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第48話

夕方の更新です('ω')

待望の温泉回をどうぞ。

 『踊るアヒル亭』の地下温泉は、ある著名なドワーフ建築家が長逗留する自分のために設計した本格仕様である。


 脱衣所の板間から腐食防止の魔法を施した竹製の扉をくぐれば、水はけのいい石造りの洗い場と、温泉風に岩を配置して作られた大きな浴槽があり、その先には地熱を利用したサウナまで備わっている。


 おおっぴらには宣伝していない。

 しかし、『踊るアヒル亭』の地下浴場『アヒル温泉』は、知る人ぞ知るスポットなのである。


 僕を放り込む前に中の様子を伺ったヤールンが、思わず「ほぉー……」と感嘆の声を漏らすほどに地下温泉は凝った造りになっていた。


「これはすごく(えらい)本格的やな。ドワーフ王国の風呂屋でもこんなええ風呂は少ないで」


 そう、ドワーフはああ見えてみな温泉好きなのだ。

 ドワーフ王国では、ほとんどの家が浴室を備えているらしい。


「こりゃすごいなぁ……」


 やや息を吹き返した僕もヤールンの後ろから中を覗き込み、驚いた。

 まさかここまで本格的とは思いもよらなかった。


「これはアタシもそのうち頼み込んで入れてもらおう。一時間青貨一枚の価値ありやで」

「ですねぇ……」

「ほな、アタシ部屋戻ってるからな、のぼせんよーに気ぃつけや」


 ヤールンが手を振って帰ろうとした直後、僕はまたしてもふらつく。


「あぶな」


 ヤールンが支えて事なきを得たが、これはなかなかに危ない。


「なぁ、やめといたらどうや? ちょっと危ないんちゃうか」

「ちょっと休めばよくなると思うんですけど。それに僕、大量の返り血を浴びちゃったんで結構臭うと思うんですよ」


 全身からなんともいえない生臭い臭いがする。

 聞く話によると蛇竜の血はたいそう臭いらしいのでそのせいだろう。

 一晩この臭いを撒き散らしていては、同室のヤールンはおろか、掃除にくるミッサ達にも迷惑が掛かってしまう。


「もう、しゃーないなぁ」


 ヤールンは小さくため息をついて、僕の服に手をかける。


「ちょッ……!」


 ヤールンは手早く僕の服を、それこそ下着にいたるまでことごとく引き剥がした。

 さすがに局部にはすぐに手ぬぐいで隠したが。


「はいはい、ちょっと待ってやー」


 背後で衣擦れの音がする。


「ほないこか」


 僕の肩を支えたヤールンはバスタオル一枚の実に官能的な格好となっていた。

 ふらつく僕を肩で支えながら浴場へ。


「まずは体流してしまおうか」


 ヤールンは僕を洗い場の備え付けの椅子にちょこんと座らせ、たらいに温泉を汲んで頭から容赦なくかけた。温かくて気持ちいい。


「お、石鹸まであるやん。ちょっと目ぇ閉じてじっとしときやー」


 ちょんと少し出た突起に乗っていた石鹸を発見したヤールンは、手にとって泡立てて、僕を頭からわしゃわしゃと洗う。


 ふらつく僕はなされるがままだ。

 時々、豊かな胸が背中にあたったりしてちょっと役得──などと邪なことを考えるのはよそう。


「弟と風呂一緒に入ったんを思い出すわ」

「弟さんがいるんですね」

「もう今はおらんけどな。ド=エルグさんの元へ修行に出てしもた」


 背後で顔は見えないが、寂しそうな気配が漂う。


「にーさんは、ようよう気ぃつけて生きるんやで」

「はい」


 ヤールンに体を洗われながら、僕は頷く。


「それでですね、あの、ヤールンさん……」

「さんはいらへんよ。太陽かっちゅーねん」

「あの、ヤールンムー……」

「そのネタはもうええから」


 ズビシッと脳天にチョップが入る。

 きついツッコミである。

 半分関西人の僕としてはボケがいがあるけど。


「かゆいとこないか」

「ないです」


 手拭いで僕の身体をごしごしと洗うヤールン。

 全身血まみれで、ところどころ固まっているので洗うのも大変だろう。

 どんどん洗い進めていたヤールンだが、僕の腹部に差し掛かったあたりで、手が止まった。


「……!」

「あ、あの。もう、大丈夫です。自分でできますから」

「ええい、ままよ」

「ヤールンさん、待って」

「『さん』はいらへん!」


 一応抵抗はしたが、ヘタに動くと倒れそうなので結局は任せるがままになってしまった。

 つまり、僕の完全敗北である。

 この戦場での敗北は、伏見的にはノーカンとして欲しい。


 再びヤールンによって頭からお湯をかけられる。

 僕はさっぱりした表情で一息ついた。


「ありがとうございます」


 振り向くと、温泉よりも湯気を噴出していそうな、真っ赤な顔をしたヤールンが立っていた。タオルが水気を吸って体のラインが露わになっている。

 さっと目をそらし、僕は少し気まずい気持ちで湯船に移動することにした。


「ほほほ、ほな、アタシ、部屋戻ってるさかい、ゆっくりしーや」


 ここまできて恥ずかしさが爆発したのか、ややドモりながらヤールンは背を向けて浴場を出て行こうとする。


「折角だから一緒に入っていきませんか?」


 気が付くと、自分でも信じられないことを口走っていた。

 なんだか、もう少しこの時間をヤールンと共有したくなったのだ。


「はぇ? ななな、何いうとんねん」

「でも、さっき入りたいって言ってませんでした?」

「せやかて、にーさん」

「僕と入るのは嫌なんですね?」


 やけっぱちになった僕は、やや意地悪を織り交ぜた。

 部屋の件の同じことをヤールンが言ったので意趣返しだ。


「そんなわけないやん!」

「じゃあこっち来て、一緒に入りましょう?」


 僕の手招きに、ヤールンはしばらく固まった後、そろそろと湯船に移動してきた。

 広い湯船の端、僕から一番離れた場所に難しい顔をして腰を下ろす。


「ヤールンさん、なんでそんなに離れてるの」

「恥ずいからにきまっとるやろ」

「なんだか僕はもう慣れちゃいました……」


 僕はスーっと風呂の中を移動し、ヤールンに近寄る。

 ヤールンは顔を真っ赤にして身をこわばらせたが、逃げることはしなかった。


「ちょっと僕の話をきいてくれますか?」

「なんや?」


「僕は今日、冒険者になりました」

「せやな」


 ヤールンが小さくうなずく。


「試験官をしてくれたゲラートさん達は、僕を認めて推薦までしてくれました」

「にーさんの実力がすごかったからな」

「でも、今まで僕は認められるなんてこと、殆どなかったんですよ」

「にーさんくらい強かったらそんなことないんちゃう?」

「いいえ、僕の強さは本当の強さではありません。でも、それでも……僕は今、感謝しています」

「アタシも感謝してるし、認めてるで」


 ヤールンの言葉に、目頭が熱くなる。


「そういってもらえて、本当に嬉しい」


 「一人には慣れてる」なんて言って周囲に壁をつくっておきながら、人に認められて嬉しいと認めてしまった。


 一人で走れば、「先走るな」と言ってくれる人がいる。

 困り顔をすれば「仕方ないわね」と助けてくれる人がいる。

 ミッサも、マーサも自分を心配してくれた。

 ヤールンもこうして傍に寄り添ってくれる。

 

 いつの間にか僕の目からは、涙が溢れ出してしまっていた。

 

「大丈夫や、にーさん。すぐ(じき)にみんながにーさんを認めるようになる。にーさんは強くて、優しいからな」


 泣きべそをかく僕をヤールンはやさしく抱き寄せた。


「ほら、泣かへん泣かへん。アタシがおるやん。ミリィ姉さんもおるし、女将さんだって、小さなマーサだって、みんなにーさんの味方や」


 ヤールンは自分よりも背の大きな僕の頭を、ずっとやさしく撫で続ける。

 僕は少しすっきりして、徐々に落ち着いた。


「……ああ、すごく恥ずかしいです」

「気ぃ張りすぎたんやろ。気にせんでええよ」


 やわらかな感触に包まれながら、僕は人の優しさと温もりとを心に取り戻したような気がした。

いかがでしたでしょうか('ω')

はい、えっち回と見せかけたややシリアス&砂糖回でした!


旧版ではちょっとヤバ目に絡んでたんですけど警告怖いので全編カット!

泡ドワーフなどいなかった、いいね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 温泉回 へたれ
[一言] (審議中)(審議中)(審議中) →文句無しでセーフ!でも赤面ヤールンさんかわいい(かわいい) アナ「同じ評価貰った気がするが、からかっとるのかの?」 私「イエソンナコトアリマセンヨ?」
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