第47話
日曜日ですが、今日も頑張って三話更新です('ω')b
ギクリとした様子で固まるドワーフの少女。
目がカッチリと合ってしまい、徐々に赤くなっていくヤールンを尻目に僕はそっと扉を閉めた。
「どうしたの?」
そんな僕を、温泉の鍵とたらいを届けにきたマーサが不思議そうに見上げる。
「いや、うん、どうってことはないんだ」
「そう? あ、もしかして早く持って来すぎちゃったかなぁ?」
「まだ治療もしないといけないし、どうしようかな」
小さなマーサは「んー」と少し考え、
「じゃあ説明だけして鍵を預けておくね。お部屋に入ってもいい?」
「ノックしてからね……」
扉をノックし、ヤールンの返事があってから扉を開けた。
ヤールンはやや恨みがましい顔をこちらに向けたものの、僕の状態を見て半ばパニックを起こしたように駆け寄ってきた。
「どうしたん!? えらい傷作って! 大丈夫なんか? 死ぬんか?」
「死にませんよ……ご覧の通りの有様ですけどね。ちょっと貧血気味なだけで無事です」
「血は止まってるんか? 治癒魔道士呼んでこんでも大丈夫か?」
アワアワとした様子で、ヤールンがぺたぺたと僕の体を触る。
ちょっと気恥ずかしい。
だが、その仕草がなんだか可愛らしくて少しほっとした。
「手持ちの治癒の魔法薬があるから大丈夫だよ」
「えーと、お兄ちゃん?」
「おっと、ごめんよマーサ」
マーサはえへん、と咳払いして浴場の説明を始める。
料金は1時間青貨1枚、あらかじめ利用時間を宿屋に承諾をもらって前払い。
時間超過は1時間につき緑貨2枚。
タオルは備え付けのものがあるので利用可能。
使用したタオルは篭に入れて、退出の際にカウンターに返却。
同様に使用後は鍵をカウンターに返却。
「……っです」
一息に説明し終えるマーサ。
ずいぶん練習したのだろう。
「わかった。じゃあ……今から二時間借りようかな?」
「毎度ありーってほんとはここで料金をもらうんだけど、お母さんが料金はいいって言ってたから、鍵だけ渡しておくね。場所は二階の一番奥、えーと、この部屋の反対方向の奥のところの階段だよ」
「ありがとう」
頭を撫でてから鍵を受け取ると、マーサは笑顔でぺこっと頭を下げてパタパタとした足音とともに部屋から出て行った。
大変愛らしい。
しかも働き者だ。
今度、また飴をあげよう。
いくらでも湧いてくるからな、あの飴。
「さて、と。お風呂の前に傷をふさがないと」
気を取り直して、僕は机の上にいくつかの治癒の魔法薬やら軟膏やらを鞄から出して並べていく。
横で物珍しそうに眺めていたヤールンが、その内一つ、の青く透き通った液体の瓶をつまみ上げた。
「これ、昨日の治癒の魔法薬やろ?」
「ええ、それも治癒の魔法薬です」
「他にもあるのん?」
「飲むやつとか、貼るやつとか、吹きかけるヤツとか色々ですけどね。飲むやつがどれだったか思い出してるんですよ……」
どれもこれも似たような瓶ばかりで、どれが飲用の治癒の魔法薬であったか、ボーっとした頭では上手く思い出せないのだ。
「これで、ええがな」
ヤールンが件の治癒の魔法薬を手ぬぐいに、ぐいっと染み込ませる。
「や、それ、すごく痛いんですよ……」
ヤールンがにたりと笑う。
後ろに下がろうとするが、逃げ場などない。
「まさか、女のアタシに我慢させといて自分は嫌やとは……いわへんよな?」
「……ッ」
治癒の魔法薬の染み込んだ手ぬぐいが、まだ熱と痛みを持つ腹部にグイっと押し当てられる。
思わず痛みに膝を突くがなんとか大声を出すことだけは回避した。
傷の深さに応じて増す治癒痛は、まさに激痛。
「……ッ!? ……ッ! ……ッ!!」
「お、我慢してるな。さすが男の子やで」
丁度いい高さになった僕の頭を、ヤールンが抱える。
柔らかく、肉感のある抱擁が心を紛らわせるが、やはり痛いものは痛い。
どれほどの時間、我慢していたかさっぱり見当もつかないが、ようやく痛みがひいた。
腹部はすっきりと元通りになり、傷一つ残っていない。
しかし、僕はもう息も絶え絶えだ。
傷は治ったものの、戻ってきたときよりもずっとグロッキーな状態で、もう指一本動かすのすら億劫だ。
「にーさん、風呂いくんちゃうかったんか?」
「そうだ、温泉に……温泉にいくんだ」
這うようにして扉に向かう。
「にーさん、大丈夫かいな……」
「僕は……這ってでも風呂に行くぞッ!」
「その風呂に向ける情熱はなんなん……」
ヤールンはあきれながらも僕の体を支える。
「ほら、風呂まで連れてったるからシャンとしなはれ」
ふらふらの僕は、ヤールンに半ば抱えられながら地下の浴場へむかった。
いかがでしたでしょうか……('ω')
次回は温泉回です。
湯気と謎の光にご期待ください。