第46話
本日ラストの更新です('ω')!
『踊るアヒル亭』になんとか辿り着いたころには、もうすっかり昼食の時間ではなくなってしまっていた。
中途半端な時間のためか、店の扉には「準備中」の札がかかり、店内に客は一人もいない。
入口をくぐると、掃除をしていた小さなマーサが僕に気付き、駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! ……ってひどい格好だよ? そしてくちゃい」
確かに、転がされた影響で土埃にまみれているし、なにより硬鱗の蛇竜の返り血で全身どろどろだ。
加えて、一撃もらった腹部は大きく服が裂けて、生々しい傷が露出している。
しまった、あまり小さな子供に見せる恰好ではない。
「いろいろ無茶……しちゃったからね。マーサはお手伝い? 忙しいところ悪いんだけど、泥を落とすためのお湯をもらってもいいかな?」
「うん! ちょっと待ってて、お母さん呼んでくるね」
パタパタと走り去っていくマーサを見送って、僕は壁に寄り掛かる。
容赦なく襲い来る疲労と空腹、そして貧血。
何とか耐えようとあがくが、意識が徐々に朦朧としていくのが自分でもわかる。
(なにか食べないと……血が全然足りない)
しばらくすると、奥からマーサに連れられたミッサが、お湯と大量の手ぬぐいを持って走ってきた。
僕の状態を見て、ミッサは盛大な溜息をつく。
「あれまぁ、どろどろにしちゃって……それに大きな傷! 大丈夫かい?」
傷に驚いた顔のミッサが、僕の体に手ぬぐいをグイグイと押し付ける。
……痛い。
「いやぁ……流石に硬鱗の蛇竜に一人はなかなか無茶だったと思います」
「ええ!? あんた! ウチの亭主でもそんな無茶しないよ!」
マーサと二人がかりで僕の汚れを丁寧にふき取っていくミッサ。
床には泥と血で汚れたタオルが積み上がっていく。
「こんなもんかね。そら、部屋に戻って着替えちまいなよ。ちょっと臭うから風呂に入れてやりたいけど、その傷じゃあ入らないほうがいいね」
「……!?」
風呂?
風呂があるのか!?
朦朧としていたとしていた意識が、『風呂』というワードに反応してはっきりする。
「風呂があるんですか?」
「あるよ。別料金だけどね。昔よくウチに来てた上客のドワーフたちが温泉好きなもんでね、特別に頼んで地下から温泉を引っ張ってもらったのさ」
「ぜひ……ぜひ、入りたいです」
日本人として、温泉といわれれば入らざるを得ない。
しかもドワーフが作った本場の温泉!
ぜひとも、入ってみたい。
そもそも、当初からどうやって風呂に入ろうか苦慮していたのだ。
こうも人目が多いと【安息の我が家】を使うわけにもいかないし。
「でもあんた、その傷で風呂はねぇ」
僕の機体とは裏腹に、ミッサは困り顔だ。
「治癒の魔法薬を持っているので大丈夫ですよ。傷自体はすぐに塞げます」
「わかったわかった。もう、変わった子だね!」
僕の必死さ加減が伝わったのか、ミッサは苦笑しつつもマーサに指示する。
「じゃあ準備ができたら部屋に知らせに行くから、部屋で待ってな。ドワーフの嬢ちゃんはもう帰ってるよ」
「あ、はい。お願いします」
返事を返し、僕はフラフラした足取りで二階に上がり、部屋に向かう。
今日は流石に無理をしすぎた。
相手は亜竜だったし、一人で挑むには少々問題があったかもしれない。
しかし、他の……例えばバッソやミリィがあの硬鱗の蛇竜に対峙すれば、もっと深刻な事態になっていたかもしれない。
結果的に被害を減らすことが出来たはずだ。
あれほどの強さだ。
通常通りにバッソ達が部隊で対応すれば、少なからず被害が出ていた可能性が高い。
ややもすれば、死人が出てもおかしくない強さだった。
僕に加えられた尾の一振り。
あれだって、人の命を奪うに十分な威力を持っていた。
むしろアレをもらったのが、僕でよかったとすら思える。
──「あんまり先走りすぎるなよ」
バッソの言葉が心で反響する。
黒竜王はともかく、元の世界にいた時からずっと一人でやってきたのだ。
他の誰かの手を借りるということが、僕にはよくわからない。
ダメだ。
血が足りなさ過ぎて、考えがうまくまとまらない。
こういうのは、あとで時間をかけてゆっくり考えよう。
そう思って、部屋の扉をあけた僕の目に映ったのは、買ったばかりのジャケットを羽織って鏡の前で小躍りするヤールンだった。
この先、以前警告を受けることとなったと思しきシーンとなりますので、丁寧に……気を付けて描写します。
「えっちなのはいけないと思います」を合言葉に、そこそこに頑張ります('ω')b




