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第56話

予告通り、本日から一話更新です('ω')b

今回はルリエーン視点です

 ※ルリエーン視点です



 温かな湯に満たされた湯船につかりながら、私はいよいよ頭がついていかなくなって混乱していた。

 魔法のテント、というものは見たことがある。

 テントの中のカンテラに火をともすと、逆にテントが透明になって外から見えなくなるといった魔法道具(アーティファクト)で襲撃を未然に防ぐものだった。


 また、テント自体は一人用に見えるのに、中は広くなっていて数人入れるといったものもあることにはあるらしい。

 だが、浴場やキッチンまでついた家が、丸ごとおさまっている魔法道具(アーティファクト)なんて聞いたこともない。


 もしかするとあの少年は、どこかの大国の王子さまだったりするのかと疑ってしまうくらいだ。正体が判然としない。

 『鬼灯兵団』の客分だったというのは知っているし、多大な戦果を挙げた今期の英雄だというのも知っている。


 しかし、だ。

 自分を救出した時に見せた、あの恐ろしい力は得体が知れない。


 エルフにとって忌避すべき赤と黒の魔力(マナ)五大魔法(ソーサリー)を詠唱もせずに放ち、小鬼(ゴブリン)の住処を瞬く間に滅ぼしてしまった。

 私を抱きかかえながら呪いと熱をまき散らして洞窟中を蹂躙する様は、どちらかというと邪悪な魔法使いに見えないこともない。


 もしかすると、この間の魔大陸大接近で上ってきた高位魔族の可能性もある。

 魔大陸には未踏破の古代遺跡が山ほど残っているみたいだし、このような強力な古代遺物(レガシー)が存在する可能性は高い。

 高位魔族であれば、それを持っていても不思議ではないだろう。


 隙を見て逃げ出すべきだろうか?


 考え、うつむくと、包帯の巻かれた足が目に入った。

 魔族がエルフに包帯を巻いて治療するなど聞いたことがないし、何かするにしても、治療して風呂にまで入れるとは考えにくい。

 何が目的なんだろう。


 ──いや、何を考えているんだろう、私というやつは。


 自分は今日、あの汚らわしい小鬼(ゴブリン)たちに攫われ、繁殖に使われるところだったのだ。

 死ぬまで嬲られ、犯され、孕まされる未来しかなかったところを、文字通り『間一髪』で少年(ユウ)に助け出された。

 冒険者生活はずいぶん長いはずだが、思い返せばこれほどの危機は初めてだったように思う。


 もし、ユウが助けに来なければ……死よりも辛い現実が私を待っていたはずなのだ。

 そう考えると、不意に恐怖が去来して体が強張った。


 あの不快な小鬼(ゴブリン)たちが自分の肢体(からだ)に触れる感触が甦り、怖気が這い上がってくる。

 ……おぞましさに総毛立っ(ふるえ)た。


 耳の奥では小鬼(ゴブリン)達の下卑た笑い声がまだ反響している。


 行為自体は未然に防がれたものの、あの時、私は自分を諦めたのだ。

 自分は汚れた、汚されたと、心の底から黒いものが広って塗りつぶしていく。

 

 俯いて震えていると、足音が近づいてきて扉をノックする音が聞こえた。


「ルリエーンさん? 湯加減どうですか? 夕食なんですけどエルフ的に口に出来ないものって何かあります?」


 ユウの声に答えられない。

 上手く声が出せない。

 ただ、小さく嗚咽するような声が出ただけだ。


「ルリエーンさん!? 開けますよ?」


 返事がない事に狼狽したのか、心配した様子のユウが扉を開けて入ってきた。


「大丈夫ですか?」


 心底心配そうな声に安心して、ただ、頷く。

 人族の、こんな若い子に心配されるほど柔な年のとり方はしていないはずだった。


「……!」


 そっと、頭に触れるものがあった。

 同じ目線にまでしゃがんだユウの手が、私の頭を優しく撫でている。


「無理ないですよ。今日は大変でしたし」

「ごめ、私……こんな」


 しゃくりあげ、視線を上げると、洞窟で見たときとは違う、黒い瞳と目が合った。

 あの猛るように輝く金色の双眸とは違う。

 引き込まれるような深い優しさを感じた。


蛇竜(ワーム)の時に助けてもらいましたからね。お互い様です。お風呂、一人ではいれます?」

「無理って言ったら、一緒に入ってくれる?」


 軽口を返す。

 不思議なもので、頭を撫でられているだけで心がずいぶん落ち着いた。

 もう少し、この少年に撫でられていたい。


「嬉しいお誘いですが遠慮しておきますよ。こう見えて僕……傷心中なんです。食事を用意してるのでゆっくり入ってくださいね」


 ユウは寂しそうに薄く笑うと、私の頭にぽんぽんと軽く触れて立ち上がった。

 年上のエルフの頭を気軽に触れるなんて、常識のない子。

 そんなことを考えていると、くるりとユウが振り返った。


「あ、それで食べれられないものってあります?」

「生魚と蟹以外ならなんでも」


 私の答えにユウは「了解です」と小さくうなずき、軽く手を振って扉に消えた。


 適温に暖められた湯船に浸かりながらルリエーンは思い出す。

 自分の頭に触れる、ユウの手の感触を。

 そして、ふと心に引っかかるものに、意識を向ける。

 さっき、そして今、自分がユウに対して抱いた浮ついた気持ちはなんなのか、と。


 そして浴場を出る頃には、ある結論にたどり着いた。

 二百数年生きてきて、このはじめての感情の正体が何なのかということに。

 

 おそらく、これが噂に聞く『恋』というやつなのだろう、と。


いかがでしたでしょうか('ω')

ぼちぼち書籍化作業に取り掛かっております……


あ、スーブラ伝ではないです。

バババの方です……

えっちな書下ろしを書いています……

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