第54話
夕方の更新です('ω')b
あの人が出てきますよ!
鬱蒼とした森の中を小鬼の気配を手がかりに進むと、巨木のうろに大きな穴が開いているのを見つけた。
小鬼のものらしい小さな足跡は、その中に続いている。
見張りはいない。
僕は気配を殺して、注意深く中に足を踏み入れた。
中はかなり暗いものの、竜人になじんだ僕の体は闇の中でも良好な視力を保たせた。
奥からは「ゲッゲッゲ」とカエルの声を1オクターブ低くしたような不快な声と絶叫に近い女性の声が聞こえる。
……あまり時間はなさそうだ。
洞穴内部はいくつかの道に分かれていたが、僕はまっすぐに声のする方向へ向かった。
一番奥の部屋で僕が見たものは、早速生殖を始める準備に取り掛かった十数匹の小鬼達だった。
大きな葉を数枚敷いただけの寝所には、手足を縛られたエルフの少女が、服を毟り取られた状態で転がされていた。
細く白い肢体、銀髪に近い金色の絹のような髪、とがった耳。
その美しいエルフの少女のあられもない姿の周りでは、小鬼達が不快な笑い声を上げながら各々の欲望を満たさんとしていた。
エルフの声は徐々に諦めと呻きを含んだ泣き声に変わり始めている。
ふと、ヤールンのことが脳裏に浮かびあがった。
初めて会ったあの日、手篭めにされそうになって怖かったと。
状況は違う。
……が、無性に頭にきてしまった。
あの日、逃げ遅れたヤールンの姿が想像できてしまったからだ。
僕の存在に気づいた小鬼たちが騒ぎ始める。
やることはたった一つだ。
一足に踏み込んで、小鬼たちを挽いて撒き散らす。
周囲にいる小鬼を手当たり次第に蹂躙して、殲滅していく。
洞窟中から薄汚い悲鳴が上がり、断末魔の絶叫がしばらく絶えなかった。
ミリィに教えられた通り、僕は一切の情けをかけなかった。
部屋という部屋を業火で埋め尽くし、あるいは致死性の疫病を投げ込み、いくつかの呪いを放ってことごとくその命を絶っていった。
「よし、終わりだな」
洞窟の中で動くものが、僕とエルフの少女だけになったところで、少女を連れて洞穴を後にする。少女は抵抗することなく、成すがままに僕に抱えられていた。
煙の上がる洞穴から出た僕は、厚手のマントを一枚鞄から取り出してエルフに羽織らせる。
傷は……少し。
命にかかわるものはなさそうだが、擦過傷と打撲跡が多い。
化膿するといけないので、治癒の魔法薬を取り出して傷に噴霧していく。
この霧吹きにポーションを入れるというのは、僕のアイデアだ。
現実世界にあった消毒液を噴霧する救急キットを真似しただけなんだけど。
「大丈夫ですか?」
震える少女の背中をさすりながら、問いかける。
声は発さないものの、問いかけにエルフはコクリとうなずいて、僕を見上げる。
そして、僕は助けたエルフの顔に見覚えがあることに気づいた。
「あれ、ルリエーンさん? でしたっけ」
「あ、あの時の……」
どうやらエルフも気がついたようだ。
僕が硬鱗の蛇竜を討伐した際に、介抱してくれた斥候。
その後のネルキド市では一度も出会わなかったので、あれ以来の再会となる。
「無事でよかった」
見知った顔で安心したのか、ルリエーンも安堵の表情を見せる。
実のところ、助け出されても助け出した者達によって陵辱を受けるパターンもあるのだ。
小鬼たちは他種族の女を攫った場合、すぐに生殖行動を起こすので救出に向かった先で発見される女性は事後であることが多い。
その異様な光景に触発されて、助けた女性に我慢が利かなくなる……なんて事がままあるらしい。
これは邪神の呪いの一種だと言われているが、我慢が利かなかった男たちの言い訳じゃないかと僕は疑っている。
「馬車に戻りましょう……と、その格好はまずいですね」
僕はネルキドで買いだめておいた服を一式、するすると鞄から取り出し、ルリエーンに渡す。
「男物で少し大きいですけど、馬車まで我慢してください」
「ありがとう。助かるわ」
衣擦れがなっている間、僕は後ろを向いていた。
そう、僕は紳士なのだ。
決して着替えを覗く様な紳士ではない。
「もういいわよ」
振り向くと、僕の服に身を包んだルリエーンが、やや上気した顔で立っていた。
(大きな服を着てる女の子っていうのは、なかなか庇護欲をそそるものなんだなぁ)
……などという、やくたいもない感想を僕は飲み込んだ。
「では、行きましょうか。」
「少し、待ってくれる? 足を挫いてしまったみたい」
強めの治癒の魔法薬で治療してもいいが、一刻も早く馬車に戻って、無事を知らせたほうがいい。
そう判断した僕は「失礼します」と一言断って、ルリエーンを抱き上げた。
軽いな。
「ちょっと……」
突然のお姫様抱っこに驚いたルリエーンが抗議の声をあげるが、聞こえないふりをして森を駆ける。
森での動きにも、この一ヶ月でそれなりに慣れた。
ひょいひょいと木の根やら枝を避けながら、馬車のある場所までひた走る。
すぐに馬車があった位置に正確に森をぬけたが、馬車の姿はそこにはなかった。
「あれ?」
馬車がなくなっていることに、僕はすこし焦った。
「あれを見て」
きょろきょろとする僕の腕の中から、ルリエーンはすぐに近くの木にピンで刺してあった紙片を指さす。
近づくと、レムシータの文字でなにやら綴られている。
「えーと……」
紙片を一瞥したルリエーンは安堵とも、ため息ともつかない吐息を吐き出し、僕に向き直った。
「時間的に危ない時間だから先に出発したみたい。護衛も減っちゃったしね」
「そうですか、思いのほか薄情なものなんですね」
「普通よ。商人が荷物と安全を優先するのは当たり前でしょ?」
「それよりも」
とルリエーンが切り出した。
「自分たちのこと、考えないと。私のこの足じゃこの先の野営地点までいけない。あなたなら今から急げば間に合うだろうけど……」
もうすでに日が傾き始めている。
まだこの時期は日が落ちるのが早いので、しばらくすれば完全に真っ暗闇だ。
「その……できれば一人にして欲しくないんだけど……」
「僕が抱えていくか、ここで野営のどちらかですね」
助けてもらったこともあるルリエーンを放り出して、自分だけ安全な野営地に行く選択はない。
「どうしよう……夜は街道でも危険だし、あなたを危険に巻き込んじゃうわ」
「ヒミツの魔法道具を黙っていてくれるなら、安全安心な睡眠をお約束しますよ」
僕は【安息の我が家】を巨木の陰に発現させる。
ルリエーンの怪我を治療するためにも、安全に朝を迎えるためにも、これがおそらく最善手だ。
「……これ魔法道具なの?」
「そうなんですよ。他の人には秘密ですよ?」
僕は再度、ルリエーンを抱えなおして(抱えられた本人はあわあわ言っていたが)ドアに入った。
と、いうことでエルフのルリエーンが再登場です('ω')
大変エルフエルフしたちょいロリエルフなのです!