけたものだ。

 

「……そうさな。カドマのおった世界と違ってレムシータは小さきものにとって危険に満ちておる。せめて、出歩ける程度には鍛えないとの」


 お互いに納得できそうな受け答えをしたものの、握った【探索の羅針盤(シーカードコンパス)】を出すことはしない自分に、やや驚いた。

 今すぐこれを出してしまえば、目の前からユウが消えてしまう。


 そんな身勝手な思いが、これを隠させた。

 長く生きてきて、これほどまでに利己的になったことが何回あっただろうか?


 少なくとも、先代の黒竜王からこの地下墳墓を引き継いでからは一度もない。

 そもそも、そんなことをする相手すらいなかったのだ。

 同族は邪神の残渣を忌避し訪れることはなく、その他の種族にしても、この広大な地下墳墓を突破してくる者などいない。


 孤独には慣れているつもりだった。

 悠久の時を生きる竜族……特に色鱗竜(カラードドラゴン)である自分にとって、孤独などとるに足らないものだと、高をくくっていた。

 竜族特有の眠りにつけば、時間などすぐに過ぎていくものだと、甘く見ていた。


 それでも三百年を過ぎたころから、孤独感が徐々に増した。

 もしかすると封印された邪神の姦計ではないかと疑い、ぐっと我慢した。


 人恋しさ──竜恋しさというべきか──に飛び立とうとしたことは何度もあったが、ここを離れたすきに邪神が復活しようものなら目も当てられないと思い直す日々。

 戯れに鼠の死骸なぞを死霊魔法で動かしてみたり、財宝の山に埋もれる骨をスケルトンにしてみたが、虚しさが増すばかりで心は晴れなかった。


 少しなら外に出てもいいんじゃないか?

 どうして自分だけが、このような責務を負わねばならないのか?

 先代とあわせてもう二千年以上も何も起きていないのだから、大丈夫なのではないか?


 そもそも……あと何年待てば自分はこの任を──墳墓迷宮の黒竜王という立場を離れられるのか?


 心に限界が近づいていることを、自分自身で自覚した。


 そんな時である。

 ドサッっと音がして、目の前に人の子供らしい何かが落ちてきた。


 見慣れぬ服装、嗅ぎ慣れない匂い。

 かつて邪神を討った人間と同じ、異界の匂いを纏った小さな生き物。

 そして、それは酷い怪我を負っていた。


 息はない。

 待ち望んだ来訪者はすでに息絶えていた。


 ピクリとも動かない上に、命が発する魔力も感じない。


 しかし、体はまだ温かく、まるで生きているようだと思った。

 このままアンデッド化してやろう。

 運がよければ生前の意識を保ったままアンデッド化するかもしれない。


 黒の魔力を練り上げ、注ぎ込む。

 どうか、死して意識を取り戻すように、と祈りをこめて。

 

 しかし、彼の体を覆う黒い輝きは四散してしまった。

 まるで、命あるものに死霊魔法を使ったときのように、だ。

 何度試しても上手くいかない。

 

 焦りを感じた。

 このままでは失われてしまう!

 何百年も待った機会が失われてしまう!


 そういえば、生命に関する魔法道具(アーティファクト)が手元になかっただろうか。

 あったはずだ。どこへやったか……?


 しばらく探しまわり、ようやく尻尾付近にぞんざいに転がってるそれを発見した。


 ──【再生させる紅玉(リヴァイヴァルビー)】。


 死者蘇生の秘宝。

 自分にとっては宝の持ち腐れと気にも留めなかったが、今必要なのはまさにこれだ。

 

 紅く光る宝玉を子供の胸に押し当てる。

 本来は魔力を注ぎ込んで使うものらしいが緊急事態だ。

 体に埋め込んでしまおう。上手くすれば、傷ついた心の臓の代わりに体を賦活させるかもしれない。


 ……結果。


 弱々しいながらも子供は息を吹き返した。

 この時ほど自分の魔力の多さに感謝したことはなかった。


 しかし、文字通り瀕死の状態である。


(黒竜王である我にこんなに手間をかけさせおって!)

(生き返ったら小間使いにしてやる)

(ありとあらゆる雑用を押し付けて、溜まりに溜まった鬱憤を毎日ぶつけてやる)

 


(だから……頼む)

 

(何か……何か、声を聞かせておくれ……!)

 

 何でもよかった。

 悲鳴でも、罵倒でもいい。


 祈りとも、願いともつかない想いだった。

 自分自身、あふれ出る感情に戸惑った。


 それでも、それは純粋な願いでもあったのだ。


 この子供を救うために、もう一押し……何かないかと、周囲を見渡す。

 古今東西の希少な宝物(ほうもつ)が積み上がる黒竜王の玉座。

 生命賦活の魔法薬や秘薬がどこかにありそうなものだが、気が急いているせいか見つけられない。

 こんなことならもっと整理しておくべきだった。


 あいにく生命力を司る、白や緑の魔力は自分と相性が悪く使えない。

 つまり、魔法による生命賦活は不可能だ。

 

 ……いや、一つだけ使える魔法があった。


 竜魔法(ドラゴンズロア)と呼ばれる魔法の系統の中でも極めて異質なものが。

 その中でもことさら特殊で──この黒竜王アナハイムこそががオリジナルとなる魔法。


 竜族の間でも、禁忌の魔法として厳しく使用を禁じられた異端の魔法。

 自分が、こんな役目を押し付けられた遠因。


 しかし、躊躇いはなかった。

 自身の鋭い牙で、左腕を切り裂く。

 あふれ出る自身の血を、浅く息をする子供に浴びせる。


 「<血よ、我が血よ。我と我の円環を成す者を巡る血よ。ここに新たな巡りを示す>」


 魔力をもって紡がれる祝詞に、流れだす血が魔力に反応し、うっすらと光を放つ。

 子供に浴びせた血も同様に光を纏い、徐々に子供の体に吸い込まれていく。 


「<円環は成された。血の盟約のもとに>」


 再び祝詞を紡ぎ、魔法を終える。


 竜族の血を体内に入れ、作為的に竜人(ドラゴンリング)を作り出す、黒竜王が秘術中の秘術。そして、禁忌中の禁忌。

 しかし、竜族の生命力があれば、簡単に息絶えることはなくなるだろう。


 目に見えて安定した子供を見て、安堵する。

 多少、張り切りすぎた感はあったものの、ここ数百年得ることのなかった達成感に久方ぶりに笑うことが出来た。


いかがでしたでしょうか('ω')

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