第41話
今日も三話更新頑張ります('ω')
冒険者ギルドの地下は円形の訓練場のようになっていて、それなりの広さがあった。
足場は踏み固められた砂で、その周囲をぐるりと壁が覆う形だ。
「試験って言われると一気に緊張しますね」
僕が苦笑いをしてみせると、ミリィがため息をつく。
「あなたの場合は、むしろやりすぎない努力をするべきだと思うわよ」
釘を刺されてしまった。
「試験は、依頼を受けた先輩冒険者が、『新人が戦えるかどうか』の基本的な力を測るものなの」
「じゃあミリィさんにやってもらえばよかったんじゃ」
「絶対嫌よ……」
そんな心底嫌そうな顔をしなくてもいいと思うのだが。
「にーさんやったら余裕やろ? なんで緊張する必要あるんや。ドーンとぶつかっていけばええねん。もしかしたら試験官にだって勝てるかも知れへんやん?」
「ヤールン。ユウがドーンとぶつかったら、試験官の葬式を挙げるハメになるわよ……」
などとよもやま話をしていると、階段から数人の冒険者が姿を現した。
先頭は豹の獣人と思われる槍を持った男性。
その後にエルフらしき杖を携えた女性。
そして、革鎧を着込んだ、熊ほどの大きさの巨大なウサギである。
「やけにリラックスしてるじゃないか、新人。今日の試験は俺達が務める。俺はゲラート、エルフはミスティン、ウサギはラライだ」
「ウサギいうな」
巨大ウサギがしゃべった!
目を丸くしてラライと紹介された巨大ウサギを見つめていると、その視線に気がついた巨大ウサギが僕に向き直った。
「『フィールドランナー』を見るのは初めてかい? 新人」
「ええ、ええ。初めてです。ユウといいます。よろしくお願いします、ラライさん」
立ち上がって前足を差し出すラライ。
ふわふわの前足と握手を交わす。
腹毛がふわふわだ……!
抱きしめたい!
「みろ、ゲラート。この新人のほうがよっぽど礼儀がなってる」
「自己紹介はわかりやすくて短いほうがいいだろ。早速始めたいが、いいか? 新人」
ゲラートは訓練場の中に歩いていく。
「あの、どういった方法かわからないんですが」
「冒険者といえば実戦さ。大丈夫、ミスティンは回復魔法が使える、怪我の心配をする必要はない」
ラライが僕の背中をトントンと叩いて訓練場へと促す。
「なるほど、わかりました。ゲラートさん達三人と、ここで戦って実力を測ってもらえばいいってことですよね」
ぴくりとゲラートの顔が険しくなる。
「ん? まさか俺達と同時にやるつもりでいるのか?」
うしろでミリィが「あちゃー」という顔をしているが、どうしてか。
「仲間の助力は原則禁止。お前一人でやるんだぞ? わかっていて言っているのか?」
「ゲラート、きっと言葉のあやよ。新人に突っかかるのはおよしなさいな」
エルフのミスティンがゲラートをいさめるが、状況を理解していない僕の顔に苛立ちをさらに募らせたようだった。
「ミスティン、新人に厳しさを教えるのも俺らの仕事だ。訓練場に入れよ、新人! 俺達三人が相手してやる」
ゲラートは腕を振って僕を訓練場に誘った。
中央部で槍を構え、鼻を軽く鳴らして僕を待ち受ける態勢だ。
「いつでもかかって来い。世間の厳しさってのを新人に教えてやるよ」
「あ、はい。お願いします。それじゃあ……行きますね」
一応一言断ってから、僕は地を蹴った。
ゲラートの目前へ一足で踏み込み、やや加減をして掌打を腹部へと放つ。
「ゴフぁ……!」
掌打を遮るようにパリンパリンと何か複数の皿でも割ったような謎の音がして、打撃力を緩和したのがわかった。
……それでも衝撃を逃がしきれず、ゲラートは訓練場を転がって行く羽目になったが。
「<多重防壁>!」
即座に態勢を立て直し、立ち上がろうとするゲラートに透明な六角形の光がたくさん重なり、鱗の様な膜が形成されていく。
続いてすぐに回復魔法が放たれて、ゲラートがすっくと立ちあがった。
これが白属性の魔法か!
防御と回復に秀でた魔法であるとは聞いていたが、実際見るとなかなか便利そうだ。
自分に使えないのがとても惜しい。
白魔法に見とれていると、側面から白い巨体が高速で接近してきた。
速度もそのままに鋭い回転蹴りが繰り出される。それをぎりぎりで回避するが、それを見越したように、さらに続いて二段蹴りが放たれる。
スウェーと身を低くした踏み込みでそれを避けた僕は、踏み込みのまま正拳をラライに撃ち込む。
が、本気ではないとはいえギリギリ躱されてしまった。
この兎もなかなかやり手だ。
「新人相手に大人げないと傍観を決め込むつもりだったけど……新人! お前さん一体何者だ?」
「少し嗜んでいるだけの新人ですよ。まだ続けたほうがいいですか?」
殺し合いでもないのに、むやみに傷つける必要はない。
回復魔法の効果がどこまであるのかは少し興味はあるけれども。
骨折位なら治してしまえるのだろうか?
僕の問いに、ゲラートは武器を収めて応えた。
「いや、十分だ。俺達も実力差が測れないような新人じゃないんでね」
ため息交じりに苦笑を僕に見せる。
「申込用紙を貸せ」
ゲラートに申込用紙を渡すと、ゲラートは訓練場に備え付けてある机まで歩いていき、受付で押してもらったハンコと同じ青いインクを親指に塗って、拇印の様に用紙に押した。
そして、羽ペンで何やら書き込むと、少し確認してから用紙を僕へ返した。
「よし、これで終わりだ」
「どうでしたか」
どのくらい戦えればいいのか、いまいち尺度が判らない僕は、少し不安になって訊ねる。
「俺達が認めるまでもない。C級の俺達三人相手にあれだったらC級、いやB級開始でもいいくらいだ。どうやったらそんなに強くなれるのか、俺がご教授願いたいもんだな」
そう笑いながらゲラートは僕の肩をぽんと叩いた。
「仕事が一緒になったときはよろしく頼むわね?」
「ぼく達に楽させてね?」
ミスティン、ラライとそれぞれ握手をする。
握手をしながら、僕はどこか心が温かくなるのを感じた。
元の世界では感じることの少なかった、人に認められることの嬉しさが心を満たしている。
三人は手を振って先に階段を上っていき、訓練場には僕たちだけが取り残された。
「ミリィさん、あんなものでいかがでしょうか?」
「最初の一撃を見たときはちょっとヒヤッとしたけど……ね」
ミリィは安堵した顔を見せ、僕はいつもどおりの苦笑いをした。
「にーさんは……もしかしてすごい人やったんか……?」
横で驚いた表情を崩せないでいたのは、E級冒険者だった。
「それなりに嗜んではいますけど」
「それなりでC級冒険者一撃はありえへんで……」
「ヤールン、驚くのも無理ないわ……私はもっと驚いたもの」
ヤールンの正常な反応に、ミリィは本日何度目かの苦笑をすることになった。
「そ、そんなことよりですね。登録に行きましょう。ミリィさんこれで終わりですか?」
「ええ、そうね。あとはその用紙を受付に渡せば完了よ」
階段を上って、総合カウンターへ向かう。
カウンターでは、先ほどと同じエルフの受付嬢が待っており、僕を見つけるとにっこりと微笑んだ。
いかがでしたでしょうか('ω')
モフモフです。