第44話
土曜日でもうなぎは頑張って三話更新です('ω')b
市場通りは町の中央部に近く、住民は慣れているのか特にパニックも起こらなかった為、人混みをすり抜けて駆けていくのは容易だった。
先行する僕と同じルートを追従してくるミリィをチラチラと見ながら、ものの数分で、僕たちは『鬼灯兵団』の駐留する商館に到着することができた。
肩で息をするミリィが大きく息を吐きだす。
「私が追いかけるので精いっぱいなんて……! ユウ、あなたホントに魔法使いなの? ちょっと速過ぎよ」
「ミリィ、男に早いは禁句だぞ」
ふと見ると、フル装備のバッソが十数人の部隊を率いて商館から出てくるところだった。
「大隊長、状況は?」
「大型の蛇竜らしいが詳細はわからん。南方面から大型の魔獣がこちらに向かってきているのを『警戒者』が遠目に確認したらしい」
蛇竜──竜族に分類されているが、獣とそう変わらない低位の存在。
黒竜王によると、厳密には竜族ではなく、竜種に近いだけの魔物の一種であるらしい。
つまりは、対話不能の単純な脅威だ。
街のそばで大規模な戦闘になれば、防壁に被害が出る可能性が高い。
それを防ぐため、バッソは郊外で足止めする部隊を編成し、先行して率いていくらしい。
「ミリィ、ここを任せる。百人程度あつめて討伐隊を編成しろ。その間、俺達は足止めをする」
「わかりました。人選はこちらで行います、ユウは……」
ミリィがチラリと僕を見る。
先行で足止めか、後続の討伐部隊か悩ましいといった風だ。
「僕は先行させてもらいます。バッソさん、ちょっと商館の屋根を借りますよ」
商館は三階建てで、この街ではかなり背が高い建物だ。
大きさも十分で屋根には、平たい部分があるのでこれからとる行動の目的にピッタリだ。
「お……おい、何する気だ」
僕は鞄から【伸縮する麻縄】を取り出して、屋上の風見鶏に投げて巻き付ける。
「先行して、足止めします。できるだけ町から遠い方がいいんですよね?」
「あ、ああ……だがどうする気だ?」
怪訝な顔をするバッソをよそに、ロープの伸縮を利用してするすると屋根に登る。
屋根によじ登った僕は、【羽ばたき翼機】を【隠された金庫室】から引っ張り出し、素早く装着する。
この間、わずか一分。
「おい、それ……【羽ばたき翼機】じゃねぇかよ? 一体どうする気だ」
「だから、先行して魔獣を足止めしてきます」
その場にいる全員が「そうじゃない」と心の中でツッコミを入れたが、あいにく読心術を使えない僕には届かなかった。
「おい、待て、それは空を飛ぶための道具じゃ……」
バッソが何か言ってるようだが、時間が惜しい。
自傷魔術で赤魔法<筋肉の滾り>を詠唱破棄し、クラウチングスタートの態勢をとる。
「よっし……!」
気合を入れて、屋根の端から端まで全力疾走して、弾丸のように南方向に向かって僕は跳躍した。
最高高度に達した僕は、落下がはじまる前に【羽ばたき翼機】の翼を展開する。
バッソ達があんぐりと口をあけて見上げる中、僕は【羽ばたき翼機】を操作して、南方向へと頭を向けた。
なかなかのスピードが出ている。これなら、街に近づく前に接敵できるだろう。
「おいおい……ありえねぇありえねぇとは思っていたが、やっぱりありえなかった」
バッソが下で天を仰いでいる。
いやいや、何事も工夫とチャレンジだろう?
「お……遅れるわけにはいかん。総員、移動開始。南門前で集合だ! いそげよ!」
バッソの号令で正気を取り戻した『鬼灯兵団』の構成メンバーがバタバタと南門へ走っていくのを遠くに見ながら、僕は上空から索敵を始める。
「いた……!」
ネルキドに向かって森の中を動く巨大な影を見つける。
体長三十メートルはあろうかという、巨大な蛇にみえるそれが小さな土煙をあげながら街に向かって進んでいた。
背中の部分には節くれだった背びれのようなものが尾の先まで生えていて、頭部は蛇というよりワニに似ている。
それが森を掻き分け、うねり、なぎ倒しながらネルキド市へと向かっていた。
(これが蛇竜か)
その大きさにいささか驚きながらも、その進行方向にするりと降り立つ。
素早く【羽ばたき翼機】をはずして、【隠された金庫室】仕舞いこんだ僕は、蛇竜が来るのをその場で待ち受けた。
目的が足止めである以上、隠れることはできない。
ちょっと……いや、かなり怖いがここは正面を切っての遭遇が必要だ。
しばらくすると、地響きに似た擦過音とともに、巨大な頭部が僕の目の前に姿を現した。
鎌首をもたげ、目の前の小さな影を睥睨する様子は竜族そのものの迫力がある。
竜の姿のアナハイムよりも、もっと原始的で野性味のある気配。
「この先は街があるので、このまま引き返してくれませんかね?」
物は試しと、蛇竜にできるだけ朗らかにお願いしてみた。
曲がりなりにも竜の名を冠する者であれば、もしかすると言葉が通じるかも、という一抹の期待を持って。
だが、蛇竜の素早い噛み付き攻撃によって、交渉の決裂が即座に告げられた。
大きいわりに動きが早い。
「くっ」
予想以上だ。
少し焦ってそれをバックステップで回避したが、その直後、丸太のような尾が僕を横薙ぎに打ち払った。
尾には鋭いトゲが生えており、その内の一本が僕の腹を大きく抉った。
ただのでかいヘビではない。
さすが、竜族と誤認されるだけのことはある。
そう僕に思わせるには、十分な強さだ。
なにせ、その一撃で十メートルほども後方に吹き飛ばされ、無様に木に激突し、大きく血と息を吐き出す結果になったからだ。
ひどく痛む。木にもたれ掛かり、血の混じった咳をしながら僕は苦笑した。
──なかなか野性味のある殺意だ。
まじりっけなしの、本気の殺意。
バッソたちが向けてきた恐れや疑惑を含んだものではない。
ただ、生物としてもつ当たり前のもの。
殺意には殺意を以て応えよう。
伏見の流儀に従って。
いつものように、ショートソードでそっと左手首を自傷する。
「──“さぁ、戦いを始めよう”」
いかがでしたでしょうか('ω')
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