第45話
夕方の更新です('ω')!
今回はちょっぴり派手。
左手首から溢れる血が周囲に円環となって浮かび、そこから次々と赤黒い槍が産生されていく。
その異様な光景に、蛇竜もやや警戒した様子で動きを止める。
しかし、その逡巡は、蛇竜にとって命取りだった。
「| Vita, minabatur《命を脅かす》──|Hastam sanguinis《血の槍》」
自傷魔術を以てしても詠唱破棄しきれない、短い詠唱を紡ぎ……僕は十数本の血槍を上空に解き放つ。
それらは上空で二本に分裂し、それらはまたさらに各々分裂し、その数をどんどん増やしていく。
「──<偽りの天魔槍>!」
上空で無数ともいえる数となった血槍が、雨の如く降り注ぎ、蛇竜を串刺しにし、地面に縫い留めていく。
苦悶の表情でのたうつ蛇竜……その正面に、僕は立つ。
「──“耐えてみせよ”」
武技誓句の最初の句を紡ぐ。
スイッチが入るように、僕の身体が一段階アガったのがわかる。
自己暗示のようなもの……などと、伏見の男は言っていたがとんでもない。
単純に、こうなるまで徹底的に鍛えられたのだ。
もはや、条件反射に近い。
「“我、全ての戦場で活き、全ての戦場で殺し、全ての戦場で勝つモノ也”」
自分と自分を取り巻くものすべてを加速して練り上げ、回転させ、螺旋させていく。
「──伏見流交殺法殺撃……『喰命拳』ッ!」
殺意を以て、渾身の殺撃を放つ。
血槍に縫い留められ、満足に動くこともできない蛇竜は、それをまともに受けることになった。
インパクトと同時に蛇竜の頭部は粉々に砕け、森を赤く染める。
縫い留められた体は、しばらく動いていたが、やがてのたうつのをやめた。
「あー……痛い」
座り込み、木にもたれ掛かる。
腹部にうけた傷の血は止まったようだが、いまだズキズキと痛むし、『血陣魔法』でも大量に血を使ってしまった。
頭がくらくらする。
いくら伝説の【再生させる紅玉】とはいえ、歩けるほどに回復するまで、まで少し時間がかかりそうだ。
カッとしてあんな大掛かりな魔法使うんじゃなかった……と、思わず僕は自嘲する。
<偽りの天魔槍>は、黒竜王の秘蔵する対軍制圧兵器の古代遺物、【天魔槍】を自傷魔術と『血陣魔法』でなんとかコピーできないかと、研鑽に研鑽を重ねた結果編み出された、僕のオリジナルの魔法である。
規模は随分小さくなったものの、効果は思った通りいい感じだ。
実戦投入は今回がはじめてだが。
しかし……油断していたわけでもないのに、なかなかいいのをもらってしまった。
僕もまだまだだ。
戦闘訓練というと、ほぼ人型相手だったしなぁ。
今後は魔物との戦闘も増えるだろうし、しっかりと鍛錬しないと。
そんな考え事をしていると、背後でガサガサ、と物音がした。
血の匂いに釣られて、他の魔獣が集まってきたのだろうか。
多少無理してでも、とっとと退散しなくては、と僕は立ち上がる。
直後にひどい立ちくらみ。
「おっと」
それを支えてくれたのは、茂みから現れた華奢なエルフの少女だった。
迷彩色のような深い緑と茶色の装備で固めており、背中には弩弓を背負っている。
「大丈夫? 安心して、賊じゃないわよ。私は『警戒者』の依頼を受けているルリエーン。よろしくね」
「あ、お疲れ様です」
妙な受け答えをしつつ、僕は体勢を立て直す。
「ごめんね、援護できなくて。まさか単独で『硬鱗の蛇竜』を討伐するとは思ってもみなかったわ」
「いや、迂闊に近寄って僕の魔法に巻き込まれなくて良かったです」
「あれ……古代魔法? ハイエルフにだってあんな魔法を使う人いないわよ」
「まぁ、そんなとこです」
話してる間に、体が楽になってきた。
すこし、体力が戻ってきたようだ。
「おーい、ユウ。無事か」
こちらを発見したバッソら数人が駆け寄ってくる。
「……ってなんだこりゃ!」
「ええと、なんでしたっけ。『硬鱗の蛇竜』?」
駆けつけたバッソ達の前には、スプラッタな状態になったそれが横たわっている。
「殺ったのか?」
「ええ」
「一人で?」
「ええ」
「怪我したのか?」
「ちょっとした貧血です。あ、もしかして頭吹き飛ばしたらまずかったですかね? 素材とか。下顎部分はちょっと残ってますけど」
『硬鱗の蛇竜』には目もくれず、僕の惨状を見てバッソが顔をしかめる。
「ユウ、お前がべらぼうに強いのは知ってるが、あんまり先走りすぎるなよ」
「いやあ……すいません」
頭をかいて苦笑するしかなかった。
バッソはため息をつきながら、いつものように「あーもう何だってんだ」と天を仰いだ。
「とりあえず解体屋を呼んで回収しちまおう。冒険者になったんだろ? なら、こいつはお前に取得権利がある」
「なら私が。解体屋は『鬼灯兵団』に知らせれば?」
ルリエーンが小さく手を上げる。
「ああ、ついでに猫族の副長に出撃は必要ないって伝えてくれ」
そういってバッソは青貨を一枚ルリエーンに投げ渡す。
それを受け取ったルリエーンは僕にウィンクを一つして、森をすごい速さで駆け抜けていった。
さすがエルフだ。
「さて、俺らはこれを処理しておくから、ユウは先に戻っておくといい。宿に戻るか?」
「そうさせてもらいます。昼食、まだなんですよ」
ずいぶん傾いた太陽を見上げながら、僕はネルキド市への道を今度は歩いて戻った。
いかがでしたでしょうか('ω')
この回で、「おろ?」と思える人は立派なうなぎフリークです。
ぬるぬるしていいですよ。
ぬるぬるできてない人は感想・評価・ブクマをした上でレムシータ・ブレイブス・オンラインの2巻を読んで下さい。
そして一緒にぬるぬるしましょう!